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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇③

昏い夜を抜けて478

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 「まったく!なんなのよ、あんたはいったい」
 感動の再会…そんな期待をしていたわけではなかったけれど。
 ゴシゴシゴシッ、ジャアアアアッ―――、ワシャワシャワシャッ。
 緊張の連続から解放されたと思ったら、今度は帰宅早々猫の――ではなく、人一倍デカイ男の洗髪。
 「……痛いよ、牧野」
 「なにが、痛いよ、よ。いったい、この髪の毛いつ洗ったわけ?」
 タオル一枚腰に巻かせて、風呂椅子に座らせた類が、顔を顰めて抗議する。
 もちろん、つくしの方はTシャツと短パンとはいえ、バッチリ服を着込んでエプロンまで装備だ。
 飛び散るシャワーの水で、着ている意味もあまりないが、そんなことを構っている心の余裕もない。
 「いた、いたたたた」
 「……勘弁して。あんたの髪ってなまじ猫っ毛で細いから、絡まるとめっちゃ手間かかって大変じゃないのよ」
 涙目の類はかなり可愛いが、髭面に埋もれていてはその可愛さも半減。
 …まあ、ある意味猫そのものだと思えば、いい、とか?
 「髭も剃る?」
 「…自分でやる」
 さすがに懲りたらしい。
 つくしに今度は顔でも切られたらたまらないと、いそいそと準備しだす。
 風呂に入れと言っても、つくしの言葉が耳に入っているのかいないのか、類は彼女の後をつけ回すだけで行動を起こさず、業を煮やしたつくしが強引に風呂へと叩き込んだ。
 あげくの果てに、すっかり放置されて寂しんぼになってしまった類は、甘えた犬状態(猫じゃないんだよね)。
 とにかく彼女の世話を待って、何一つ自分でしようとしないのだ。
 …ホント、この人って。
 頭痛がする。
 たしかに以前から、縦の物も横にしないような男ではある。
 「まったく、背中まで流してあげたんだから、ちゃんと綺麗にしてくるのよ!」
 「うん、わかった」
 苦笑した。
 これが花沢物産でキレ者と言われた敏腕専務と同一人物だと思えば、笑える。
 …子供じゃないでしょ。
 やろうと思えばなんでもできる男なのに。
 その笑いがわずかに湿って、つくしがズズッと鼻を啜った。
 類はこの一ヶ月、たった一人でこのマンションに閉じこもっていたらしい。
 いつもは掃除や彼の身の回りの世話に入る使用人たちをも締め出して…。
 ベベまでも、よそに預けたその恣意の果てには何があったのか。
 よろめいた類を支えて抱きしめた時、涙が溢れて止まらなかった。
 …なんなのよ、この薄い胸板は。
 …どういうこと?なんで、こんな生活を?
 触れた類の体は、筋肉も落ちて嘘のようにやせ細っていた。
 かつてあんなにも張りがあって美しかった肌さえもが、まるで老人のようにカサカサに乾いて荒れていたのだ。
 元々、生活力があるタイプだったわけではない。
 けれど、何事もできないわけではなく、しないだけ。
 そんな自分を自覚して、あえて人手に任せられるところは任せる臨機応変な器用さも持っている。
 それなのに、なぜ。
 どうして?
 まるで、このまま、…萎れて枯れてゆくのもまた致し方がないと諦めてしまっていたかのように。
 もし、つくしが帰って来なかったら、そんな未来を想像してゾッと体を震わせた。
 『信じてたんなら、ちゃんとしていなさいよ!』
 そうタコ殴りにしながら叱りつけたつくしに、
 『…信じていたからでしょ。ちゃんと俺のところへ帰ってきてくれるって信じていたからさ』 
 彼女がそばにいてくれないのなら、もう何もこの世に未練はないのだというように、やせ衰えた類の生気に満ちた目を思い出し、つくしはまた滲みだした涙を手の甲で拭ってキッチンへと向かい合う。
 「…いきなり、消化に悪いものは拙いわよね」
 とはいえ、何かと偏食も多い男で、手がかかる。
 …いっそ、野菜ジュースにでもしようかな。
 顔を顰めて鼻を摘む類の顔を、意地悪く想像して楽しむ。
  
 「あ、そうだ」
 屈んだ拍子に伸び気味だった髪の毛がパラリと落ちてきて、料理を作るのなら髪をまとめようと、髪ゴムを探しに自分の部屋へと戻る。
 …懐かしい。
 何を見ても、何をしても懐かしい気がする。
 類が引きこもっていた居間と彼自身の様子とは裏腹に、この部屋には何の変化もなく、彼女が留守をする前のまま。
 たしか、この辺に新しいゴムを入れていたと、うろ覚えでキャビネットの引き出しを探す。
 カサッ。
 手に触れた紙の感触。
 それは―――ずっと以前に手渡された、かつての婚約者・山崎からの手紙だった。
 ほんの少しの躊躇。
 かつて、彼から貰った手紙の中身を見ることがどうしてもできなかった。
 たとえそれが、謝罪なのだとしても…あるいは恨み言なのだとしても、つくしには勇気がなかったのだ。
 自分ゆえに傷つけ、罪へと…昏い闇へと引きずり込んでしまった人。
 愛してはいなかったかもしれない。
 けれど、たしかに彼と共に歩もうと思っていた瞬間があった。
 ピリピリピリ。
 封筒の中の便箋を取り出し、目を通す。
 几帳面で生真面目だった山崎らしい、丁寧でカッチリとした字体。
 読み進めてゆくつくしの目から涙が零れ、次々に頬を伝い落ちてゆく。
 ポツリと落ちた涙が、手紙の字を滲ませる。
 気が付けば手紙へと顔を押し付け、嗚咽が堪えられなくなっていた。
 …ごめんなさい。
 …本当にごめんなさい。
 人は生きている、ただそれだけで、誰かを傷つけ苦しめることもある。
 たとえ、誰かを憎んだり傷つけたいと思っていなかったとしても。
 誰が悪いわけじゃない。
 たぶんそういうことなんだろう。
 あるいは、誰もが悪いのかもしれない。
 けれど―――。
 「……牧野?」
 一人泣きじゃくるつくしの背へと声がかけられる。
 つくしが選んだただ一人の男。
 愛する者に愛される、その奇跡。
 だが、信じることができなければ、その愛さえもいとも容易くもぎ取られ、指の間から零れ落ちてゆく。
 人の心は弱く脆いものだから、カタチのないものは簡単に壊れてしまう。
 ホンの少しの疑惑や不信が、互いの隙間を押し広げ、時には…もう手の届かないところへと互いを追いやってしまうのだ。
 …勇気を。
 ずっと愛する人を信じることのできる力を。
 愛すること―――それは信頼。
 あなたを信じてる。
 私を信じて…と。
 「どうしたの?何か哀しいこと?」
 類の問いかけに、つくしはそっと頭を振って、彼へと身を寄せその大きな胸に抱きついた。
 抱きしめ返してくれる温もりが何よりも、愛おしい。
 「……ううん、ただ幸せなだけ」
 「俺も、すごい幸せ」
 あなたを信じる、ただそれだけが―――。





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