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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第三章 忘れえぬ人②

夢で逢えたら112

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 司に言い出す前に、すでにある程度の準備は済ませていた。
 だが、実際に辞めるとなると、後任への引継ぎも必要になってくる。
 司に辞意を申し出た日から3日…出張には出ていないはずだったが、司と顔を合わせる機会がなかった。
 つくしにしてみても、彼に会う勇気がないのもあるが、司の方でもおそらくつくしを避けている。
 だが、そうでなくてもこの広い邸内。
 司がつくしに少しでも会うべく行っていた努力を辞めてしまえば、意図もたやすく何日でも顔を合わせないでいることは可能だったのだ。
 要との関係は相変わらず平行線を辿っている。
 だが、辞意をはっきりと表明した以上、いつまでもダラダラとこの邸に留まっているつもりもない。
 司から明確な承諾が得られなくても、半月を目途に一度はこの邸を退去しようと思っていた。
 どのみち、司に告げた身の振り方は口からの出まかせだ。
 司の出方によっては、出まかせが出まかせでない方向に進まなければならない可能性もあったが、いまのところつくしにその意思はなかった。
 信用できない上司に自分の身の振り方を任せることなどできない。
 ロバートは恋人としても信頼度のない男だったが、つくしの根幹的な部分を理解できず、彼女にとって致命的な裏切りを犯したことで、仕事上のパートナーとしての信頼も失っていた。
 来週にはレンも帰ってくる。
 どうやらアメリカには月初めにはもう帰ってきていたようだったが、ワシントンにいたらしい。
 突然携帯から、「来週には帰るから」と連絡が入った時には、仰天し、「なんで、国内にいて知らせないのよっ!」というつくしの苦情に、レンはいつもの物柔らかい物言いで煙に巻いた。
 優しく穏やかな息子だったが、時々何を考えているのか測りがたい時がある。
 だが、年よりもしっかりとしていて聡明な彼は、一度たりともつくしを裏切ったことがない。
 何をしていたとしても、レンなりに考えた上のことであり、彼の判断を信用していたつくしは溜息一つで、息子を追及するのはやめた。
 レンが帰郷したら相談し、最有力な転居先はおそらく、ハーバード・メディカル・スクールのあるボストン。
 だが、息子の人生は彼の意志を尊重するつもりであるので、彼次第ではしばらくは別居することもありえるだろう。
 そう考えると、男と別れる以上に、つくしにとっては憂鬱なことだった。
 トントン。
 要の部屋でノックをしてみるも、留守なのは想定内だ。
 定時に診察に訪れたり、あるいは使用人に先触れをさせようものなら、あっという間に逃げられてしまうのがわかっていたので、つくしは今日は一計を案じてきた。
 この時間帯、要は別室のアトリエで絵画の先生に師事して授業を受けている。
 要つきの世話係のシュナイダー夫人や、メイドたちも同行しているから留守なのは承知の上。
 つくしと要のここのところの関係を憂いているシュナイダー夫人が便宜を図り、協力してくれたのだ。
 とりあえず、要が授業を終えるまでここで待っていれば逃げようがない。
 手持無沙汰に、ぐるりと要の部屋を見回すと、ふとキャビネットの奥の方に、見覚えのあるものが目に入った。
 まだつくしと要の関係が険悪になる前、そうそうある機会ではなかったが、つくしが出かける度に買ってきたお土産。
 『ウィキッド』のパンフレッドと先日、買ってきた『ロックオブエイジズ』のパンフレッド。
 それに、司と三人で一緒に行ったNY水族館で記念に買ってあげたペンギンのぬいぐるみが一緒に飾ってあった。
 ヌイグルミは男の子の要には不評で、散々文句を言っていたが、飾ってくれていたらしい。
 その横には、スカッシュのラケットも置いてあって、おそらくこれは司がお土産にと渡したものじゃないだろうか。
 他にも、司やつくしと3人で出かけた時に買った、ちょっとした小物たちが所狭しと大事にガラスケースの中に飾られていた。
 ここのところ要との関係に心を痛めて、要の部屋をゆっくりと観察したりする余裕などなかったが、こうしてみると、要は相変わらずつくしとの想いでの品を捨てたりせずに飾ってくれている。
 たくさんの物に溢れている中で、単に飾ってあることさえ忘れているのかもしれなかったが、まだ要とこの心の絆は切れていないような気がして、時が来ればまた再び真心が通じて仲良くなれる日がくるのではないかと、つくしはわずかな希望を抱いた。
 …もう二度と、会えないかもしれないけど。
 小さな哀しみが胸を刺す。
 だが、もう会うことはなくても幸せを祈ることはできる。
 司の幸せを遠くで祈るように、その司の分身である可愛い少年の幸せもつくしは祈らずにはいられなかった。
 ガチャ。
 「あ…」
 物思いに耽っていたつくしは、要の驚きの声で我に返った。
 「…お帰り、要。なんか、久しぶりだね~」
 ここのところ、つくしが要の病状を知る手段は、要つきの看護師からの報告のみになっていた。
 幸い、いまのところ体調を崩すようなことがなかったから良かったものの、これでは主治医の意味をなしていない。
 俯き、引き返して部屋から出ようかと迷っている少年を、つくしは今日は強く引き留めた。
 「行かないで、要。今日は話があるの。これで最後になるかもしれないから、今日だけは逃げないでちょうだい」
