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「愛してる、そばにいて」
愛してる、そばにいて番外編(短編)

胡蝶の夢

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※「愛してる、そばにいて」の番外編です。
*****


 「なんだよ、お前、こんなところにいたのかよ?」
 トンとドアを叩かれ振り向いた後ろ、すでにタキシード姿の司が凛々しく立って、怪訝につくしを見つめていた。
 「あ、うん」
 「探したぜ、まったく」
 美の化身のごとき司の堂々なる佇まいに気後れを感じて、俯き加減でつくしが謝罪の言葉を口にする。
 「…ごめんなさい」
 「別にいいけどよ、これくらい。……それより、すげぇ可愛いじゃん、似合ってる」
 柔らかく微笑んで、司が惚れ惚れとした顔で彼女の全身を眺めて賞賛する。
 今日のパーティで司のパートナーを務めるつくしの佇まいは、華奢な肢体によく似合う清楚な色合いとデザインのシフォンドレス。
 まだ病み上がりの彼女のために、踵の低い可愛らしいデザインの靴と対のもの。
 最高級の素材と最高のデザイナーによって作られたそれらの品々は、つくしのためだけに作られたオーダーメイドで、その豪華さや贅沢にいまだつくしには馴染めていなかった。
 俯きがちで、司の賞賛の言葉に返事を返しあぐねていたつくしの傍らへと、いつの間にか司が歩み寄って、滑らかな手触りの彼女の長い黒髪を優しく梳いて、乱れを直してくれる。
 愛情の滲むような柔らかな手つきなのに、なぜかゾッと背筋を嫌悪感が貫いて、無意識のうちにその手を厭うようにつくしは一歩横へと退いていた。
 「……牧野」
 わずかに司の顔が歪んだだろうか。
 ビクビクと彼の顔色を伺いながら、空に浮いてしまったその手がグッと握り締められるのを目の端に、気まずい空気に内心つくしはどうしたらいいのかと狼狽えていた。
 この男性の前に出るとつくしはいつもそうだ。
 婚約者だという彼を慕わしいと思うよりも、厭わしい恐ろしいと思うことが大半で。
 …どうしてなの?
 司はいつも優しい。
 けっしてつくしに対して怒鳴ったり暴力を奮ったことなどないのに、司に逆らうとひどい目に合うという恐怖が体を貫いて、震えが止まらなくなることがままあった。
 何も知らず、わからず、失敗ばかりで周囲の人間たちの眉根を潜めさせることしかできない彼女を温かく包み込んで、どんな相手からも守ろうとしてくれる。
 敵だらけの中たった一人、彼女を愛し守ってくる人だというのに。
 それがわかっているのに、違和感ばかりがいつも彼女を苛んでいた。
 …違う。
 何が違うというのだろう。
 …ここにいてはダメ。囚われてしまう。
 何に?
 それならどこに行けばいいのだろうと、いつもその自問自答につくしは結局答えることができない。
 両親のことさえ記憶のないつくしには、どこにも行くところなどなかった。
 この美しく優しく…そしてどこか恐しい男の腕の中以外には。
 気を取り直したのだろう。
 やんわりとつくしの顔色を伺いながら、司が抱きしめてくる。
 「……今日、俺、18才の誕生日だろ?」
 「あ、うん」
 そういえば、まだ彼に誕生日のお祝いを告げていなかったことに思い当たった。
 強ばってしまっている体をなんとか宥めて息を吐く。
 …怯えちゃダメ。司はいつもこんなに優しくしてくれるのに、また傷つけちゃう。…それなのに、なんで、あたしったら。
 事故で記憶を失い、愛する恋人のことさえ忘れたつくしを責めることさえしない彼の優しさに、後足で砂をかける行為だと自分を戒める。
 「……俺たちのこと、皆の前で発表するつもりだから」
 「え?」
 「お前と結婚する」
 思わぬ言葉に、気後れも忘れてポカンと司を見上げた。
 言葉の内容のわりに司の顔には照れもなく、なぜかランランと光った飢えたような目の奥に、深い孤独と自嘲が宿っていた。
 どうしてそんな顔をするのか、つくしにはわからない。
 けれど、これだけはつくしにもわかっていた。
 彼が自分を欲していること。
 彼が自分を愛しているのだということ。
 そして、今の自分が彼を愛していないということだけは。
