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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日①

愛してる、そばにいて0123

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 「「…つくし」」
 晴男と千恵子が異口同音につくしの名を呟き、呆然と顔を見合わせている。
 「それに…ここ10年のことも憶えてないの。あたし、あいつの奥さんなんだってね。ほんと、信じられない。なんの冗談って感じ」
 顔が歪むのを堪えられない。
 息を飲んだ二人の顔は、この日が来ることをまったく予想だにしてもいなかったと言っていた。
 …本当に?
 けれど、小さな疑惑と可笑しみがつくしの中で湧き上がる。
 次の千恵子の言葉が、そのつくしの疑惑を確信に変えてくれた。
 「…どうして、そんな」
 「どうして?」
 なにがどうしてなのだろう?
 10年前にも聞いた事実に、いまさら驚いているわけではないだろう。
 「どうしても、こうしても、あたしにだってわからないわ。お医者さんは、たぶん、階段から落ちたことが直接の原因となって、思い出すことができたんじゃないかって言ってた。詳しいことはわからないらしいけど、それで古い記憶が戻って、最近の記憶がなくなっちゃった。ただそれだけのことなんじゃない?」
 「「…………」」
 「こういうのって瓢箪から駒っていうのかな。あいつの奥さんだった時の記憶なんて、あたしも持っていたくないもん。ホントは道明寺の記憶自体、丸ごとなくなって欲しいくらいだけどね」
 動揺し絶句している両親に、おどけてみせる。
 もちろん言葉尻ほどに、軽い気分ではなかったけれど。
 …もしかして、あの時と同じ事を言うつもり?
 ―――キズモノにされた。
 ―――泣き寝入りするものか。
 ―――端た金などではなく、司に責任を取らせる…とあの時の千恵子は憤って泣いた。
 そこには確かに、母としての娘への愛情もそこにはあったようにつくしも思う。
 だが、千恵子の言ったその責任が、単純に司に社会的制裁を求める、とか、あるいはせめてつくしへの謝罪を意味していたなら、どれだけ彼女の救いになったことだろうか。

 しかし、両親が望んだのはまったく別の責任。
 司の意思を後押ししてしまった。
 つくしを底なしの奈落へと落とし込んだ。
 そして…、
 「……だから、なんなの?」
 信じられない母の言葉。
 「ママっ」
 さすがに晴男が焦って、千恵子の片腕を掴む。
 「いいのよ、パパ。この子ったら、この期に及んでまたバカな倫理観持ち出そうとして」
 「…バカな倫理観?」
 「あんたは夢見がちすぎるって言うの!そりゃあね、あたしだってさすがに、そんなことがあっただなんて、あの当時聞いた時には驚いて、狼狽えてしまったわよ?」
 「…………」
 それは嘘ではないだろう。
 つくしの痛みを思って、泣いてくれた母の涙までもがウソだったとは、彼女も思いたくない。
 ―――悔しい、馬鹿にして。貧乏人だからって、踏みつけられて黙ってたまるもんですか!
 そう言って憤ってくれた。
 けれど、相対した司の態度とその申し出に、あっさりと180度、主旨を変えてしまったのだ。
 「あの時も言ったわよね?きっかけはともかくとして…」
 「きっかけ?」
 「あれだけの人が、あんたのことを真剣に想って、真摯に将来を考えてくださった」
 「……っ!」
 「実際に、今あんたは、道明寺家の若奥様。あたしたちにまでその恩恵を注いでくれて、道明寺さんはとても良くしてくださっている」
 
 10年前に感じた絶望と怒り…拒絶感、そして虚無。
 わかりあえない。
 よく知っていたはずの両親が、見も知らぬ化け物へとすり替わってしまったかのような恐ろしい錯覚。
 再び思い知らさた思いに、つくしは呆然と息巻く母から父へと視線を移した。
 さすがに母ほどの確信がないのか、それとも単に都合の悪いことには直面したくないのか、つくしの視線を恐れて、晴男はやましげに視線を反らす。
 もうそれだけで、何を言わすとも晴男が千恵子と同じ意思なのは明らかだ。
 …あたしの気持ちなんかどうでもいいんだ。
 彼らにとって重要なのは、大富豪の男に見初められ、玉の輿に乗った娘の威勢を利用して、今の生活を守ること。
 「愛だけで生活なんて成り立たないのよ。あたしを見なさい。パパのことは好きよ、そうね…愛してる。恋愛結婚だった。でも、パパは怠け者で、野心もなければ能力もないという人」
 怒るでもなく、晴男がバツが悪げに視線を彷徨わせる。
 父はいつもそうだ。 
 都合が悪いと逃げる。
 安易な道に流されて家族に迷惑をかける。
 それでも会社組織という中に組み込まれているうちは、万年平社員でもなんとかやっていけた。
 見栄っ張りな母などは悔しい思いもあっただろうが、愚痴るくらいのことで、大した苦労らしい苦労とも言えなかっただろう。
 けれど…。
 「それに比べて、今のあんたはどう?誰もが羨む素敵な男性に愛され、大切にされて、しかもその人は世間にも名の知れた大財閥の御曹司。そんな人に溺愛される…そんな幸運、どんな夢物語やシンデレラストーリーでだって望むべくもないことだわ。名誉、地位、富、そして愛、あんたが望めばなんでも道明寺さんは叶えてくださる。叶えるだけの権力さえあんたのもの。それらすべてを手に入れているなんて、本当に凄いことなのよ」 
 「望んでない!」
 自分が望んだことではなかった。 
 愛されてる?
 それがなんだというのだ。
 どんなに凄い男に愛されていようと、自分が愛してない男に無理矢理に奪われ、囚われて、強要される何をもって愛だというのか。
 どこが幸せ?
 そして第一、あの司のどこに愛があるというのか。
 少なくても10年前の司の自分への執着を、愛だなどとつくしが思えたことはなかった。
 …あんなの愛じゃない。
 司がどんなに言葉を尽くそうと、そこにあるのはエゴと固執があるばかりで、つくしが思い描く愛や幸福とはあまりに隔たっていたのだ。
 「昔…最初のことはどうあれ、今のあんたは、道明寺さんに贅沢させてもらって、大切にされてるんでしょ?」
 …贅沢。
 結局はそこへ行き着く。
 そしてそれはつい最近、奇しくも記憶を取り戻すことを望んでいた、以前のつくしへも告げられていた千恵子の言葉…つくしは憶えていなかったけれど。
 「それにもうそんなこと、今更言い出してどうするの?」
 「…いまさら?」
 なにが今更だというのだろうか。
 何度となく自分に言い聞かせてきた言葉だったが、それを母親である千恵子に言われてしまうことがこの上なく腹立たしく、哀しく…辛い。
 「まあ、今のあんたは混乱してるらしいから、あまり強くも言えないけど。それだったら、これを見て?」
 膝の上に置かれていたハンドバックの中から取り出したスマートフォン。
 パ、パ、パッと何事かを切り替え、つくしへと差し出してくる。
 そこに映っていたのは…、
 「道明寺さんが折に触れて送ってくれた、あんたたちの家族写真。憶えてない?でもね、確かにあんたはいま現在、道明寺家の若奥様だし、この写真を見てもまだ自分の10年間が不幸だったとでも言うつもり?」
 そこにあったのは、幸せそうな笑顔に満ちた一枚の家族の肖像。
 戒を膝に抱くつくしの肩を抱き寄せ、微笑む司と…満面の笑顔のつい一昨日までの…10年後の自分だった。




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