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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪③

愛してる、そばにいて0110

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 …ここ、どこだろう。
 信じられない話だが、つくしはすっかり邸内で迷子になっていた。
 基本、いつも決まった道筋―――自分の部屋から玄関の最短距離を歩くくらいで、後は探検するような心境でも立場でもなかったから、実際にこの道明寺邸がどれくらいの広大さを持っていて、どういう作りになっているのか、あるいはどこにどの部屋があるかなどをまったく把握していなかったのだ。
 …しまったな。
 呆れたことに英徳学園の校舎よりよほど建築面積がある建物だ。
 司の目を怖れて、人目を避けているだけによけいに司の母親の所在がつかめない。
 …誰かに聞こうか。
 あるいは、自室に戻って小川に尋ねるか。
 そろそろこの時間帯なら、3交代のメイドのうち夜勤の担当者に代わって、小川が出勤してきている時間帯のはずだ。
 とはいえ、小川を巻き込むことに躊躇していたから、今現在のこの事態だ。
 …どうしよう。
 こんなところでグズグズしてウロついていては、司の母親に出くわす前に司に見つかってしまうかもしれない。
 もしくは、早朝には屋敷を出立するという母親に会えないことになってしまうかもしれなかった。
 「……ですって」
 「まあ…だものね」
 若いメイドたちの声が廊下の向こう側からわずかに聞こえて、慌てて物陰に隠れる。
 …う、あたし、もしかして思いっきり不審人物っぽい?
 下手をすれば泥棒と見間違えられそうなこの状況。
 それでも、味方など誰一人いないのが実情なのだ。
 せめて司の母親の所在地の見当がつくまでは誰にも会いたくない。
 そして、…できれば現在、司がどこにいるのかも掴んで置きたかった。
 騒ぎになっていない方をみれば、つくしが部屋から出ていることに司は気が付いていないのだろう。
 …それも希望的観測ってやつかもしれないけどね。って、やば、こっちに来る?
 いくらなんでも銅像の影では、真横を通られたら気がつかれてしまうだろう。
 右見て、左見て。
 …ままよ。
 極力物音を立てないように細心の努力を払って、近場の部屋のドアノブを握る。
 幸いなことに部屋の鍵はすでに開錠されていたらしく、あっさりとドアが開いて、つくしは急いで中へと滑り込んだ。
 たぶん客室の一つなのだろう。
 普段使われていないことは明らかだったが、他の部屋と同じように綺麗に清掃され、いつ誰が使っても大丈夫なように綺麗に整えられている。
 どの部屋も大差ない豪奢な内装。
 最初の頃は家具一つ、照明一つ、壁紙一つに驚いたものだが、今ではもうつくしにとっても目新しいものではない。
 馴染んでいるわけではなかったけれど、物珍しく見物するほどではなかった。
 …誰も使わないのに空調までついてたりして、いったいどれだけお金使ってるんだか。ホント、ムダもいいとこだよね。お金ってあるところにはあるんだ。
 いつもながらの感慨。
 小さな社宅に肩を寄せ合って生活していたつくしたち家族の狭い家とは、まるで違う環境。
 けれど、この宮殿のような邸が、素晴らしいものだとはつくしには思えなかった。
 …うちに帰りたい。
 ただそれだけを胸に。
 スパイよろしくドアに張り付いて、行き過ぎてゆくメイドの気配を探る。
 それでも壁もぶ厚く、各部屋には防音設備が施されているから、間近に人がいてもよほど大きな声で話していなければ、会話の内容は聞き取りづらい。
 『えっ!それ本当!?』
 それなのに、突然、つくしが張り付いているドアの前で大声が響いて、ビクッと驚いてしまった。
 本当に偶然、つくしのいる部屋の前で立ち止まってしまっただけらしく、特に彼女がそこにいることに気がついていたわけではなさそうだ。
 声の調子からして、どうやらすっかり立ち話へと切り替わってしまったようだった。
 …マズイな。
 これでは廊下へ出れない。
 壁掛けの時計を確認すれば、そろそろ7時近い。
 おそらく邸内の掃除や各部屋の開錠も一段落つき、使用人たちにも余裕が出てきたのだろう。
 『…でも良かったぁ。奥様がいらっしゃる間は、どうもお屋敷内もピリピリしちゃうしね』
 『そうよね。一々、使用人のやること為すことに口出しされる方でもないけど、うっかりご機嫌を損ねることになってしまったら…って、緊張しちゃうわ~』
