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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪②

愛してる、そばにいて0093

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 「いったいどこまで歩くつもりなんだよぉ」
 屋敷の建物から出て、はや2,3分のうちには、すでに司の口からこの手の文句が出ている。
 つくし的には嫌ならついてくるな、というところだが、勝手につくしの犬の散歩についてきたあげくの不平不満だ。
 「…どこまでって、別にあんたはついて来なくてもいいよ」
 それでもあまりにうるさいので、投げ遣りに答えればムッとしつつもしばらくは黙って付いてくる。
 こんな不毛な関係でしかない女の後をついて回って、一体何が楽しいのかと毎度のことながら思わずにはいられない。
 …しかも、散歩なんてしたくもないくせに。
 「あ…」
 「お…」
 そうこうしているうちに、大木の根元をさかんに嗅ぎまわっていた犬が、少し奥の草むらの中にまで入って、グルグル回っていたかと思うと腰を落とし出す。
 待つことしばし。
 「わぁ、いいウンチしたねぇ」
 「げっ」
 犬が退いたところを覗き込み、明るい歓声をあげるつくしとは対照的に、司の方は本気で仰け反っていた。
 犬の方は自分で粗相の始末をつけるつもりなのだろう。
 ササッと後足で砂をかけているが、そこは飼い主の責任。
 ビニール袋に入れたスコップを取り出し、つくしがそそくさとフンを袋にいれる。
 「…信じられねぇ」
 「………」
 どうせロクな意味合いではないだろうと返事もしない。
 が、
 「そのままにしとけばいいじゃん」
 「そうもいかないでしょ。ペットの糞尿の後始末は、飼い主の基本的なマナーの一つだよ」
 広大な道明寺邸の庭は、広さで言えばなまじの空き地や野原などよりよほど広いが、手の入れようは名の知れた大庭園にも匹敵している。
 夜間には警備犬も放し飼いにしているとのことだが、おそらく躾が行き届いているのだろう。
 これまで散歩していてもそこら中に糞便が落ちているということがなかった。
 あるいは、屋敷内の使用人たちや警備犬の世話を任されている人間が片付けているのかもしれなかったけれど、つくしだけが放置するというわけにもいかない。
 「キレイなお庭をフンだらけにしたら、ただでさえ疎まれているのに、もっと嫌われちゃう」
 「誰がお前の飼ってるペットに文句言えるんだよ?」
 司の手前、直接には言えないだろうが、つくしや犬を見る使用人たちの目が言っているようなものだ。
 それ以前に疎まれているのは犬だけではない。
 そこにはたぶんに戸惑いと困惑があるのだろうが、家人でもなく客でもないつくしを正直持て余しているのが、屋敷の使用人たちの本音に違いない。
 しかし、そんな使用人やつくしの機微になど気が付く司ではなかったし、そもそも他人の思惑などまったく気にしてもいないのだろう。
 つくしの屈託にもあっけらかんと反駁するのみだ。
 「いねぇとは思うが、お前に文句つけるような使用人とか…フザけたマネする学校の奴らがいるなら俺に言えよ」
 「いないわよ」
 使用人ならクビにする、学校の生徒なら退学にする、そんなところか。
 司の言い出しそうなことなら、もうつくしにも容易に想像できるようになっていた。
 「ぁ……いい風」
 ふいに吹き抜けた風に長い髪を巻き上げられ、目にかかった前髪をかきあげつつ風の吹いてくる方向へと顔を向ける。
 すでに夏も過ぎ、残暑も和らいだ季節。
 それでも東京の昼間はまだ、時折思い出したように暑い日もあり、昼と夜の寒暖差は激しいが、屋外にいてもわりにすごしやすい気候といえるだろう。
 暦の上では秋をすぎそろそろ冬にもなろうというこの時期に、やっとここ道明寺邸でも、紅葉の気配を感じるようになっていた。
 「キレイ」
 沈み始めた夕日が美しく、空を茜色のグラデーションに染めているのに、つくしは思わず見入ってしまった。
 つくしが鬱々として道明寺邸に囚われている間にも、世間は時を刻んでいたのだ。
 当たり前のことだが、そんなことさえ忘れていた気がする。
 絶望と悲嘆に囚われ、自分はもう二度と美しいものを見ることも幸福を感じることもないのだ、とそんな馬鹿なことを思っていた気がする。
 でも、違った。
 どんな状況にあっても、人は小さな幸せを見つけることができるのだ。