 「…逃げてなんかいないよ」
 怪訝そうに顔を歪める要に、ニッコリ笑って、つくしは部屋のソファを勧める。
 「とりあえず、座って?立ち話もなんでしょ?」
 要は溜息をついて、ソファに腰を下ろすと、対面のソファに腰を下ろしたつくしをチラッと伺って、顔を背けた。
 「…まず、以前に要に聞かれた質問に対する答えを言うね」
 「質問?」
 戸惑って、要はつくしの言葉を繰り返した。
 「そう。以前に、要、私にあなたのお父さんと結婚するのかと、聞いたわね?」
 要がビクリと肩を震わせる。
 それを痛ましげに見つめ、つくしは真心を込めて真摯に語る。
 自分の気持ちがちゃんと通じる様に。
 「…私はあなたのお父さんとは結婚しません」
 「なぜ?お父さんのこと好きじゃないの?」
 お父さんは、あなたが好きだよ…要は声には出さずに呟く。
 「要はいつも私には正直な気持ちを伝えてくれていたから、私も本当のことを話すね?」
 「……」  
 つくしは唇を湿らせ、少しだけ視線を伏せ、だが、すぐに要の目を真っ直ぐに見返す。
 「私は、あなたのお父さんが好き。たぶん、あなたのお母さんがお父さんを思っていたのと同じように、愛しているんだと思う」
 「…お母さんと同じ?」
 「ええ」
 「なんで、お母さんがお父さんを愛していたってわかるの?」
 「あなたを見ていればわかるわ。あなたのお母さんは貴方をとても愛している。女は自分が愛していない男性の子供を本当の意味で愛して可愛がることなんてできないわ。そして、あなたはとてもいい子だもの。そんないい子に育ったあなたが、お母さんに愛されていないなんて考えられないでしょ?」
 「…いい子?」 
 「ええ、そうよ」
 要は唇を噛みしめる。
 「あなたを無視して苛めてた俺がいい子?」
 「ぷっ。無視されて困ったのは確かだけど、要の苛めなんて、大したことなかったわよ。あんなの苛めのうちにも入らないわ」
 つくしは思わず思い出し笑いをしてしまう。
 要の苛めはソフトで、本当につくしが困るようなことはしなかった。
 10才の子供としては当然なのかもしれなかったが、つくしが怪我をしたり、濡れ衣を来て周囲から白眼視されるような真似は決してしなかったのだ。
 周囲の者たちを動かして、つくしが苦しむのを高みの見物をしていた父親の陰湿な苛めに比べたら、要のなんと純真なことか。
 …そんなところは似なくて良かったわね。
 司が聞いたらガックリきそうなことを心で思う。
 「…お父さんはお母さんを愛していなかったよ」
 ポツリと言われた言葉に、つくしの方が息を呑む。
 だが、つくしはすぐに息を吐き出して、平静に言葉を返した。
 「それは、私にはわからないわ。あなたのご両親が何を考え、どう夫婦生活を過ごしたかは私には知りえない。けれど、これだけは言えるわ。あなたのお父さんもお母さんと同じようにあなたを大切に思っている。不器用で、愛されることも愛することにも慣れていない人だから、中々あなたへの愛情に気が付かなかったかもしれないけれど、今は違うわ。要だってわかるでしょ?」
 「わかんないよ、お父さんが僕を本当はどう思ってるかなんて、わからない」
 子供でありながら大人であることを強いられた少年の苦痛はいかばかりのことだったか。
 大きな闇を抱えて惑う幼い少年は、激情も見せずに、ただ苦しげに言葉を絞り出す。
 「…なんで、あなたはお父さんと結婚しないの?お父さんが好きなんでしょ?今、愛してるって言ったじゃない。俺のせい?」
 「違うわ」
 つくしはキッパリと言い切る。
 「お父さんにはあなたがいて、私にはレンがいる。そして、大人には大人なりの事情がある。ただ好きとか愛しているとか、それだけで結婚したり、一緒にいたりすることはできないのよ」
 「…結局、あなたも誤魔化すんでしょ?」
 賢すぎるがゆえに、頑なな少年に言い募る言葉はもうつくしには思いつかない。
 「これだけは、憶えていて?私もあなたのことがとても大好き。それは私があなたのお父さんを好きな気持ちとは違うけど、でもけっして劣るものではないのよ。私がお父さんと一緒にいることで苦しむ人がいるかぎり、それを無視することなんてできないし、それじゃあ、私も幸せにはなれないの」
 要がつくしの顔をジッと見る。
 「あなたの主治医を辞めるわ」
 「…え?」
 要の口がポカンと開く。
 「このお邸もでる。もう、あなたのお父さんとも会わない」
 あれほど疎んじていたのに、なぜかつくしを辞めさせるなんて考えたこともなかった。
 この邸を去るのなら、自分の方だと思っていた。
 なのに。
 「どうしてっ?」
 「それが一番いいことだからよ。あなたのお父さんと私は、とっくにもう縁が切れていたの。それがどうしたことか、こうしてまた会ってしまった。また、同じことを繰り返すことはできないのよ」 
 つくしの言葉は謎が多過ぎて要には理解できない。
 だが、これだけはわかる。
 彼女は本気だと。
 「…お父さんは、許さないよ。だって、あなたのことが一番好きなんだもの」
 「要、それは」
 「ねえ、二人で一緒にピクニックに連れて行ってくれない?」
 「え?」
 突然の話題の変換に、つくしはついていけず、ポカンとする。
 「以前にはよく一緒にセントラルパークにも行ったよね。俺がキャサリンを無視するようになったから、行けなくなっちゃったけど」
 「…」
 「もう会えないなら、最後に一緒に遊びに行きたい。ダメ?」
 要のひさしぶりのおねだりを断れるはずがなかった。
 つくしは首を振り、承諾する。
 「…うん。明日…明日、お天気が良かったら、お弁当を持っていこうね」
 要が複雑な笑みを浮かべる。
 「…明日、晴れるといいな」




