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「夢で逢えたら…全207話完+α」
プロミス…遠い日の約束~番外編

プロミス~遠い日の約束~022

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 眠ってしまった類の髪を一撫でして、彼の自室を出たつくしは途中人に会うのではないかとけっこうドキドキした。
 案の定、
 「いらっしゃいませ」
 「…あ、こんばんは。お邪魔しました」
 行き交う使用人たちに会釈して、やや挙動不審気味にそそくさと立ち去る。
 もちろん、何も知らない使用人たちが、先程までつくしと類がしていたことを察するはずもない。
 それでも疚しいような気恥ずかしさに、顔を真っ直ぐに上げるのが難しかった。
 勝手知ったるなんとか。
 広大な邸を通り抜け、玄関を出ようとしたところで、顔見知りのメイドに声をかけられる。
 彼女は古株のメイドで、いわゆる道明寺邸でいうタマ的な存在だろうか。
 「牧野様?」
 「あ、島野さん、こんばんは。お邪魔しました」
 「坊ちゃんは?」 
 「えっと、…あのぉ、そ、その…ですね、ね、寝ちゃったみたいで…す」
 つい語尾が小さくなってしまう。
 ある意味、類も特殊な人間だ。
 つくしや他の友人たちが遊びに来ていても、一人寝入ってしまうことも少なくはないので、不審に思われることもないし、特に言い訳する必要もないのだが、つくしは自分が疚しかった。
 島野が小さくため息をこぼして、つくしへと頭を下げる。
 「本当に困った坊ちゃんだこと。お友達がいらっしゃっているというのに」
 「いえ、いつものことですから」
 小さく手と首を振り、慌てるつくしへと島野が老母のごとき優しい笑みを浮かべる。
 「……坊ちゃんは、牧野様とお付き合いされるようになってから、本当に明るくなられました」
 「え?」
 「今までも、美作家の坊ちゃんや西門家の坊ちゃん、それに道明寺家の坊ちゃんとは仲良くされていて、お互いのお邸にも行き来されてましたけど、坊ちゃんがああいう方のせいか、こちらにはあまりいらっしゃることはなかったんですよ」
 「…そうなんですか」
 今はあきらの家に集まることが多いようだが、以前は司の邸が溜まり場だったということもあるのだろう。
 「明るい笑い声が坊ちゃんのお部屋から聞こえることもそうですが、そもそも自分のテリトリーに人をお入れになるのをあまり好んでいらっしゃらないような方でしたからね」
 「………」
 初めて出会った頃の類はそうだった。
 偶然出くわすことになった英徳の非常階段。
 つくしが現れると鬱陶しがって、すぐにその場を立ち去るのが常だった。
 …まあ、あんな狭いところじゃ、それも仕方ないか。
 つくしでも親しくない相手といつまでも一緒にいる気にはなれない。
 ましてや、類は人に慣れない野良猫のようなものだったのだ。
 野良猫というには気品がありすぎて、美貌に恵まれていたが。
 「他に人がいて、眠ってしまわれるなんて、なかったことなんですよ」
 「……そうですか」
 「牧野様」
 「はい?」
 真摯な眼差しの島野が、つくしの両手を取り、再び頭を下げた。
 「し、島野さん、頭を上げられてください。あ、あの?」
 「牧野様には本当に感謝しています」
 「そんな、あたしは何も…」
 「これからも、どうか類坊ちゃんのこと、よろしくお願いいたします」
 「……島野さん」
 潤んだ目に宿るたしかな類への愛情に、つくしも言葉を詰まらせる。
 ここにも小さな愛がある。
 そこかしこに、気がつきさえすれば。
 「今、運転手に車を回させますね」
 「あ、いえいえ。大丈夫です」
 気を回す島野に、断りを入れる。
 「いえ、もうすっかり暗い時間帯ですし、いいお年頃のお嬢さんが気軽に外歩きをしても良い時間ではありませんよ」
 「はははは」
 乾いた笑いが溢れる。
 つくしや、ごく普通の家の女性たちにはまだまだ宵の口。
 たしかに痴漢など、暗い道や不審な人間には気をつける必要もあるが、つくしなどは平気で真夜中のバイトにも精を出していたくらいなのだ。
 「第一、牧野様をお送りしなかったと坊ちゃんに知られたら、私どもが怒られてしまいますよ」
 「ああ…その、類には後であたしから言っておきますから、今日だけは大目に見てもらえませんか?」
 正直、まだわずかに体に違和感が残る。
 島野の好意に甘えて車で送ってもらった方が楽なのはあきらかだったが、今はただ無性に一人でいたかった。
 けっして後悔しているわけではない。
 類のくれた優しさや温もりはつくしの心を慰撫し、染み渡る愛情に力を与えられた。
 けれど、今は…なんとなく。
 「星が見たいなって」
 「え?」
 「えっと、今日はお天気も良くて、すごく空が明るいから、月や星を見て、散歩しながら帰りたい気分なんです」
 「……でも」
 「ホント!大丈夫ですっ。あたし、以前は道明寺家のお邸で働いていたこともあるし、この辺は土地勘もあるんで…それじゃあっ」
 それ以上呼び止められる前にと、頭を下げて玄関を出てしまう。
 「牧野様っ!」
 「ごめんなさい、島野さんっ」
 慌てる島野へと手を振り、家路へとつく。
 …本当に、星が綺麗だ。
 何度となく探した土星は、時間的に早いせいでまだ地平線近くで見ることができない。
 それでも深夜には高く登って、今日も美しく見えるだろう。
 …ホント、あんなに苦労して望遠鏡で探さなくっても、目視できたつーのっ。
 不思議に今は司のことを思い起こすのがあまり辛くない。
 ただ静かに彼を想い、彼の幸せを祈る。
 …あんたもあんたの場所で、幸せになって。
 まだ、胸の痛みや寂しさを拭い去ることはできないけれど、きっといつか。
 司のことも大切な思い出の一つと変えることができるに違いない。
 新しい自分を待望して。
 小さく微笑み、見下ろした足元。
 「あ、そうだ」 
 古びたスニーカー。
 つくしなりに大切に履いてきたけれど。
 憧れのあの人が教えてくれた言葉が蘇る。
 『とびきりいい靴をはくの。いい靴をはいてると、その靴がいい所へ連れて行ってくれる』
 …靴を買おう。
 とびきり素敵ないい靴。
 つくしにはどこまでもどこまでも、明日が明るいもののように思えた。




