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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇③

昏い夜を抜けて479

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 「ごらぁ!何、人がよそ見してる間に嫌いなもの避けてるのよ」
 「………だって、人参嫌い」
 …だって、じゃないだろう、だってじゃ。
 そう思いつつ、プチ?雪男風類も中々にマニアックに可愛かったが、上目遣いの王子様はメガトン級の破壊力ある麗しさだ。
 内心トキメキで胸をドキつかせながらも、厳しい顔を崩さず、フォークに突き刺した人参を類の口元へと差し出す。 
 さすがにそこまでされてしまっては、ワガママ王子も逆らえず、嫌々ながらに口を開ける。 
 「……まずい」
 「失礼なッ!」
 それでも飲み込まなければ、つくしの鉄拳制裁が待っているので、水で流し込んで憮然としている。
 拗ねた子供のようだが、油断すると時々確信的に、艶めいた仕草でわざとつくしを赤面させる時もある。
 子供と大人の男が同居しているようなアンバランスな魅力の男。
 「…で、本当に、しばらく日本を出るつもりなの?」
 「まあね。なにげにけっこう今、俺って有名人だからさ」
 「…いや、あんたは元々有名人だったとは思うけど」
 ただその方向性が180°変わってしまったことは確かだ。
 そのことにわずかな痛みを感じないでもなかったけれど。
 …まあ、自業自得だわね。
 被害者であるつくしにしても、呆れてモノも言えない。
 「なんで、あんなことしたの?」
 「…あんなこと?」
 「その…ほ、ほら、あたしと…のその、…」
 ハッキリと言えないつくしを見つめ、類が珍しく曖昧な笑みを浮かべ視線を反らせた。
 「……お前には悪いと思ってるよ」
 「それは…まあ」
 良くはなかったけれど、当の被害者がつくしだとバレるような代物ではなかったのは類の配慮であることはわかっている。
 彼女を傷つけるための意図のものではなかった。
 むしろ―――。
 「いつか、話すよ、全部。本当に。それじゃあ、ダメかな?」
 いつか、そう類が言うのなら、本当にいつの日か話してくれるだろう。
 すべてを明らかにすることだけが、大切なのではないことをもうつくしは知っている。
 類が信じて、ということならば、信じよう。
 真実を知る、それは信頼とイコールでは決してない。
 それでも。
 「…もう、ないんでしょうね」
 「ん?」
 「あたしの写ってるやつ。あんた、あたしにマスター渡したんじゃなかったっけ?」 
 「ああ…実は、マスターは渡したんだけど」 
 不穏な返答。
 「はい!?」 
 「…なんか、ちょっとだけ違うカットのもあったみたい。うっかり残っててさ。もったいなかなあ、とか思ってつい残しちゃってたんだよね」
 …もったいない?!なんじゃ、それはっ。
 目を見開くつくしに、信じられない類の発言。
 「ほら、あんた俺と一緒にいてくれない時もけっこうあるし、もしかしたら遠距離で離れ離れかなあ、とか思ったしさ」
 「…いや、それのどこに繋がるのかよくわからないんですけど」
 鈍いからではないだろう。
 いや、つくしも自分が鈍い自覚がある。
 しかし、目の前の…少しばかり窶れてしまったが、童話から抜け出したような清雅な美貌の青年がいうセリフとはとても信じられないオヤジ発言が飛び出し驚愕する。
 「ほら、夜のオカズとか?生牧野がダメな時には、一人でこっそり…わっ!!」
 ボッコーン、ベコ。 
 食卓に置いてあったミネラルウォーターのペットボトルが、類の頭の形に凹んだ。
 「今すぐ消せッ!!!」
 「……いひゃい。それ、中身入ってたら、俺、死んでたんじゃないの?」




