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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日①

愛してる、そばにいて0119

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 覚悟しているつもりで、全然覚悟なんてできていなかったことにつくしは気がついた。
 けれど、昨日タマに司の帰国のことを聞いた時には、
 『…いまさらでしょ』
 ただそれだけを思った。
 死ねなかったし、狂うことさえできなかったのだ。
 妙に図太い自分にうんざりした。
 知らないうちに10年経っていようと、そうでなかったにしても、つくしの現状に大して変化がないのならば、自分のスタンスは変わらない…そう思っていたのだ。
 …どうせ、あたしは囚われの身。
 記憶喪失だがなんだか知らないが、司と結婚してる?子供がいる?だから、どうだというのだとしか言いようがないはずだったのに。
 しかし、司の顔を見て、まずは『それだけのこと』のことではなかったと思い知らされる。 
 …本当に、これが道明寺なの?
 戒がつくしと司の子供であるのなら、また戒が‘お父さん’と呼ぶのなら、今目の前にいる男が司以外の何者でもあるはずがない。
 だがそれでも…。
 「どうだ、具合の方は」 
 穏やかにかけられる声に、つくしはゴクリと唾を飲み込む。
 何も言えず、ただ司の顔を見上げたまま、目を見開く彼女へと優しく微笑み掛け、自分の長い足に懐いている彼そっくりな子供の頭を撫でて、司が室内へと足を進めた。
 ゆったりとした歩み。
 いつもどこかギラギラしていて、何かに飢えたような殺伐とした空気を纏い、皮肉に笑んでいた男と同一人物などとは、とても信じられない。
 言うなれば、穏やかだとさえ言える柔らかさと余裕を感じさせる…大人の男の顔。
 呆然としている間に、司にベッドの傍らに立たれ、つくしは思わず顔を司から背けて俯く。
 甘いコロンの香りに微かに混じったタバコの臭いが、なおさらのこと、彼女の記憶の中の司と重ならずに困惑を深めた。
 黙り込んでいるつくしをどう思っているのか、司は小さく息をつくと、すぐそばにある椅子を引き、腰を下ろす。
 臆病な小動物よろしく、チラチラと彼を伺うつくしの視線の先、平均的な高さの椅子ではいかにも長い足を持て余して窮屈そうだった。
 彼女がそんなつまらないことにばかり気にかかってしまうのも、一つの現実逃避なのかもしれない。
 あのクルクルに巻いた巻き毛も、端正な美貌も、日本人離れした抜群のスタイルもそのままなのに、どうしてこんなにも違和感を感じてしまうのか、つくしは自分でもわからなかった。
 「…タバコ」
 だから、知らず知らずのうちに、自分の口から言葉が洩れていることに気がついたのは、司の反応が返ってからのことだ。
 けれどつくしの質問の意図とは異なって、返ってきた返答はまったく見当違いの気遣いだった。
 「あ、ああ、わりぃ。気がついちまったか。お前が嫌がるから、辞めたつもりだったんだけどな。ここんとこ出張続きで、お前といれないことが多くて、どうにもイラついちまったもんだから、つい…な」
 タバコを吸ってしまったことに対する言い訳。
 …ありえない。
 気まずい空気が漂い、息が詰まる。
 ぎゅっと小さな手に手を握り締められ、顔を向ければ、不安そうな目をした戒と視線があった。
 彼女が司に違和感を感じている以上に、戒がつくしに違和感を感じていないはずがない。
 つい先日までとはまるで魂そのものが入れ替わってしまったような母親に、戒が実は気がついていたことに、初めて今つくしも気がつかされる。
 無邪気に彼女にまとわり付きながらも、その不安げな眼差しは、今初めて注がれるものではなく、事あるごとにつくしへと問いかけていた。