*****




 あらかた荷物の片付いたガラーンとしたアパートの部屋を見回す。
 なんだかんだと言って、この部屋で何年の時を過ごしただろう。
 思えば、司との恋を失って、けれど人前で泣くことさえできずに、何度もこの部屋で一人彼を思い出しては涙にくれた。
 後ろ向きだった。
 愚かだったと思う。
 後悔するくらいなら、とことんやれば良かった。
 どこまでも司に縋り付いて、ぶつかれば良かったのにと。
 気ばかりが強くて頑固なくせに、本当は臆病でプライドばかりが高い自分。
 あれほどプライドが高く傲慢だった司ほどには捨て身になれなかった。
 その結果の不毛な数年間。
 おそらくもう二度と逢うことさえ叶うことのない男に連綿とした未練を募らせ、一人蹲った。
 忘れたいのに忘れられない?
 それも当然だっただろう。
 忘れたいと思う心の裏側で、それ以上の強い思いで、願っていたから。
 …あんたに逢いたい。
 せめて夢で逢えたら。
 もう一度だけでも。
 その願いが叶ったその端から、また次の夢で逢えることを願った。
 つくしは迷って、結局、部屋隅に造り付けられたままのコーナーキャビネットへと歩み寄る。
 昨日、いやその前の日、もっと前の前の日だったか。
 手を伸ばしては引っ込め、引っ込めては手を伸ばしたその引き出しへと手を伸ばす。
 引き出しの中に、ゴロンと一つだけ置き捨てられていた、手のひらサイズの小さな小箱。
 一人の少年の彼女への想いそのもの。
 震える指先で手を伸ばしてしまえば、もうとても残してゆくことなどできるはずもなかった。
 …これで最後。
 最後の未練だから。
 3年ぶりに箱の中から取り出した土星は、司にもらった時のまま、今も時を止め、燦然と輝き、この上なく美しくつくしの目に映った。
 たしかに司が彼女を愛した証。
 つくしだけの妄想ではなく、そこにはたしかに恋があった。
 鎖の留め金を外し、首へと回す。
 ひんやりとした感触は、まるでずっとそこにあったかのようにしっくりと肌に馴染んだ。
 ぎゅうっと片手でその星を握り締め、もう片方の手で包み込み目を閉じる。
 …あんたが好きだった。
 それだけが真実。
 瞼の裏の少年へと愛を囁やき、つくしは両の目をしっかりと開いた。
 土星のペンダントヘッドをシャツの中へと潜り込ませ、玄関へと向かい、狭い通路にまとめてあった荷物を手に取ってもう一度だけ背後を振り返った。
 そして、一つ頭を下げる。
 過去の自分との決別。
 …もう、ここには戻らない。
 明日に向かって、たしかな一歩を歩き出すために、つくしは歩き出した。
 未来へと。





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