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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪①

愛してる、そばにいて0066

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 つくしがエントランスに到着すると、見慣れたリムジンに寄りかかって待っていた司が文句を言い出す。
 「…おせぇ」
 かなりイライラしていたのだろう。
 司の足元の石畳が、ずっと蹴りつけられていたのか擦過して、周囲の石の色合いより少し白く濁っている。
 慌ててつくしが、司の下へと駆け寄って謝る。
 こんな些細なことで、キレられるのはごめんだ。
 「ご、ごめんね」
 「この俺を待たせるなんて、お前くらいなもんなんだぜ」
 「…うん、本当にごめんなさい」
 それでも憮然とした司に片手を差し出されて、運転手が開けたドアの中へと促された。
 その手に手を引かれて、車へと乗り込む。
 つくしは、別段エスコートされなければ車にもなれないお嬢様ではない。
 しかし、それなのにこの男は、いつの間にかつくしに対しても、そういう行動をするようになっていた。
 普段は庶民だ、貧乏人だと、自分たち特権階級とは人種も違う、卑下する対象だと嘲って、あからさまにつくしを小馬鹿にしているのに、まるでどっかのお姫様でも扱うような慇懃さだ。
 現に今も、つくしの教科書やら荷物を詰めた鞄を持ち運びしてたのは司だった。
 箸よりも重たいものなど持ったことがなさそうな男のくせに、つくしの荷物を手づから持ち運びする。
 …いったい、どんな遊びよ、今度は。
 気紛れで、残酷な遊びを次々に思いつくような男だったから、けっして油断できない。
 これがまたつくしを苦しめ、卑しめるための行動の一貫であるのかもしれなかった。
 …でも、それにしても。
 司は言動も荒くて口汚いけれど、マナーは完璧だし所作は上品で、姿かたちは言うに及ばず並ならぬ美貌の主だったから、ある意味、そうした女性を守るような行動をする司はまさに王子様の感がある。
 つくしは決して彼を素敵だなどと思ったことはなかったが、客観的に見れば確かに浅井百合子や他の女生徒たちが、きゃあきゃあと騒ぎ立てて、もてはやすのもわからないではなかった。
 「…なに?」
 「え?」
 「俺に見惚れてんのかよ」
 「………」
 視線に気がつかれていたらしい。
 が、当然そんなはずもない。
 黙ってスルーしたつくしに、司も特にそれ以上は言い募らなかった。
 「で?その口んとこ、どうしたよ?」
 「え…ああ」
 「なんか、赤くなってんぞ?」
 どう言い訳しようかと考えて、そのまま話すことにする。
 「えっと、ちょっとゴシゴシ洗いすぎちゃったかな」
 「なんで?」
 …あんたにキスされたから。
 いっそそう言ってやればスッキリするだろうか。
 …まさかね。
 言えない自分の意気地のなさをわかっていて、それでもそうできたら夢想する。
 しかし、そんな些細な勇気さえも、自分にはないことを、つくし自身が一番わかっていた。
 「えっと、ほら、さっきの食事。アボガドかなんかが入ってるディップみたいのあったじゃない?」
 「ああ、あったな」
 「それのせいなのかなぁ、なんか口周りが妙に痒くってさ。…ちょっとここのところ、敏感になってるっていうか、そういうのでかぶれちゃったのかも」
 「ふぅん」
 よほど気になるのか、司はつくしの口周りをジロジロ見て観察している。
 「…医者行くか?」
 「は?なんで?」
 「なんでって、痒いんだろ?アレルギーかなんかかもしれねぇし、早めに行っておいたほうがいいかもしれねぇじゃん」
 「…………」
 もちろんつくしの口周りが赤い原因はアレルギーなどではなかったから、司の心配はよけいなお世話だ。
 一々、事細やかに干渉してくるのに、つくしは内心うんざりする。
 他の人間が言ってくれたことだったら、優しさに嬉しくなってしまうのに、この男が相手だと嫌な気持ちにしかなれない。
