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「中・短編」
一日遅れのハッピー・バースディ…15話完+α

一日遅れのハッピー・バースディ09

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 司の手が何度も何度もつくしの裸の背を撫で、優しくキスを落とす。
 狭いソファの上。
 密着した体を少しでも動かせばそのまま、ずり落ちてしまいかねない。
 …温かい。
 つくしよりもずっと体温の高い司の熱い素肌の感触。
 そうだ、人肌ってこんなにも温かかったんだと、ひどく懐かしい。
 彼女を後ろから抱きしめて胸元に触れていた手が、意図を持って蠢き出すにいたって、つくしもまた離れ難く思いながらも、やっとその手を振り払って引き剥がした。
 上半身を起こすつくしの腕を掴んで、再び司が引き止める。
 「……どこに行く?」
 「今度こそ、帰るわ」
 たぶん、冷静な声を出せていたと思う。
 司に片腕を掴ませたまま、ソファに腰掛け散らばった衣類を目で探して、かき集める。
 …まったく、いい年した大人が、まるでセックスを覚えたての子供みたいにガッついて。
 先程までの自分の痴態を思い起こせば、恥ずかしすぎて身悶えする。
 たしかに司が始めたのかもしれなかったが、たしかにつくしもまた彼に欲情していたのだ。
 「帰る?俺とこんなことになっても、お前はまだ俺の手をとらないつもりなのかよ」
 傲慢な口調とは裏腹に、軋る声音に宿る不安と寂寥…そして哀しみ。
 振り返って、「ずっとここにいる」、「あんたと一緒にいたい」と言ってしまいたいなる誘惑を振り払うのは至難の技だった。
 それでも、つくしにはつくしなりのこれまでの人生があって、義理もあり…そして彼女なりの矜持もあるのだ。
 愛しさですべてに目を瞑ってしまうことは容易でも、それだけでは大切なものは何一つ守ることができない。
 それはこれまでの人生で、彼女が苦悩と哀しみの果てに悟った真理であり真実だった。
 …何事にも順序ってものがある。
 「なにが問題なんだ?お前だって、俺にまだ惚れてるじゃねぇか」
 その素肌に触れられ、温もりを分け合えば、彼女の秘めた心など容易に司にも伝わってしまうことなどわかっていた。
 だから10年前も――電話での別れを彼女は選んだのだ。
 何度も、何度も、彼に抱かれながら、別れたくないという苦悩と、別離を伝えなければという相反する思いに心をちぢに引き裂かれて、結局直接別れを告げることができなかった。
 好きも、愛してるも、この10年間ただひとりの男に囚われ続けて、幸せになんてなれなかった。
 …あんたがいなくても、あたしなりの幸せ見つけられる、幸せになるんだって思ってたのにね。
 自分を過信していた。
 そこに司がいない。
 ただそれだけだった。
 それなのに、望んだ平穏と優しい生活の中で、幸せなど見つけられず、ゆっくりと流れる時がひどく遅く感じて、どんな美しい世界も色褪せるばかり。
 我が子が愛しいと思うのに、愛しいと感じれば感じるだけ、そこに彼がいないことが苦しかった。
 欲深な自分は、唯一度も、この10年間幸せを感じられなかったのだ。
 「牧野…」
 「………」
 「牧野ッ」
 「…あんた、忘れてない?あたしはれっきとした既婚者なのよ?」
 「それがどうした」
 彼ならば言うだろう。
 とっくに予想していた答えだったので、つくしにも動揺はなかった。
 「あんたの言う、俺のものになれってどういう意味なの?」
 もう無邪気に互いが唯一絶対の半身などと思えた過去は遠い。
 触れ合った素肌の感触がたとえ愛しいと感じてはいても、しょせんは肉の感じる愛情で、それは本当の恋や愛ではないことも少なくはないのを今のつくしは理解している。
 彼は昔の男。
 そして、つくしは昔の女。
 それ以外の何者でもないはずなのに。
 「まさか、俺がお前を愛人だとか、ましてや遊び相手にしようとするとでも思ってんじゃねぇだろうな?」
 「………」
 「この俺が?ふざけんなよ。俺にとってお前は昔も、今も唯一無二の女。俺の隣に座るのはもうお前以外にはありえねぇ」
 なんの躊躇もなく、言い切る彼の言葉が嬉しい。
 本当にそう思う。
 けれど、
 「あたしには夫もいるし、子供もいるの。それはあんたがどれだけ財閥内で力を持とうとも、動かせざる事実ってやつで、そんなあたしがあんたの元へと行けば、あんたが非難されるのよ」
 仁義は通さなければならない。
 司ほどの立場にいる男ならなおさらのこと。
 「それでも、俺にはお前に代えられるものなんか何もねぇんだ。それをこの10年間で嫌ってほど思い知らされた。なんであの時…お前以外の全部、捨てれなかったのか。どれだけ俺が後悔したかわかるか。この俺がだぞ!?」
 「………」
 後悔どころか、自分に絶対的な自信を持ったこの男が、自分ゆえに負った傷と虚ろさをつくしは想った。
 「今度こそ、お前を俺の隣に据える。どんなことをしても、もう二度とお前を手放したりしねぇ」
 「………」
 「さすがにお前の亭主のことまでは受け入れられねぇけどな。それ以外、お前が俺のものになるなら、お前の持っているものすべて…守ってゆきたいと思っているあらゆるものも、俺が守ってやる」
 つくしが大きく目を見開く。
 「全部だ。…これは俺の無条件降伏だ」
 「道明寺…」
 「だから、俺を選んでくれ。今の亭主と別れて、俺と結婚してくれ、牧野ッ」
 「…………」
 「…………」 
 息を吸って吐く音さえも、張り詰めた沈黙の中では、とてつもなく大きな音に感じられた。
 カチコチという時計の音が妙に耳に気にかかって、つくしは小さく吐息をつく
 「……考えさせて」
 「牧野ッ」
 「私だけのことじゃないから、すぐには結論は出せない」
 それでも…、それでもつくしは司の申し出を考えると言ったのだ。
 「俺はお前からYES以外の返事を聞くつもりはない」
 「…相変わらず、強引ね。あんたという人は」
 小さく笑うつくしの声音は、皮肉げなものではなかった。
 懐かしさと慕わしさ、そして愛しさが含まれると思うのは、司の慢心ではないだろう。
 その温もりのかけらに、司も素直に今度こそつくしの拘束を解く。
 身支度を整える彼女を見守り…、司もソファから体を起こして衣服を身に着け出す。
 「…送ってく」
 困ったような顔のつくしに断られる前に、さっさと身支度を整え、司は一人部屋の出口へと向かった。
 どうせ、言いだしたら司は誰のいうことも聞きはしないのだ。
 それは今も昔も変わらない。
 …変わるわけないか。
 それが道明寺司なのだから。
 彼女が世界でただ一人、唯一愛している男なのだ。
 司の後を追おうと立ち上がったつくしの下腹の奥、司を受け入れた胎内がズクリと鈍く痛む。
 その痛みさえ甘美に感じる自分に苦笑して、つくしもまたゆっくりと歩き出した。





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