 『こんな時、先輩がいらしてくださったら、って思っちゃうわよね』
 『本当。厳しい方だったけど、皆にとても良くしてくださる方だったし、唯一坊ちゃんの暴走を止められるのは、ご家族以外ではあの方だけだったものね』
 …道明寺の暴走を止められる?
 信じられない内容に興味を惹かれて、ついつくしも耳をそばだててしまっていた。
 『まだまだお元気でいらしたのに、まさかこんなに早く引退されてしまうなんてねぇ』
 『仕方ないわよ、誰よりも坊ちゃんの荒れように心を痛めてらしたから』
 『…そうよね。でもね、いくら子供の頃から面倒をみてらしたからって、坊ちゃんのことに関してそんなに責任感じなくてもいいのにって、私なんかは思うわ。そういうのって、本当は親の責任よね?』 
 『まあ、それはね』
 言葉を濁してはいるものの、相方の方も同意見であるのは明らかな口調。
 『いくら仕事が忙しいって言っても、まだ高校生の息子でしょ?それを一人っきりで放置して、一年の大半を外国暮らしって、どうかしてるわ。このお屋敷の人たちって、父親だけじゃなくって、母親もじゃない?息子がグレて、おかしくなったって、そりゃあ、仕方ないって感じ。まあ、坊ちゃん自身も普通じゃないとは思うけどね』
 『シッ』
 『大丈夫よ。みんな思ってることだし、もう奥様はお屋敷にはいらっしゃらないんだもの』
 …っ!?
 「ひっ!そ…」
 危うく声を上げてしまうところだったが、とっさに口を押さえて悲鳴を堪える。
 …そんな!そんな、そんなっ!!
 思考が空転する。
 理性では理解できているのに、感情がその言葉の意味を拒絶して理解を拒む。
 『ねぇ?なんか、今、声が聞こえなかった?』
 『え?』
 両手で口を抑えたまま、息を潜めて一心に祈る。
 …お願い、気がつかないで。
 『お…よう……す』
 『『おはようござます』』
 どうやら、もう一人誰かが現れたようで、挨拶を交わし合い、それでドアの前にいた二人も納得したようだ。
 『そろそろ、行きましょうか』
 『そうね。坊ちゃんも起きてらっしゃる頃だし、ここのところ毎日学校にも行ってらっしゃるものね』
 『本当、あの子が来てからでしょ?』 
 ホッと安堵に詰めていた息を吐き出し、飛び出した自分の名前に再び耳を澄ませる。
 が、メイドたちは移動を始めてしまったらしく、声が遠ざかり会話の内容は聞き取りずらくなっている。
 それにつくしにしてみても、司の母親に会うことが叶わなかったショックに、メイドたちへの関心も薄れ始めていた。
 …ああ。
 お馴染みの絶望感と、新たに生まれるようになった虚無感に脱力する。
 ドアに背をあて、ズルズルと寄りかかって床へと腰を下ろす。
 …道明寺の母親に会えなかった。
 それ以上でもなければ、それ以下でもない。
 もう二度とチャンスがないというわけではないだろう。
 けれどつくしの目論見は司にバレてしまった。
 …あたし、これから…どうなるんだろう。
 昨日は妊娠させられるようなマネはとりあえず回避された。
 けれど、それがなんの救いになるのか。
 先のことなど考えない。
 ただ司の母親に会う…それだけを心の支えにして、耐えてきた日々。
 しかしその希望も潰えてしまった。
 潰えてしまったようにしか、今は思えない。
 …ここでずっと隠れていようか。
 そんなバカバカしい考えさえ思い浮かんで、笑いたくなってくる。
 「ふ…っ、ぅうっ…うっ………うっ」
 泣きたくないのに、涙が溢れて止まってくれない。
 …惨めだ。
 誰も助けてくれず、誰に助けを求めることもできない。
 自分の実の親でさえも信用ができないなんて、これを不幸だと言わずして何が不幸なのか。
 自己憐憫の海に沈む不毛さにさえ、今は抗うことができそうにもなかった。
 …ここでまた眠ってしまおうか。
 もう何がどうなろうと構わないのだから、何もする気力も沸かなかった。
 …道明寺に見つかったっていい。
 他の誰に見つかったとしても、もう困ることなど何もないのだ。
 もしかしたら永遠に誰にも見つからず、ここでずっと眠り続ける自分を夢想する。
 …ご飯も食べないでずっと寝てたら、もう目が覚めずに済むかな。
 そんな悲観的なことさえ思い浮かんだ。
 夜にはまた戸締りのメイドが訪れて、あるいはもう少しすれば清掃に来た誰かに発見されるのだろう儚い妄想。
 『……の犬……しょ?』
 …眠っていたい。
 『ひどいわよね。……す………でしょ?』
 それなのに…。
 『……のご命令………だもの。仕方ない…よ』 




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