 ただ空が青い、夕日が綺麗、お菓子が美味しい。
 足元を這い回る小さな命の寄せてくれる信頼と愛情が温かい。
 そんな些細なことさえもが、すべてつくしのささくれだって傷ついていた心を癒して、ささやかな幸福を感じさせてくれる。
 ふいになんとはなしに振り返って、彼女をジッと見ていた司の視線に気がついた。
 「…なに?」
 問いかければ、司の方も無意識だったのだろう。
 ハッと我に返ったように、つくしから視線を反らし、空と同じようにわずかに茜色に染まった顔を俯ける。
 だが、すぐに傲然と顔を上げ、立ち止まってしまっていたつくしを促し歩き出す。
 「道明寺?」
 「いや、なんでもねぇ。それよりもう少し、散歩して行くんだろ?」
 「……そうだね」
 坂城がつくしの部屋での仕事を終えるまでは、もう少し時間がかかるだろうし、つくしもまだ外の空気に触れていたかった。
 「あっちに東屋があるから、そこでちょっと涼んでいこうぜ。冷え込み始めるにはまだ時間あるだろ?」
 「あ、うん」
 誘われれば、否やとは言えない。
 黙って司についていくと、少し小高いところに、この大庭園に相応しく美しい東屋に辿りついた。
 …凄いよね。これが個人のお宅だなんて、とても信じられない。
 しかも場所は世田谷…東京の一等地のド真ん中だ。
 住まい一つにしても、自分とはあまりに違う世界。
 たとえ悪夢の中にせよ、自分がこんなところにいるのが本当に信じられないと何度となく思わずにはいられない。
 司が東屋のベンチの一つに腰を下ろす。
 それを横目に、自分はどうしたものかと迷ったが、
 「ここに、座れよ」
 顎をシャクられ、隣に来いと言われれば、さすがに遠く離れたところに座るというわけも行かず、仕方なくその指示に従い、司から人一人分、間を空けた場所につくしも腰を下ろした。
 今度は司がベンチに片腕をかけた姿勢で、体を捻って夕日を眺めていた。
 いつもはマジマジと見る気もしないのに、なぜかその秀麗な横顔をつくしがボンヤリと眺める。
 …本当に綺麗な顔。
 同じ人間であることが信じられない完璧な美貌は、とても生きている人間だとは信じられないほどに整いすぎて、どうかすると息をしていないのではないかと思うことさえある。
 だが、そう思うのも、こうして静かな時間のことのみで、普段、つくしにとって司は悪夢の元凶、恐怖と悲嘆、苦悩と絶望の象徴でしかない存在だった。
 「飯」
 「え?」
 「…足りてるか?」
 何を言われるのかと思えば、つくしの食事事情だ。
 …どんだけ、あたしのこと欠食児童だと思ってんのよ。
 「どうなんだ?」
 即座に返事を返さなかったつくしに、司が気色ばむ。
 「足りねぇの?」
 「…おかげさまで。お菓子やフルーツまで用意してもらってますから、間食にも困らなくなった」
 「そうか」
 ホッとしたように小さく笑う顔を、なんだかつくしは見ていられずに、手持ち無沙汰に弄んでいたリードへと視線を移す。
 「くんくんくんくんくん」
 「うおっ」
 ひとしきり周囲の探索を終えた犬が、司の足元へとやってきて周囲を嗅ぎ始めたのに、慌てて司が長い足をベンチの上にあげる。
 「シッ、シッ、こっち来んなっ」
 慌てすぎたのか、いつもカッコ付けの激しい男が、どう見ても怯えも顕に、情けない格好で犬を追い払おうと必死で声をかけていた。




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