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「愛してる、そばにいて」
第2章 罪①

愛してる、そばにいて0050

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 「はあはあはあはあはあ」
 「…っ………っ………っ」
 全身虚脱した司が、下敷きにしていたつくしの背から退いて、泣いているつくしを横目に、彼女を拘束していた紐を解く。
 ヒッヒクッと嗚咽を溢し続け、啜り泣く彼女の打ちしがれた横顔には、いつもの勝気な少女の面影はなかった。
 解放されてもうつ伏せたまま、壊れた人形のように横たわって身動き一つしないつくしを眺め、司が溜息を一つつく。
 重苦しい空気が互いの間に横たわっていた。
 いや、それさえもつくしの願望ゆえの錯覚だったのかもしれない。
 この悪魔のような男にそんなまともな神経などあるはずもなかったし、人間とも思っていない彼女相手に気まずく思うわけがない。
 荒いだ息が収まって、涙も枯れ果てた頃―――。
 「……あたし、をどうする、つもりなの?」
 どこか感情の一部が壊れてしまったのか、不思議に恐怖は何処か遠く、存外につくしは冷静だった。
 …もう何をされても同じ。
 もしかしたら、昼間見た男子生徒のように今度は司に殴る蹴るの暴行を受けるのかもしれなかったけれど、それさえも今はどうでもよかった。
 おそらく虚脱状態から回復すれば、苦痛も恐怖も絶望も…すべてが蘇るのだろう。
 …どうせ、こいつにとって、あたしは炉端に落ちてる石や雑草みたいなものなんだ。
 気に入らなければ蹴り飛ばすし、踏み躙って、嘲笑うのみで、彼女に感情があるだなんて思いもせず、なんの感慨も抱かないのだ。
 一時…ホンの一時、司を身近に感じたこともあった。
 いけ好かない男だとばかり思っていた司もまた、彼女と同じように笑ったり泣いたりする感情があって、優しいところや憎めないところもあるんじゃないか、そんな風に思ったこともあった。
 けれど、結局それも錯覚だったのだ。
 わけもなく人を殴って、痛めつけ、他人を傷つけることを愉しんで笑う人でなし。
 きっと、今、こうしてつくしを痛めつけ苦しめていることさえも、少し変わった余興くらいに思って何も感じていやしないに違いない。
 それどころか面白がってさえいるのかもしれなかった。
 …まさか、殺されたりまではしない。
 そう腹を括ってしまえば、投げやりな虚無感が心を覆って痛む心を麻痺させ、鎧ってくれるはず。
 「どうする、か」
 「………………」
 司が身動きする気配に、ぼんやりと視線を向ける。
 意外にも司の顔はいつものあのいやらしいニヤニヤ笑いを浮かべてはおらず、どこまでも無表情だった。
 ベッドの上で片膝を抱えて座って、彼女の一挙一動を冷静になぜか観察している。
 「ふっ、どうしようか。お前、どうされたい?」
 聞いたのはつくしだというのに、嬲るつもりなのか逆に問い返された。
 …そんなの、決まってる。
 「…帰して。お願い、家に帰してよ」
 司の片眉が器用に上げられた。
 さっきまでは司の激情が怖かったのに、今度はその冷ややかさが怖かった。
 いつ彼の激情が再び暴発してしまうのかと、無感動だったつくしの感情がジワジワと徐々に蘇ってくる。
 「お前、わかってっか?自分がどれだけ俺をコケにしたのか」
 「…コケになんて、してない」
 「したんだよ」
 どこまでも平行線の会話。
 もしかしたら、司にとって真実などどうでもいいのかもしれない。
 「帰りたいのか?」
 いっそ優しいと言えるほどに優しい司の声音に、底冷えするほどの恐怖を煽られながらも、つくしがゴクリと唾を飲んで、小さくコクコクと頷く。 
 司が微笑む。
 「じゃあ、帰してやらねぇ。…俺が飽きるまで、お前はここにいるんだ。ずっとな」