*****




 とんでも発言は、一応は類の冗談だったのか、彼女の要請をあっさり快諾し、そのコピーだかマスターとやらはつくしの手に。
 正直そんなものを渡されても、汚らわしいというか、気持ちも良くなかったけれど、
 「はい、ここに入れて」
 バリバリバリバリバリ。
 つくしの人生を狂わせ、類自身の社会的地位をも奪ったはずのDVDが、あっさりとシュレッダーの中へと飲み込まれ、細かな破片へと変わった。
 …なんていうか。
 こんなんでいいのだろうか、と少しだけつくしは悩んだ。
 「今度こそ、もうないよ」
 「…本当に本当よね」 
 「たぶん?」
 類の返答につくしの目に険が宿る。
 「でも、もう二度とこんなふうに人目に触れさせないと約束する」
 「……類」
 そこに含まれるわずかな含みに、つくしは気がついただろうか。
 けれどそれだけは類の真実だった。
 たとえ彰が類や司を欺いて、他にも所有していたとしても、類もまた彰に対する切り札を持っている。
 類がどんな男が知っていて、自分のことではなく類にとってのつくしの位置をわかっている彰が愚かな過ちなど犯すはずがなかった。
 …お前はそこまでバカじゃないだろ。
 つくしが小さく息を吐く。
 「よくわからないけど、類がそういうなら、あたしは信じるよ」
 「うん…」
 二人の間でほんの少しの沈黙が落ちる。
 けれど、もちろん、それは気まずい沈黙ではない。
 二人で過ごしたたくさんの日々の中での日常。
 「あ、そうだ」
 「なに?」
 「社長…えっと、類のお父様から伝言があったんだ」
 「父から?」
 別に意外ではなかったけれど、いまさら恨み言だろうか。
 類自身に言うのでは暖簾に腕押しだからか。
 それで彼女に伝言を頼むとは、なんとも見苦しい話だと、類は肩を竦めた。
 しかし、馨からの伝言は類の予想外のことだった。
 「ベベのこと、本宅で預かってくださるって」
 「…は?ベベ?」
 たしか、まり子に散歩を頼んだが、その後はあきらの邸に戻してくれるように頼んであったはずだ。
 いずれ迎えに行くにしても、…類自身がそうできない状態になったとしても、あの親友なら嫌な顔をせずにその後の世話もしてれただろう。
 そうした目論見だった。
 「うちがあるのに、よそのお宅に預けることもないだろうって…」
 「…………」
 含まれた父親の思い。
 いまさらだ。
 鼻で笑うのは容易いが、類はそうしなかった。
 「…そ。ま、それもいいんじゃない?どうせ、すぐに迎えに行くし」 
 「うん。いつでも、…あんたとあたしの二人で迎えに来なさいって」
 少しだけ類は視線を落とした。
 けれど、再びつくしを見た彼の顔は、なんの変化もなくただ淡々としていた。
 「そうだね。もう少し、ほとぼりが覚めたら迎えに行こうか、一緒に」
 「うん」
 つくしもまた素直に頷く。
 「で?これから先どうするの?」
 好き、愛してる、それだけではなく、これからの二人の人生はまだまだ続いてゆくのだ。
 人は霞を食べて生きてゆくわけには行かない。
 そこには生活があって、糧がある。
 そして、その糧を得るために汗を流し、働く。
 それはどんな立場の人間であっても、どんな方法であっても変わらないだろうと、つくしは言う。
 あいかわらず地に足の付いた、堅実な彼女に類がそっと微笑んだ。
 「どうしようかな。本当に、俺、牧野のヒモになろうかな」
 実際、日本のどこかの企業で雇ってもらうことなど不可能だろう。
 今回の事件による世間的な意味合いもそうだが、類自身の氏育ちからしても、どんな仕事でもつけるという人種ではない。
 「…案外、俺はどこででも生きていけると思ってるんだけどね」
 …お前がいれば。
 「無理でしょ?あんたみたいなお坊ちゃまが」
 つくしの認識にあえて意は唱えない。
 必要な時に実践すればいいだけのことだから。
 「じゃ、専業主婦になりなさいよ。あたしがあんたを食べさせたあげる。今は…まあ、ちょっと失業中だけど、あんたの一人や二人、贅沢はさせてあげられないにしても、なんとか食べてゆくくらいは面倒見てあげるよ」
 ふふふと、類が笑う。
 つくしは本気なのだろう。
 …それも面白いかもしれない。
 「ま、あたしもしばらくは無職だから、その間に家事を仕込んであげる!」
 「お手柔らかに…。でも、仕事はそんなに急いで探さなくてもいいよ」
 「え~、そうはいかないでしょ」
 住むところはまあ、あるにしても、ただそれだけというわけにはいかない。
 働くこと。
 それはつくしにとって、まるで息を吸うように自然なことなのだ。
 「お前の好きなように生きな」
 「…類?」
 「俺はずっと、そんなお前に寄り添ってゆく。…お前がやりたいこと、生きたいように支えるから、俺を置いていかないで…それだけでいいよ」
 すべてをお前に…。
 ジッと類を見るつくしへと微笑む。
 「ま、そういうことだから。これでも俺、それなりに資産持ってるし、かなり有名で大きな会社の大株主なんだ」
 「ええ~、そうなんだ?」
 「うん、口出すことはないとは思うけどね」
 がなる親友の憎々しげな顔を思い出す。
 …だから、取引しようって言ったのに。
 断られて結局、それぞれが手に入れたものをそれぞれが。
 …まあ、それもいいかも。俺にこれ以上塩なんて送られても彰も迷惑だろうし。
 「あ、そうだ」
 「なになに?」 
 「お前、社長職とかそういうのに興味ない?」
 そのうち、三田村からまた矢のような催促が来るようになるだろう。
 けれど、専業主婦も悪くない、そんなことを思い出してる。
 「なに言ってんだか。わけわかんないこと言ってないで、さっそく食べたもの、自分で片付ける!」
 「あい」





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