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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪②

愛してる、そばにいて0080

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 「チッ、チッ、チッ」
 舌を鳴らして、右左。
 見慣れた毛並みが現れるのを待つ。
 「わんっ!」
 「しぃ~~っ!」
 尻尾をフリフリ、階段を駆け上ってくる嬉しそうな毛玉を撫でてやる。
 「よしよし。いい子ねぇ」
 柔らかな温もり。
 無垢な信頼を寄せてくるつぶらな目に、つくしの荒んでいた心が癒される気がする。
 「ちょっと、待ってね」
 ゴソゴソと手に持っていた、ナフキンを広げて、おとなしく待っている犬の前へと差し出す。
 「……よし」
 つくしの掛け声とともに、はふはふと嬉しそうな声を上げ、犬が与えられた餌を一心不乱に食べだした。
 「お前ってホント、いい子だよね」
 撫でる体のあちらこちらは、これまでの労苦が現れ、いくつものハゲや皮膚病の痕が残って、いかにも野良犬の悲哀が色濃くなんとも憐れなありさまだ。
 それでもつくしがこの犬を、校舎の非常階段で見つけたばかりの頃は、それなりに警戒心も強く、もっと毛並みも毛羽立って餓えと孤独に衰弱していた。
 「雑種みたいだけど、躾もよくされてるし、可愛がられてたんだよね」
 見た目はブサ犬の類に入るかもしれなかったけれど、一度つくしに馴染めば、なんとも愛想のよい犬で、聞き分けもよい。
 「ちゃんと、呼ぶまで隠れてたり、賢い子だよね」
 どうしてこんなところへ迷い込んだのか。
 よくも英徳学園のような場所で、誰にも見つからずに入り込めたものだとか。
 いろいろ不思議に思うことはあったけれど、今やこの犬と過ごす時間がつくしにとって唯一の心の安らぎだと言っても過言ではなかった。
 タッ、タッ、タッ。
 背後から響いた足音に、つくしの背がビクッと強張り、顔色が変わる。
 「つくしちゃん!」
 振り向けない背後から聞こえた声音に、ドッと強張りが緩んだ。
 …なにビビッてんのよ。あいつなら革靴ばっかで、上履き履いたりしないんだから、足音だって違うじゃない。
 「和也君」
 「わっ、やっぱ、まだここにいるんだ。その犬」
 和也の声音はおっかなびっくりで、子犬ではないとはいえそれほど大型犬でもない犬の姿に若干引き気味だった。
 「そりゃそうだよ、こんなところにいたら誰も引き取ってなんてくれないだろうし」
 ただでさえ野良犬が新たな飼い主を得る可能性などないにも等しいのに、よりによって音に聞こえたセレブ校の生徒たちが、こんなこ汚い雑種の犬を飼ってくれるとは思えない。
 「首輪してないから、捨て犬なんだよね」
 「たぶんね」
 「僕が引き取ってあげられれば一番なんだけど、…ごめんね、つくしちゃん」
 「いいよ」
 一番の頼りの和也は子供の頃に犬に噛まれた経験があって、犬が大の苦手。
 さらに悪いことに、家族全員がそうらしく、母親が動物アレルギーであることもあって、とてもではないが青池家で飼うことなど不可能だった。
 …社宅だからうちで飼うわけにもいかないし。
 「……道明寺に頼んでみれば?」
 「え?」
 思い悩んでいたつくしの耳に信じられない名前。
 「ほ、ほら、あいつんち、凄いお金持ちなわけじゃない?たぶん警備犬とかもたくさんいるとは思うけど、ペットの一匹や二匹、つくしちゃんが頼めば飼ってくれるんじゃない?」
 「………」
 そうかもしれない。
 だが、見栄っ張りなあの男にとって、こんなみすぼらしい犬を飼うなど考えの範疇外のことだろう。
 人間でさえ虫けらのように痛めつけ、踏みつけて平然としている男なのだ。
 間違っても野良犬に哀れをもよおすことなどないだろうし、良くて保健所の人間を呼び寄せて、目にも目障りだと連れて行かせるのがオチな気がした。
 「つくしちゃんからの頼みなら、聞いてくれるんじゃない?」
 「…なんで?」
 こわごわと聞いてくる和也の遠慮がちな言葉さえ、カンに触るのは自分の中の屈託ゆえなのだろうか。
 つくしを見て、視線を落とし、らしくもなく気後れしたような和也が言いたいことはとっくにわかっていて、それでも待ってしまう。
 つくしと司の関係を和也がどう思っているのか。
 周囲の噂はともかくとして、和也から直接聞いたことがなぜかこれまでなかったのだ。
 「つくしちゃん、あいつと付き合ってるんでしょ?」
 「…………」
 司とつくしの二人を見る周囲がどう思っているかなど十分わかっていたはずなのに、和也にそう言われてしまうのがショックだ。
 「あいつはつくしちゃんのこと好きだよね」
 「……どうだろ」
 好き?
 まあ、たしかに気に入られているのかもしれない。
 自分の所有物の証だとか言って、指輪だのネックレスなどの装飾品やら、衣服、つくしが望みもしない高価なものを次から次に投げ与えてくるくらいなのだから。
 …ペット飼ってる感覚なんだろうな。
 「でも、つくしちゃんはそうじゃない」
 ハッと、つくしが和也の顔を仰ぎ見る。
 いつの間にか、つくしの視線よりもわずかに高くなった顔の位置。
 悲しそうな和也の目に出会って、今度はつくしが視線を反らす。
 「つくしちゃんらしくないって思うけどさ」
 「………」
 「何か事情があるっていうのはわかる」
 「和也君」
 「僕で何かつくしちゃんの助けになることはない?ずっと…あいつとつくしちゃんが手を繋いで学校に登校してきた時から心配してたんだ。…あいつとつくしちゃんが付き合ってるっていうのも信じられない話だけどさ、どうしていつもそんなに辛そうな顔をしてるの?あいつと付き合うのが嫌なら嫌だって言えばいいじゃない」
 …言えれば。
 そもそも付き合ってるわけでもないのに、そんなことを言えるはずもなかった。
 司とつくしの関係はあくまでも一方的なもので、司の気紛れがいつまで続くのかそれに依存している、そうとしか言えなかった。
 「やめちゃいなよ、つくしちゃんらしくないよってずっと言いたかったんだけど…」
 和也が言葉を切る。
 「つくしちゃん、僕に何も聞いて欲しくなさそうだったし、つくしちゃんがあんまりに弱々しくて、なんだか泡になって消えちゃいそうな気がしたからさ。僕、言えなかったんだ。ごめんね」




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