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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪①

愛してる、そばにいて0057

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 「…それで、あいつから、お金を受け取ったの?」
 我ながら嗄れて、ずいぶん冷たい声だとつくしも自覚していた。
 母が凄い凄いと燥げば燥ぐほど、歓喜に感じ入ったような声で司を褒め称えるほどに、つくしの心は凍えて凍りついていった。
 『ん~、怒らないでね?』
 それだけでもう答えはわかった気がした。
 『お詫びとお見舞いだって凄い金額もってこられちゃってね、うふふ』
 欲望に浮かれた声は、つくしの知る母親とは別人のようだった。
 『でも、さすがにそれを受け取るわけにはいかないじゃない』
 母の意外な言葉。
 「ま、ママ?」
 つくしの声音が微かな希望に明るさを帯びる。
 『…1000万円よ!』
 「…1000万円?」
 『そっ、嫁入り前のあんたに怪我をさせちゃったからって、それだけで1000万!凄すぎ~』
 「………………」
 つくしの体と引き換えるための金額。
 それを凄いと言い切る母親。
 もちろん、千恵子がつくしがどんな目に合ったのかを知らないことはわかっていても、辛かった。
 『その上、あんたを預かって行儀見習いさせたり、教育したいなんて言い出すなんて、あたしだってピンと来るじゃない?…あんたよ』 
 「あたし?」
 『あの方はあんたが欲しいの。玉の輿のチャンスが向こうから転がってきたのよ。ああっ、もう信じられない~ぃ』
 きゃあ!と華やいだ小娘みたいな声が電話の向こうから聞こえる。 
 『ママっ、落ち着いて』
 『だって、パパのことも口を聞いてくださるって言ってたじゃない』
 電話の向こうの父の声も、思わぬ幸運に浮き足立っているのが伺える。
 『リストラの話まで聞こえてきてたのよ。いつパパがリストラされちゃうかって、心配で夜も眠れないことがあったんだから!…そのことも引き受けてくださるって約束くれて』
 母の声音から、先ほどの『怒らないでね』の意味を悟った。
 たしかに金は受け取らなかったのかもしれない。
 けれど、金に変わる代価を既に母たちは受容している。
 「道明寺はっ!」
 たまらなくなった。
 たまらなくなって…、何を言うつもりなのか自分でもわからないままに、思わず声を荒げる。
 『つくし?』
 何を言えばいいのだろう。
 これからの安寧を喜び安堵している両親をガッカリさせて、そして…心配させるばかりか、もしかしたら絶望に陥れることになるかのもかしれない真実。
 それでも…、
 「…道明寺が何を約束してくれたのかしらないけど、学生のあいつにパパのことをどうかしたり出来るわけないよ」
 『そうかもって思わなくもないけど、ポンと1000万円持って来ちゃうような人なのよ』
 「…電話しただけじゃないの?」
 『道明寺様はいらっしゃらなかったけど、使いだって言う人が来て、目の前で一万円札がギッシリ詰まった折詰渡されちゃった。なんか時代劇みたいだったわよぉ。ほら、菓子折りの下に小判とか?ね~、パパ?』
 浮かれる母に言い募る言葉がない。 
 そんな意気地はとっくに砕けて、崩れ落ちてしまっていた。
 「それ…受け取っちゃったんだ」
 『だから、受け取ってないって、さっき言ったじゃない。もっと大きなものが手に入るっていうのに、そんな端た金を受け取ってどうしするの?好意だけ頂いておきますって、ちゃんと言ったから、あんたのメンツも潰したりしなくて好印象UP間違いなしでしょ?』
 …それなら、あたしはまだ売り渡されたわけじゃない。
 司のものになってしまったわけではないのかもしれない。
 だが、足元が崩れて…逃げ場がない、そんな拘束感につくしは顔を片手で覆ったまま俯き項垂れた。
 お金じゃなくても、…代価はすでに支払われているのかもしれなかった。
 『とにかくあんたはしばらくそこでご厄介になりなさい。もしかしたら、ずっとそのままお嫁になんてこともあるかもしれないけどね』
 「…ママ」 
 『幸せになれるわ』
 それは誰のことを言っているのか。
 夢見るような口調の母の襟首を掴んで、問い詰めたい願望がふいに湧き上がって思わず呻く。
 「あたし、帰りたい。うちに帰りたいの」
 ただそれだけを望んで、司に叶えて欲しい望みは、ただその一つだけ。
 『つくし、よく考えて』
 「…………………」
 『進のイジメのこともあるんだから。とにかく道明寺様のご不興を買うことだけはないようにね。将来のこともあるんだし、与えられる好意はお受けするのよ?』




*****




 ぼんやりと窓の外を見る。
 気が付けば、母との通話を終え、無意識のうちに受話器もちゃんと置いていた。
 母から進のことを聞き、父のことを聞き、後は何をどう話して、どう会話を終えたのだろうか。
 ただ今はもう何もする気力が沸かないだけ。
 憤りも哀しみも、苦しみも突き抜けてしまった。
 きっとこんなふうに自分は壊れていくのかもしれない。
 平坦と激情の合間を行ったり来たりと押し上げられ、地の底へと叩き潰されて。
 何をしても現実のものとは思えなかった。
 この馴染まない豪奢な洋室も、着せられた肌触りの良い高そうなパジャマも、踏んだこともないようなふわふわの絨毯も、何もかも。
 不快さなどまったく感じる余地もない完全空調の部屋なのに、不思議に頬に寒さを感じて、そっと手でなぞる。
 「ふっ…ふふ。やだ…あたしったら、また泣いちゃってるよ」
 今度こそ笑うことができた。
 おかしくはないけど、笑っている方が泣きじゃくっているよりまだマジだ。
 …でも、涙が流れちゃってるから、これって泣いてるってことなのかな。
 そんなどうでもいいことで悩んで、それがまたおかしい。
 …家に帰ろう。
 母がなんと言おうと、父がどうであろうと、司はそれを許したのだ。




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