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たらお様^^

すっかり返信が遅れてしまってすいませんm_ _m

切なければ切ないだけ、苦しければ苦しいだけ、きっと
二人の幸福は大きいものになる?
でも、司君にとっては史上最大の不幸…つくしちゃんが死んでしまったという
地獄をくぐりぬけてきたので、多少のことには動じないと思います。
もちろん、生きている限り、へこまされたり落ち込んだりはするとは思いますが、
元々がつくしちゃんに地獄に蹴り落とされるのがデフォルトの彼。
きっとM的パワー?でもって復活してくれるものとw
(すいません、すっごく真面目なコメントいただいたのに、こんな返信で><)

うちの母は、俳優にも惚れこむようで、検事プリンセスでパク=シフにハマり、
パク=シフ物を借り明後日ました。
あとはチャン=グンソク、クォン=サンウなど、かなり見つくした感もあり。
なんせ、一日中見てますからねぇ^^;;
なので、「逆転の女王」や、「BAD LOVE~愛におぼれて~」とか、
俳優は違いますが、「華麗なる遺産」などかなり幅広く見ていて、
「ラブレイン」は私もハマりました。ただ、「ラブレイン」はご存知かもしれませんが
グンソク君他キャストが親子二世代を二役で演じているドラマなのですが、
1,2巻は父親世代で、悲恋の上に地味なので、3,4巻から見るのがおすすめ。
ハマったドラマは何気に、コピー(内緒ですよw)させられているのですが、
数が多すぎてわけわかめ><;「花より男子(韓国版)」にもハマってましたよw
後は、「美男ですね」「宮」「トキメキ☆成均館スキャンダル」などの売れ線はやっぱり
面白かった模様。
ちなみに、私が韓ドラにハマったのは、「善徳女王」だったという。他は固いので、
どうも時代劇は合わないのですが(日本のは好きw)、あれだけは、ピダム役の
キム=ナムギルさんに岡惚れ?しました。この話は最後は悲恋なので、実は最初、
善徳女王で二次を書きたい気持ちもありましたけどね…。
たらおさんも、お勧めの作品があったら、ぜひ!うちの母に教えてあげてくださいw
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