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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第三章 忘れえぬ人②

夢で逢えたら105

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 「ふふふふ」
 「…」
 「さてっと、あんた、お茶でも飲んでく?」
 「…おい」
 つくしは、いつの間にか流れていた奇妙にマジな空気を含み笑い一つで振り払い、わざとらしく
 「あー、お茶っぱ、この辺になかったっけか」
 と、言いながらキャビネットの周辺を探し回る。
 たいていの棚には、薬品やら医療器具が収まり、とてもじゃないが食品類が収納されているようには見えない。
 「あ、あった」
 つくしが覗き込んだ先、ビーカーに埋もれるようにして茶道具も収納されていた。
 …ビーカーと同列っていったい。
 以前には、この家に常駐する医師はだいぶ長いことおいていなかったらしく、大概の場所はつくしが赴任するおりに、彼女自ら清掃にあたっていたが、住み込みの医師である彼女を初め、通いである要つきの看護師もこの部屋でお茶を飲むことも、来客がくることもまずなかったので、この近辺は手つかずとなっていた。
 他の部屋はくまなくメイドたちが掃除し、管理してくれるこの邸だったが、この部屋だけは専門器具があるだけに、立ち入りを控えさせていたのだろう。
 簡単な埃は払われていたが、器具が入っている棚などには手が入ってない。
 「スポンジや、洗剤はこの前、用意してもらったのがあるし…」
 うろんな一瞥をつくしに与え、司も仕方なしに、手近なソファーに腰を落とす。
 口説くには、あまりにも色気のない場所であることに思い当たり、時間もないことだしと、とりあえずは司も気分を入れ替える。
 お茶を飲むかと聞きながらも、まさか本当に飲むつもりとは思わなくって、ソファーに座る司をつくしはキョトンと見つめた。
 「…あんた、本当に飲んでいくつもり?」
 「あ?お前が茶を入れるつーたんだろ?さっさと出せよ」
 「えっらそぉーに。ホントにあんた、仕事、ちゃんとやってるんでしょうねぇ」
 つくしの疑いの眼差しを鼻で笑い飛ばして、司はふと目に入った写真を凝視した。
 司の会社の社員たちもそうだが、アメリカ人は家族を大事にして、よく自分のオフィスに家族写真を飾っている。
 こちらに駐米してくる日本人社員たちも郷に入っては郷に従え、自分のデスクに飾っていない人間の方が少ないくらいだった。
 その例にもれず、どうやらつくしも同じようで、窓際に置かれたつくしの執務机のパソコンの横で、明るい笑顔の彼女とその息子が二人で映っている。
 まったく似たところのない親子だったが、わずかに、頬の辺りと瞳に浮かぶ生き生きとした輝きが似ているだろうか。
 …レン・ローレンス・マーベル。
 年齢から考えて、つくしの子とは考え難いが、たった一度だけ対面した時の記憶を思い起こす。
 突然声をかけてきた自分を、怪訝に見返しながら、誰もが気後れし恐れる司にも真っ直ぐな眼差しで相対してきた。
 『…キャサリン、いえ、母が自分の意志で病院を辞めると言っているんですか?』
 ハキハキとした物言いが彼の聡明さを容易に知らしめ、その声音に含まれる母親への愛情と信頼が、知らず司に嫉妬心を抱かせた。
 写真の中の親子に浮かぶ互いに対する愛情が、その時の嫉妬心を彷彿とさせる。
 「なあ」
 「え?紅茶でいいでしょ?なんか、奥の方にコーヒーサイフォンまであるみたいだけど、だいぶ使われてないみたいで、洗うの面倒だし」
 「…いや、なんでもいい。じゃなくって、お前の初体験の相手って…」
 旦那のわけはないよな。
 息子が生まれた時分は、つくしは日本で司に蹴りを食らわせていたはずだ。
 「へ?なんですって??」
 「お前の初めての男は、誰だっつーてんだよ」
 ガッチャン。
 手に持っていた何かを、ぶつけたらしく、割れた感じではなかったが、つくしが慌てふためいてトレーの上の物をひっくり返したり、覗き込んだりして、ヒビを確認している。
 「ぎえぇー、あんたが突然変なこと言い出すから、危うくお高い茶器を割っちゃうところだったじゃないのよっ!!」
 「変なことなんて言ってねぇ。お前の初体験の…」
 「ちょっと!なんで、そんな質問に答えなきゃなんないのよっ。冗談じゃないわっ」
 「別にいいだろ。惚れてる女の初めの男くらい気になったって」