*****




 あのあと、何度抱かれたのか。
 …抱かれた?
 つくしは一人鼻で笑う。
 加害者である司にでさえそんな意識はないだろう。
 あれは純粋な暴力であって、痛めつけるのが女のつくしだったから、より効率的な手段として使われただけ。
 実際に完遂されたのは初めてだったが、そんな手段を司にとられたのは初めてのことではなかった。
 以前には司自身ではなく、彼の手下によって行われようとした暴挙。
 あの時は、類が助けてくれた。
 …泣いても仕方がない。
 本当にそう思うのに。
 涙が流れて止まらない。
 穢らわしく悍ましい行為は、空が白むまで続いて、知らぬ間につくしは意識を失ってしまっていた。
 気が付けば、情痕の後も生々しく、一人ベッドに取り残されていた。
 さすがのケダモノも、抱き枕よろしく、いつまでもつくしとベッドをともにするほどモノ好きではなかったらしい。
 それでもいつドアの向こうから、再びあの男が顔をのぞかせ、再び狂った饗宴が再開されるかと、つくしは怯えた。
 いつもは清々しい朝の光さえも禍々しく、すべては悪夢なのではないかと現実逃避してしまいたくなる。
 けれど、右を見ても左を見ても、見覚えのない豪奢な内装が、これが夢でないということを教えてくれた。
 …あたし、どうなるの?

 昨日は肉体と心に加えられたあまりの衝撃と緊張に鈍っていた思考能力が、一夜明けて戻ってきていた。
 暴力で捩じ伏せられた体中が痛い。
 昨日張られた時に切れたのだろう。
 口の中までも痛くて、どこまで満身創痍なのかと笑いたくなってしまう。
 それなのに、実際につくしの口から零れ出たのは笑い声ではなく、嗚咽だった。
 「うっ…ふっ、うっ、うっ、うふっ」
 馬鹿になってしまったのは、涙腺だけではなかったらしい。
 ゴトッ。
 ビクッ。
 一人っきりだと思っていたのに、扉の向こうで物音がする。
 …まさか、道明寺?
 ガタガタとものが動かされる物音と、人の動く気配。
 ガチャリとドアノブが動く音に、とっさにつくしは扉に背を向け眠ったフリをする。
 ヒタヒタヒタ。
 ゆったりとした足音。
 ワシャワシャと何かを拭くような物音がする。
 いないと思っていた司は、どうやらシャワーを浴びていたらしい。
 ドキンドキンと、胸の鼓動が再び激しく動悸打ち始める。
 その音が司に聞こえるのではないかと、つくしは心底怯えた。
 …起きてるのがバレたら、またひどいことをされる。
 司がつくしの眠っているベッドへと歩み寄る気配がした。
 小刻みに震えそうな体を懸命に堪えて、なんとか寝息を作る。
 …ああぁ、バレちゃう。
 ギシリと音を立てて、司がベッドに腰を下した気配に、ビクッと体を揺らしてしまった。
 ピクピクと瞼がわずかに痙攣するのを自覚する。
 「なんだよ、寝ながら泣いたのかよ」
 指先が柔らかく目尻を拭って、頬を撫でた。
 …だめ、震えちゃダメ。
 何度か同じ動作が繰り返される。
 涙の痕の残る頬を撫で、顔を覆ってしまっていたつくしの髪を司がそっと払う。
 髪を撫でる手つきは不思議に優しいとさえ感じるものだ。
 顔や体を確かめるように辿る視線を感じた。
 永遠にも感じる時間。
 …ああ、もうダメ。
 つくしが恐怖に耐え切れず、震えを堪えきれなくなる寸前。
 「…ふぅ」
 大きく息を吐いた司が、ベッドから立ち上がって、そのまま遠ざかる。
 バタン。
 部屋を出る気配。
 けれど、つくしは安堵とあまりの脱力感に、体を動かすことさえできず、しばしそのままの姿勢で固まってしまっていた。
 恐怖の元がいなくなったというのに、体が怖じけて動かせない。
 …いなくなった?
 まだ身動きする勇気を持てない。
 いつ司が戻ってくるか。
 しかし――。
 …あいつ、今、鍵をかけなかったよね?
 司がドアを出た気配に、鍵をかける音はなかった。




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