 お母さん、どうしちゃったの?
 いったい何がどうなってるの?、と。
 …あたし。
 自分だけのことで一杯一杯だった。
 この子供に馴染むことさえ今のつくしにはハードルが高くて、ただできるだけ傷つけたくない、それだけは肝に銘じてはいたけれど。
 「チッ……あんま時間ねぇか」
 司でもなければ似合いそうにもない、いかにも高級そうな意匠の腕時計を覗いてぼやき、ついでのように戒の頭へと片手を伸ばす。
 ベッドに縋って静かに座り込み、両親の顔を交互に見比べては、落ち着かなげな我が子の頭を撫でて慰めている。
 優しい父親の顔。
 そしてそんな父親へと、無心の信頼を寄せる子供。
 「お前もお母さんの顔見れたから、満足しただろ?」 
 「う、うん」
 本当は何か言いたいのだろうが、わずか4才の子供にこの場の微妙な空気を打破することなどできるはずもない。 
 「幼稚舎の帰りに、またタマにでも連れてきてもらえ」
 「…お父さんは?」
 「俺は…今日はもう、ちょっとここに来るのは難しいな。屋敷の方には帰るから、お前もあまり遅くまでここに入り浸って、お母さんを疲れさせるな」
 「……わかった」
 ほとんど言葉らしい言葉を交わさず、和やかとは言い難いつくしとのつかの間の対面を済ませて、司が椅子から立ち上がる。
 俯いたまま黙り込んでしまっているつくしのツムジを、司は遣る瀬無く見下ろす。
 「つく…牧野」
 ビクッ。
 怒鳴られたわけでもなく、威圧されたわけではなかったけれど、それが司と過ごした…つくしの過去の日の習い性だった。
 …そうだ。こいつはあの頃、いつも俺に怯えて、怖がってた。
 まるで夢物語であったかのように遠ざかっていた過去が、今まさに、目の前へと実体を持って蘇ったのだ。
 罪。
 まさにそれは罪。
 罪に追いつかれた。
 司の愛そのもの、この世のなによりも大切な女が、彼を憎み恨んで毛嫌って…その罪をまざまざとつきつけ、忘れるなど赦されることではないのだと告発する。
 「お前とはあらためて話すことがたくさんある。たぶん…お前自身も今は混乱しているだろうが、…俺もまだ整理しきれていない」
 「…………」
 「それでも…今日、お前の顔を見れて、俺は嬉しかったし、それだけで安心した」
 それが本心だと理解せざるえないどこまでも甘く切ない声音。
 それでもつくしはだんまりを決め込み、身動きすらせずにひたすら彼が立ち去ってくれるのを待つ。
 …早く出て行ってっ。
 そうでなければ、この罪もない幼い子供の前で、わけもわからぬ悲鳴をあげて、ただただ怨嗟と呪詛を撒き散らし、泣き叫ぶ誘惑に勝てなくなってしまうかもしれなかったから。
 トントン。
 ノックの音が届いて、女の声が外からかけられる。
 『申し訳ありません、副社長。社の方から至急の連絡が』
 「ふぅ…、仕方ねぇな」
 司は胸ポケットからスマートフォンを取り出すと、どこかの番号を呼び出しながら、戒へと声を掛ける。

 「戒、先に車行ってるから、お前もすぐに来いよ」
 「はい」
 「じゃあ、また…な」
 バタンとドアが閉まる音とともに、司の気配が部屋から消える。
 すぐに男女の話し声が聞こえ、携帯電話で話しているのだろうか、司の声での英語でのやり取りが始まって、それもやがては遠ざかった。
 「~~~はぁッ」
 つくしは大きく息を吐き、一気に緊張を解いて、シーツに包まれた自分の両足に懐く。
 「お母さん」
 「………ん?」
 脱力した体はよほど緊張していたのだろう、戒の呼びかけにも、すぐに起き上がる気になれない。
 「お母さんってば」
 それでも、懇願するような小さな声に顔を上げた。
 「なに?」
 「お母さん、お父さんと喧嘩してるの?お父さんのことが嫌いになっちゃったの?」




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