 わりと真面目な顔の司に、つくしは内心頭を抱える。
 そりゃ、マナー違反ていうもんでしょうよ。
 どうしたもんかと悩みながらも、つくしは無言で紅茶を入れて、司に差し出した。
 「なあ?」
 「しつこいわね。人が黙ってたら、そのまんま諦めなさいよ」
 「なんで、言いたくないんだ?よっぽど悲惨な初体験だったのか?」
 つくしは、遠い昔の思い出を我知らず思い起こす。
 彼女の中に残る、類との優しい時間は、男と女の情事というよりも、救いと慰め、優しさに満ちたものだった。
 それは彼女の類に対する想いそのものでもあったし、また、類の彼女へと寄せてくれた繊細で深い愛情による賜物でもある。 
 あの瞬間、確かにつくしは類を愛していたし、類もつくしを愛してくれていたと思う。
 だが、その愛情は自分自身の相手への美しいばかりの思いやりを愛する行為にも似て、その中に少しでも醜さや妬み、羨み、相手を自分のものにしたいという自分勝手さを包括した恋という感情が含まれていただろうか…。
 少なくても、つくしの中にはそうしたものは含まれていなくて、だから、時折類が寄せてくれる苦しいまでの想いが、痛く、哀しく、居た堪れなかった。
 『俺のこと、男だと思ってないでしょ』
 そうじゃなかったら、どんなに良かったことか。
 類がつくしにとって司以外に唯一男性だったからこそ、傍に居続けることができなかったのだから。
 「…なに、自分の世界に入り込んでるんだよ」
 男のぶーたれた声に、ふと、つくしは思いついたことを呟いていた。
 「あんたは、どうなのよ?」
 「ん?」
 「え、あ、いや、なんでもない」
 自分は話したくないのに、相手に聞くのはそれこそマナー違反というものだろう。
 だが、司は別にこだわりがないらいしく、視線を天井付近に彷徨わせると、両手を組んで、うーんと考え込み始めた。
 「…憶えてねぇ」
 「はああ?」
 「だから、憶えてねぇ」
 「……」
 そんなんありだろうか?
 思わずうろんな目でジーッと見据えるつくしの視線に、肩を竦めて司が頭を掻く。
 「気が付いたら、そんなんさっさとこなして、総二郎ばりにとっかえひっかえしてたからな。奴と違うのは、
それが面白くもクソでもねぇ、気晴らしにもなんなかったっていうくらいか。…ただ、ま、なんつーか。こんなもんなのか、て思ったかな」
 「こんなもん?」
 「どうせ、好きでもなんでもない女抱いて、自分の生理的欲求処理して、それだけ?何にも感じないどころか、
気持ちわりぃっていうか、あんまり予想通りだったんで笑っちまった。まあ、それでも俺も男だからな、なんだかんだやってたんだけどよ」
 荒んだ物言いに、つくしが黙り込む。
 それに何を思ったのか、司が焦ったように言い訳を始める。
 「…いや、昔の話だからな、昔の。前にも言ったように、お前と付き合うようになってから、誰とも寝てねぇし、もう他に女は一人もいねぇ。全部、とっくに切った。元々、惚れた腫れたつう感情はなかったし」
 「誰も聞いてないし、第一、あんたと付き合ってる憶えはないけど」
 「…デートは何度もしたし、キス、セックス…軽くクリア、ついでに同棲」
 「それ、もういいから」
 プロポーズの時と同じセリフを吐かれて、つくしが大きく溜息を洩らす。
 「…初めて」
 「あ?」
 「初めて好きになった人とは違ったけど、初めて愛して幸せにしたいと思った人と、いつかそういう時間を過ごせたら
幸せだなあって」
 「……」
 「……」
 「…?おい、で?」
 つくしの次の言葉を待って、何も返らないことに司が眉根を寄せ、問い返す。
 つくしも我に返って、照れたように両手を振って、話を終わらせた。
 「なんでもない。ただ、それだけ。もう、初体験の時のことなんて、聞かないでよ。子供じゃないんだし、関係ないでしょ?」
 「…良かったか?」
 それでも執拗な司に、つくしは少しだけ視線を伏せ、真っ直ぐに見返す。
 「良かったよ。すごく幸せだった」
 「そうかよ」
 自分で聞いておいて脹れっ面をする司に一つ小さく笑い、自分の為の紅茶をもって窓際に移動する。
 あの時二人、誰よりも互いに恋して、愛し合い、未来は一つだと信じて疑わない瞬間が確かにあった。
 司の男の顔を初めて見たあの日…怖くて泣き出してしまった自分を大切に、壊さないでくれた司。
 彼の思い出が冷たく、痛いものであることがとても哀しい。
 だが、自分たちはあの日から本当に遠くへ来てしまったのだと、つくしは改めて思った。