 「………平気だよ。いつもはそんなことないんだし」
 「まあ、お前が苦痛じゃないなら、いいけどさ」
 一応納得してくれたようだ。
 しばらく互いに窓の外を眺めて、それぞれに物思いに耽って移動の時間を過ごす。
 つくしにしても、そんな時間はもう別に気まずくなかった。
 今のところ、怒らせさえしなければ、ところかまわず盛って何かをしてきたり、暴力を奮われないらしい。
 また、司に何をどう思われても構わないくらいで、見栄もなにもなかった。
 気まずく思うのは、相手に好かれたかったり、嫌われたくない思いが多分に含まれるものだったけれど、一貫して司を嫌いなつくしには関係ない話だったのだ。
 「…それって」
 司に話しかけられて、無意識のうちに手持ち無沙汰にスカートの裾を弄っていたつくしが顔を上げた。
 「もしかして、お前、今、生理中とかそういうこと?」
 「ええっ!?」
 とんでもない話題への飛び火に、一瞬キョトンとして、ついで頭が理解してギョッとつくしは飛び上がる。
 つくしの常識ではそんなごくプライベートなことを、異性と平然と話したりすることは範疇の外のことだった。
 わずかに司の頬も赤い方を見れば、彼にとっても同様ではあるようだ。
 …こいつ、いきなり何、変なこと言い出すのよ。
 そんなことを聞いてくる神経が信じられない。
 「そうなのか?」
 「…ち、違うけど」
 「ふぅん。…でも、そういうのもある時あるんだろ?」
 …そういうのもある時って、なに?
 …なんで、こいつ、あたしに生理のことなんて聞いてくるんだろ?
 まさか、好奇心とかだろうか?
 司の質問の意図を汲み取れずに、イライラとつくしが言葉を返した。
 「なんで、そんなこと聞くのよ」
 「…ほら、さっき、ここのところ敏感になってるからどうので、痒くなったりしてるって言ってただろ?」
 「は?…ああ」
 司の中ではまださっきの話題が続いていたようで、どうやら食べ物でうんぬんを大真面目に信じているらしかった。
 「俺の姉ちゃんもそういうこと言ってる時があったからさ」
 「…ああ、あんたって、お姉さんいたんだっけ?」
 そういえば、以前に見かけた写真の美女を姉だと自慢していたことが思い出された。
 …さすがに顔かたちはこいつに似てたけど、こんな蛇みたいな冷たい目をしてなくって、優しそうな人だったかも。
 「大丈夫だって言ったじゃない。…それともまだおかしいくらいに赤かったりするわけ?」
 そこまでひどく擦ったつもりはなかったけれど。
 「いや、平気だけどな」
 「じゃあ、いいじゃない。本人がいいって言ってんだから、いいかげんしつこくするのやめてよ」
 「……」
 適当に言い訳したことで、延々と心配されるのも気が滅入る。
 さっさと話題を変えてしまうことを狙って、つくしは大して興味もないことを司に尋ねた。
 「あのさ、そういえばお買い物ってどこに行くつもりなの?」
 「ん、どこがいい?」
 「どこがいい、って、あたしに聞かれても」
 本当につくしの服や何やらを買うつもりなのか。
 「ディオール、シャネル?プラダか?」
 聞き覚えのある、けれどごく普通の女子高校生のつくしには馴染みのない高級ブランド店の名前が列挙される。
 「…うーん、そんなこと言われても、あたし、わからないし」
 「貧乏人には縁がなかったか?」
 揶揄された。
 馬鹿にされればつくしもムッとするけど、本当のことではあるので反論はしない。
 …どうせこいつには何を言ってもしかたないし。
 二言目には貧乏人、パンピー、なんの取り柄もない女。
 それがこの男にとっての彼女への認識なのだ。
 だから、そうした貧乏人に心があるとか、傷つく気持ちがあるなどとは思っていないのだろう。
 司が自分を人間扱いしないのなら、自分もまた司を人間として見なければいいのだ。
 …こんなケダモノ、あたしたちみたな普通の人間のはずないか。
 ひんやりとした気持ちが蘇って、つくしは、ふっとひそかに鼻で笑った。




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