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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪①

愛してる、そばにいて0051

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 …せっかくのチャンスだったのに。
 結果的に言えば、つくしは逃げ出すことができなかった。
 鍵をかけずに部屋を出た司の気配が消えて、おそるおそるベッドから体を起こそうとしてそれに気がついた。
 体に残るダメージは彼女自身の自覚を大きく上回って、とてもじゃないけれど、逃げるどころかベッドの上に身を起こすことさえ難しかったのだ。
 足腰が立たない。
 全身がギシギシと傷んで、まるで自分の体だとは思えないくらいに泥のように重たくて…。
 もしかしたら、体のどこかが損なわれてしまったのかもしれない。
 そんなことを心配するくらいに、体が辛かった。
 見た感じ未だ五体満足でいられているようだったけれど、それもいつまでのことか。
 『…めちゃくちゃにしてやる』
 司の言葉どおり、今の彼女は精神的にも肉体的もめちゃくちゃで…ボロボロでギリギリだった。
 …どうしてこんなことに。
 身動き一つとれずに、見上げた豪奢な天井を見ながら考えるのはそんな無意味な繰り言ばかり。
 あの時、和也と別れて一人でなんて、学校に戻らなければ。
 後悔していないはずだったのに、階段を落ちて司の不興を最初に買った真木子を庇わなければ…そんなことさえ考えてしまう。
 …ううん、違う。
 そうじゃない。
 そもそも母の見栄に唯々諾々と従って、英徳などという身の丈にあわない高校になど来てしまったこと自体が過ちだったのだ。
 気が強いくせに、人に強く言われると逆らえない自分の優柔不断が招いた結果がここにある。
 「すん…うっ……うっ…ううぅ…すん…ぁううう」
 自己憐憫などしても何も状況は変わらないのだとわかっていても、今はそれしかつくしに許されている自由はなかった。
 …殺されたりするわけじゃない。
 そう必死に自分に言い聞かせて慰めたことさえ、なんの支えにもならなかった。
 …もしかしたら、あの男はそれくらいのことをするかもしれない。
 そんな馬鹿なと思いつつも、あの狂気に満ちた目や顔、暴挙が否定しきれなかった。
 司の蛇のような冷酷な目を思い出すだけで、心臓が止まりそうな恐怖に息が詰まって呼吸が苦しくなってくる。
 …怖いよ。
 助けて、ママ。パパ、進。
 暴行を受けている最中には、無意識に必死に助けを呼んだ類のことは、思い浮かべなかった。 
 あんな男…司に何を言われなくてもわかっている。
 こんな自分を類が助けに来てくれる、そんな謂れも理由も何一つないのだと。
 それでも、胸のどこかが微かに傷んだ。
 淡い初恋。
 憧れ、夢、それらすべてが一瞬で砕け散らされ踏み躙られた。
 そんな美しいものに浸ることなど、きっともう二度とはできない。
 悟りとも諦めとも言えぬ達観が、さらにつくしの絶望を深めた。
 トントン。
 軽やかなノックの音に、つくしが体を瞬時に強張らせる。
 …道明寺が帰ってきた?
 つくしの恐怖の源。
 涙が止まって、ガタガタと体が震え出す。
 額を流れ落ちた冷や汗が目に伝って、部屋の出入り口のドアを凝視する彼女の視界を滲ませる。
 ガチャガチャ、ガチャッ。
 「…失礼いたします」
 司ではなかった。
 とっさに目を瞑ったつくしの耳に、聞き覚えのない女の声が届いた。
 「……ぁ」
 それは安堵だったのか。
 それとも…。
 自分でもわからない感情の波が、つくしの身の内にワァ――ッと沸き起こった。
 相手が誰か、どうしてここへ来たのか、そんな事を考える余裕もなく、救い主となるはずの女へと心が一気に縋り付く。
 …助けてっ!
 慌てて声を上げようとして、その焦る気持ちが彼女の呼気を妨げた。
 上手く息ができない。
 悲鳴を上げて助けを呼びたいのに、気持ちばかりが焦って、焦る気持ちがまたパニックを呼んで、彼女の呼吸を詰まらせる。
 「ハッ、ハッ、た、助け……うぐっ、ゴホゴホッ、うっうえっ、ゲホッ、うううっ」
 「お、お嬢様?」
 突然、咳き込み嘔吐き出したつくしに驚いて、ギョッと女がつくしの傍らへと駆け寄ってくる。
 「大丈夫ですか?!」
 「…ぁあっ、うぐっ……ヒグ、ああ」
 意気込みばかりが先立って、呻くばかりで上手く声が言葉にならない。
 …助けて。
 …助けて、あたしをここから助けてください。
 頭の中で必死に願う気持ちが言葉にならず、口惜しさと苦しさに涙が滂沱となって溢れた。
 「お嬢様?お嬢様ッ」
 暗くなってゆくつくしの視界一杯に、見たこともない女の顔が心配そうに覗き込んでいた。




*****




 ボソボソ、ボソボソ。
 熱に浮かされ、何一つ思考の纏まらないつくしの耳に、人と人が話す声が意味もなく通り過ぎた。
 『…あ?医者…ろ。な………し……』
 聞き覚えのある低い男の声が癇癪を起こして、怒鳴る声。
 その声にゾッと怯えて、熱に震える体をつくしはギュッと縮こませた。
 『何分、熱が高いのと衰弱が激しくて。とりあえず点滴っで水分を補給していますが、脱水症状がかなり深刻です』
 今度はちゃんと聞こえた。
 おそらく医者だろう。
 怖じけた声音はそれでも冷静に、つくしの症状について説明しているようだ。
 …熱。
 熱い。
 そしてひどく寒い。
 体の表面は燃えるように熱いのに、体の芯は凍えるほどに寒かった。
 全身が痛むのが果たして熱のせいなのか、別の理由からなのか、もはやつくしにもわからない。
 今はただ眠りたいだけ。
 恐れも、苦しみも、悲しみも、すべてを遠く拒絶して。
 ただこのまま非情な現実に立ち返ることこそが恐ろしく、深い眠りにすべてを委ねてしまえれば。
 またも意識が混濁してきたのか、彼女の望みが叶って周囲の音が遠のく。
 それでも雑踏のざわめきに似た耳障りな音が、耳の奥で聞こえ続けてつくしを苦しめた。
 「…ぁ……ん…うう」
 呻く彼女の額に、ひんやりとした感触が触れる。
 それが不思議なくらいに気持ちがよくて、じんわりとした生理的涙が目尻から零れ落ち、つくしは熱い吐息を一つ吐き出した。




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