 その腕の優しさが、深い闇色の瞳の熱さが、彼の哀願するような表情が、いつも強く激しく彼女へと愛を乞うていた。
 …愛してくれ。
 …そばにいて欲しい。
 ただそれだけを望んで尽くしてくれる男に、返す言葉がない自分はなんて冷たい女なんだろうと悲しくなる。
 誰に言われないでもわかっていた。
平凡な自分が、彼に好かれていることこそ、奇跡なのだと。
 …あたしも、この人が好きだったはずなのに。
 「腹の子…」
 すっと伸びてきた手が彼女のまだ平らな腹に触れて、ビクッと体がおぞけて固まる。
 そんなつくしの体と心の動きにも気がついていただろう。
 けれど、決して司は腕の力を緩めることなく、手でそっと優しくその腹を撫でる。
 「父無し子にするわけにはいかねぇだろ?」
 「………」
 まだ自覚がない。
 それでも事実は事実。
 どんなに衝撃だったとしても認めなければならない。
 もちろん、男性とそういうことをしていて、妊娠してしまう可能性があることなど、子供ではないのだからつくしにだってわかっている。
 けれど、司に求められ、流されるように体を許してしまった。
 心の奥底にある恐怖と嫌悪感、拒絶心を宥め、この人に見捨てられてしまったら、どこにも自分の居場所がないんだから、と。
 そんな自分の汚い打算が哀しくて、司のあまりに深すぎる恋慕が辛くて、苦しくて、消えてしまいと思ったことも一度や二度ではなかった。
 どうして、こんなに美しくてなんでも持ってる人が自分なんかを、と思えば思うほどにもったいなくって、申し訳なくって…そしてなにより彼を再び愛せない自分が不可思議で。
 「ごめんな。流産したばかりで、次の妊娠させちまうことがどれだけお前の体に負担になるのか…わかってなかった」
 「………」
 それも当然のことだろう。
 司もまだ高校3年生。
 どれほど大人っぽく見えてもまだ未成年の子供にすぎず、情熱のままに彼女を愛し孕ませてしまった。
 子供を作るには早すぎた。
 それでも…どうして避妊してくれなかったのだろう。
 つくしは怖がっていたのに、普段つくしには甘すぎるほど甘い男なのに、司はそれだけは彼女の望みを叶えてくれなかった。
 まるでわざと妊娠させようと企んだかのように、いつも彼女を誤魔化し、強引にコトを進めてきた。
 「今度は大切にするから…」
 切ない声音。
 それなのに反らしてしまった視線に、司がどれだけ傷つくのかわかっているのに、もう…見ていられなかった。
 許せないわけではない。
 たぶん、そうだとは思う。
 なのに、なぜか、赦せない。
 黒い感情が心の奥底のどこかにあるのを自覚する。
 何を赦せないの?
 今回の妊娠のことではないだろう。
 「あの……」
 「ん?なんだ?」
 やっとなんとか言葉を絞り出したつくしに、司が優しく問い返す。
 できるだけ彼女を脅かさないように、と。
 少しでも記憶のない彼女が自分に馴染んで欲しいから、と。
 「その…誕生日」
 「ああ?」
 「おめでとう…ございます」
 出てきた言葉は他人行儀で、極めて堅い事務的なものだった。
 それでも、柔らかく微笑んだ司の美しい顔は本当に幸せそうで、嬉しそうで。
 「ああ…、サンキュー」
 この人を愛してあげたい。
 その笑顔に、本当にそう思うのに…。
 つくしは再び顔を俯け、暗く陰鬱なため息を一つ小さく零した。





~Fin~





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あとがき)

 司君2016年Birthday記念最後の作品は…。
 やっぱり暗くなってしまった『愛してる、そばにいて』の番外編となります。
 これはちょうど、つくしが一度目の流産と事故?(自殺未遂か?)が原因で記憶を失った少し後のお話。
 すでにもう、次の子を妊娠しています。
 本編にも語っておりますが、この子も流産にて…。
 気持ちも体も不安定なまま司の執着に囚われたつくし。
 がむしゃらにつくしを囲い込む司となっています。
 では、本日はこれにて。
 本日am.3:00~の『愛してる、そばにいて』本編をお楽しみに♪




2016/01/21 執筆
2016/01/31 公開

by こ茶子





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