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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日①

愛してる、そばにいて0125

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 昨日の早朝に顔を見せた司は、夜になって訪ねてきた。
 現在の彼は道明寺ホールディングスの副社長職を勤めているというのだから多忙なのだろう。
 堂々たる体躯のスーツ姿の、いかにも大人な司にも見慣れることができず、つくしは結局、俯くことしかできないでいた。
 それでも間に戒を挟んで、二人っきりの対面ではないだけまだマシだったのかもしれない。
 勝手知ったるなんとか。
 司は無言のつくしの態度にも構うことなく、さっさと彼女の傍らの椅子へと腰を下ろす。
 「どうだ?頭痛とか、気分悪ぃとか、その後なんかおかしいことねぇのか?」
 「……特には」
 「そっか。前の時には…身体のこととかもあって、中々回復に時間かかったけど、今回は見た目どおりの怪我以外は、それほど大したことがなかったみたいだからな」
 ――大したことがない。
 記憶のありなしを別にすれば、確かにそのとおりで、足の怪我にしても肩にしても、日常生活が困難になるほどの大怪我ではなかった。
 実際、検査入院が主で、こんな事態でなければ当日、遅くても次の日には退院して、邸に戻れていたことだろう。 
 「お母さん、誰か来たの?」
 父親の膝の上によじ登り、両親の顔を交互に見やって所在無げにしていた戒が、ベッドのサイドテーブルの上の箱に目を止め首を傾げた。
 「あ、ああ…うん」
 つくしも戒に話題を振ってもらい、場持たせ的にホッと小さく息をつく。
 手を伸ばして箱を手元へと引き出し、丁寧に包装を解いて蓋を開ける。 
 「昼間ね、パパ…おじいちゃんとおばあちゃんが来て、お見舞いとお土産を置いていってくれたの」
 「なになに?」
 「土産?」
 喜々としてつくしの手元を覗き込む戒を支えながら、司が首を傾げている。
 真っ直ぐに顔を見返すことなどとてもできなかったが、それでも戒の手前、つくしも司の会話に応じた。
 「えっと…、その、パパたち、今朝まで京都にいたらしくってね」
 「京都?」
 「…うん。そろそろ流しそうめんが美味しい季節だから、って」」
 牧野家らしからぬ動機。
 そんな理由でなくても、おいそれと旅行になどいける経済状態ではなかった家計事情から一転、さっき会った両親の様子では、それは今に始まったことではないようで、まるで何十年もそうして過ごしてきたかのような優雅な生活状態のようだった。
 あくせくする事もなく、のんびりと…それこそ何一つ自分たちで努力せずとも手に入る安楽。
 むしろ、窶れて見える司の方にこそ、その日常の過酷さが垣間見える。
 わずかに白目が充血して、目の下にはクマがあり、
昨日は俯くばかりだったつくしは気が付けなかったが、司の顔には疲労が色濃かった。
 覇気のある男だから一見してはわからないが、かなり無理をしているのかもしれない。
 若い頃の放蕩三昧だった彼からは、まったく想像できないが、副社長という要職がかつてのように遊び暮らしているだけのボンクラでも務まるような甘いものではないことくらい、高校生に退行してしまっているつくしにでさえ想像に難くなかった。
 「そうか、今ちょうど祇園祭の時期だからな。それを見に行ってたんだろう。それなのに、急に呼び出したりして心配させて悪かったな」
 「………」
 何度となく感じさせられた違和感。
 かつての司ではありえない気遣いが尚更のこと、過去の彼との相違を際立たせていた。
 だがしかし、たとえ多少そこに成長があったにしろ、そんなことはつくしには関係ないことだ。
 ただ、腹立たしい。
 彼が彼であるというだけで、司の一挙一動すべてが憎々しく許せなかった。
 つくしのことなのに、つくしの両親へ見せる司の気遣いは、彼女の本来の家族である両親よりも心理的に近い事を指し示している。
 それでいてかつてのように、いかにもつくしに対しての所有権を誇示しようとする言動ではないだけに、現在の司のつくしへの位置づけがなおさらのこと身につまされた。
 …あんたに言われる筋合いじゃない。
 そう言いたいのに、戒の手前、言うことができずに唇を噛み締める。
 「これってなに?」
 海外暮らしの長い戒が不思議そうに、箱の中の菓子を突っつく。
 「あ、ああ…、生八ツ橋」
 「生八ツ橋?」
 「食べたことない?」
 「うん。お父さんはある?」
 「ねぇな」
 興味津々の父子に差し出せば、喜々として大小の手が伸ばされた。
 「餅か?」
 「うーん、まあ、そんなようなものかな」
 「なにこれ…」
 パクッと口に入れた子供のしかめっ面からして、どうやらイマイチの評価だったらしい。
 「あんまり好きじゃなかった?」
 「…まずぅ」
 「…………」 
 無言の司の顔をチラッと伺えば、さっきまで大人然と澄ましていたくせに、戒とそっくりな表情で顔を顰めていた。
 「ぷっ……」
 思わず小さく噴き出したつくしを見返す顔までもが、瓜二つで、それがなぜだか無性におかしかった。
 …凄い、こんなにソックリな顔した親子っているもんなんだぁ。
 少し違うかもしれなかったが、なんだかマトリョーシカ人形(※ロシアの入れ子式の民芸品)を思わせる。
 「お母さん?」
 怪訝な顔の戒に小さく手を振り、咳払いをして誤魔化した。
 「ん、ん~っ、なんでもない。どれどれ、あたしも久しぶりだから、一個食べようかな」
 母が置いていった時にはツマむ気にもならなかった菓子を一枚手に取り、口に放り込む。
 口内に広がった、どこか懐かしい甘い餡子とニッキの独特な味わい。
 …中学の修学旅行の時以来だから、何年ぶりなんだろう。
 「美味しいじゃない」 
 「ええ―――ッ!?」
 「………マジか」
 驚く二人に小さく笑う。
 「まあ、実はあたしも初めて食べた時には、あんまりって思ったんだけどね」
 「うん、美味しくないよ」
 「これってシナモンか?」
 「ん~、どうなんだろ?」
 似ている気がするが、つくしもそれほど詳しく知っているわけはないので、司の問に答えられない。
 「ニッキって知らない?子供の頃食べたことないかな」
 お金持ちのお坊ちゃんが果たして、庶民の味わいなど知っているか謎だったが、とりあえず司へと聞き返してみる。
 「ニッキ…ああ、シナ肉桂って奴だな。シナモンと近縁種のスパイスだから、同じといえば同じと言えるかもしれねぇが、こっちはずいぶんシナモンより刺激が強めだな。俺は苦手」
 「俺も」
 「…あたしも、かも」
 顔を見合わせ暗黙の了解で土産の蓋をそっと閉め、再びサイドテーブルの上へ置く。
 「お母さんだって、あんまり美味しくなかったんじゃん」
 「美味しくないわけじゃないよ…ちょっと、苦手なだけ?」
 「ええ~、なにそれぇ~?」




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