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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪②

愛してる、そばにいて0088

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 いまだに慣れないものがもう一つあった。
 この男自身。
 威圧的な美貌に見下ろされると、必ず体が震えて言葉がでなくなってしまう。
 「…おい?」
 返事をしないで、固まったまま司を見上げているつくしに、司が不機嫌な声を出す。
 努めてゆっくりと小さく息を何度も吐き出して、気持ちを立て直す。
 怯えることさえ司の暴発を生んでしまう危険を孕んでいるのだ。
 「えっと…」
 何の話だったか。
 「だから、なに床になんて座り込んでるんだよ?」
 気をきかせた司が、もう一度尋ねなおす。
 「別に、特になにをしてたってわけじゃないんだけど」
 まさにボウっとして、柔らかな優しさをもつ犬の背の温もりを楽しんでいただけ。
 犬の背中が、つくしの気持ちを反映しているのだろう。
 わずかに強張り、緊張が漲っている。
 それでも威嚇するまでにいたらないのは、つくしの微妙な立場を慮ってくれているのか。
 …あんたは本当に賢いんだね。
 つくしにできた唯一の味方。
 「まさか、そいつお前の部屋で飼うつもりじゃねぇだろうな?」
 「え?」
 司を見上げれば、やはり坂城や小川がいうとおりに犬が嫌いなのだろう。
 いつもは無遠慮につくしの部屋に入り込み、やりたい放題の男が、ドア口にとどまったまま、つくしと…犬のそばによろうとせずに遠巻きに話しかけてきていた。
 「えっと…ダメ、かな」
 「…………」
 ムッとした顔が、肯定していた。
 邸に連れてきていいと許可をもらったくらいだからと、すっかり自分が飼えるつもりになっていた。
 すでに、この小さな味方を失うことがひどく哀しい。
 それでも、ワガママなど言える立場ではないのはわかっていた。
 ゴクリと唾を飲み込みながら、涙ぐんでしまった自分を誤魔化すように、俯いて何度も目を瞬かせる。
 「あ、そ、そっか。じゃあ、この子、どうしたら」
 「……なんだよ。部屋ん中で飼いたいの?」
 部屋の中…というよりも、せめてこの小さな生き物に傍にいて欲しかった。
 「出来たら…そうしたい。ずっと…とかじゃなくてもいいから」
 「ずっとじゃない…って、なんだよ?」 
 「かわいがってくれる人を見つけられたら、その人にお願いして飼ってもらうつもりだし…」
 「ふ……ん」
 「…………」
 「…………」
 あとは互いに話題などなくて、居心地の悪い沈黙が続く。
 とはいえ、二人の関係は元からこんなものなのだ。
 司が話しかけて、つくしが最低限それに受け答えする。
 以前はそれでもそれなりに雑談をすることもあったけれど、今の彼らには明確な上下関係が存在している以上、つくしにはそれ以上言える言葉も、言いたいこともあるはずがない。
 「いいけど」
 「…………」
 一呼吸おいて、司がつくしのそばではなく、入口付近のカウチにドサッと腰を落とした気配がした。
 「別に貰い手なんて探さなくてもいいだろ?お前がこの部屋で飼いたいっていうなら…まあ、しょうがねぇ。好きにしろよ」
 思わぬ言葉に、つくしが思わず顔を上げた。
 いつものように、司がわずかに頬を染めて、秀麗な横顔を不機嫌そうに背けていた。
 けれど、視線は時々つくしを伺うようにチラチラと見ている。
 いつもはそんなふうに彼女を真っ直ぐに見ようとしない態度が、いかにも、つくしとなど目を合わせて話す価値もないと言外に言っているようで、気持ちを逆なでされるばかりなのに、司の無礼な態度もカンに触らない。
 「いいの?」
 「ああ。…けど、そいつ」
 司が言葉を切ったことに、つくしの期待と不安の振り子が揺れる。
 「いや…、寝室には入れるなよ」
 「……わかった」
 それがどういう意味かわからないわけではなかったけれど、それでも今は自分の願いが許されたことだけが意外で、ただそれだけでつくしの心に小さな喜びが満ちた。
 「あと……」
 なにを言われるにしても、今はこの小さな生き物を身近に置くことを許されただけでかまわない気がした。
 珍しく逡巡したように司が何度か迷った風情をしながらも、手に持っていたらしい小さな紙袋を、つくしの方へ向かって投げつけてきた。
 どうやら大して重いものではないらしく、つくしの真ん前ジャストに飛んできたその紙袋は、毛足の長い絨毯の上にポトンと落ちる。
 「やるよ、それ」
 また、アクセサリーとかそんなものかと内心のため息を飲み込み、素直に手を伸ばす。
 「……これ」
 「ひ、必要だろ?」
 袋の中身は予想に反して、小さな赤い革の犬の首輪だった。
 一緒に伸縮式のリードも入っている。
 驚いて司へと再び視線を戻すと、すでに司は椅子から立ち上がっていた。
 「もう野良じゃねぇんだから、間違えられないように首輪くらいつけておけ」
 「……」
 「後、部屋飼いすんのはいいけど、しばらくは様子見で紐はつけとけよ?うちはなんだかんだで、お前や俺以外にも人の出入りが部屋にあるし、お前には懐いてるみたいどけど、もしかして噛み癖があるかもしれねぇだろ?」
 もっともな言い分なので、つくしも素直に頷く。
 「後で室内飼い用のグッズとか、持ってこさせるからよ」
 「うん」
 背を向け部屋から退出しようとしている司の背中を呆然と見送りかけ、あっとつくしが声をかける。
 「道明寺ッ!」
 「……あ?」
 怪訝に振り返った司の顔を真っ直ぐに見ることはできずに、少し俯き加減で、それでも言葉を継ぐ。
 「その…ありがと」
 「………」
 「犬をお屋敷に連れてきてもいいって言ってくれたこととか、お部屋で飼ってもいいって許してくれたこと」
 「お、おお」 
 「この首輪も、リードも…」
 目を合わせないで話すことは失礼なことだ。
 それもいくら嫌な相手だとは思っていても、礼を言うのにそっぽを向いてるのでは話にならないだろう。
 司こそがいつもつくしに対してそんな態度をとっているのだとしても、自分まで同じレベルに落ちることはない。
 意をけっして顔をあげる。
 「嬉しい、ありがとう」
 見上げた司の顔はまるで茹でダコみたいに真っ赤で、ポカンとしたマヌケ面をしていた。
 つくしの方が、むしろ面食らってしまう。
 目を瞬かせながら、そんな司をなんとなく見守ってしまっていた。
 「お、おう」
 固まっていた司がつくしの視線に気がつき、赤くなった顔を片手で顎を撫でるフリで隠して、何食わぬ顔を装う。
 が、すっかり挙動不審になってしまった司は、無意味に体を捻ったり、手を振り回してみたかと思うと床を蹴ったりで、見たからに様子がおかしい。
 「…飯、食堂の方で用意させてるから。準備できたら、お前も来いよ」
 いい置いて、つくしの返事も聞かずにさっさと部屋を退出してしまった。
 妙な空気。
 今までとは違うどこか柔らかくも面映ゆいような雰囲気に、つくしも不思議な感慨を覚えて首を傾げる。
 …変なヤツ。
 そうとしか、言いようがなかった。




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