 司と別れ、一人医務室の書類を整理しながら、この部屋に次に来る人を思う。
 今まとめている書類をどう残せば、上手く引継ぎができるのか、こんなにも大切になってしまった道明寺家の
人々の為になるかを考えながら、パソコンのキー一つ一つを打つ。
 司と別れ、道明寺家を後にする日も遠くはない。
 いつ、そのことを言い出すべきか、つくしは考え、頬杖をついた。




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ころ様^^

司君のつくしちゃんの呼び方『あんた』→『お前』を気づいてくださいましたねぇ。
ふふふ。
まあ、司君がつくしちゃんを『あんた』と呼んでいたのは、やはり年上であることと(マーベルは公称司君より
2才年上)、そこに他人行儀さを介在させて自分の気持ちをセーブしていた部分もあるかなという意味がありました。
なので、激情に駆られた時などは『お前』と呼んでいたし(そこまで皆さん憶えてないと思いますが^^;)、
つくしちゃんだとわかれば『お前』に戻るのが自然かなあなんて。

いつも応援してくださるころさんや、皆さんのおかげで、頑張って書こう、書くことが楽しいなと思えます。
本当にありがとうございます^^
おかげさまで、息子のインフルエンザは軽かったらしく、逆にピンピンしていて、早く学校にいけ!と言いたいところ。
それでも、解熱してから5日間は登校禁止なのが辛いですねぇ。
もっとも、息子のクラスそのものが学級閉鎖になってしまったので、息子が元気でもお休みなのですが…。

マルチーズ様^^

実は、マルチーズさんからいただいたコメントで、司君が要君にお土産を持ってくると約束
したのを思い出しました^^;
いやはや。
でも、案外貢の好きな男だし、お金は腐るほどあるので、一度要に対して慈しみを抱いたら、
けっこう湯水のように物を与えている気もします。

つくしちゃんは、本当に気の毒な立場です。
超セレブで美形で…と様々な点で司君は極上の男のはずですが、つくしちゃんにとっては
けっこう疫病神!?いやいや、そりゃさすがに、ヒーロー?をそこまでコケ落しちゃったら
マズイですかねぇ。
レン君がいない為、つくしちゃんの癒しはほとんどなし。
類君も単純に癒しというわりには、じわじわ来てますしねぇ。

寒くなったり温かくなったり、体調を崩しがちなこの季節。
マルチーズさんも体に気を付けて、お互いになるべく元気に過ごしたいですね。
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