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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて475

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 『志保子さんの為だった』
 そう語ったのは、高校生の時からの志保子の熱烈な崇拝者だった。
 彼女の何がそんなにその男の琴線に触れたのか、志保子が結婚して後も付きまとうことを辞めなかった。
 それでも、よもやそんな不祥事を起こすほどの度胸があったとは。
 一応は一定の礼節を守っていたから、志保子もその父も彼のことを危険視していなかったというのに。
 病院に搬送された七生はまるで、別人だった。
 生き生きとした表情が失われ、呆然とした顔は虚ろで、まるで打ち捨てられたボロ雑巾のように、変わり果ててしまった友の姿は志保子にも衝撃的だった。
 つい先程まで―――、本当に数時間前まで一緒だったのだ。
 その時の七生は哀しげではあったけれど、決然とした強い眼差しでそこにいたというのに。
 「…社交界で、犯人の男がまるでお前の意を受けて七生を襲ったかのように噂されるようになっても、お前は言い訳しなかったな」
 さすがに警察での事情聴取では、志保子もその関与を真っ向から否定した。
 実際、志保子が七生を襲わせるはずもない。
 たとえ彼女が志保子の親友であり姉妹ではなかったとしても、生まれながらの令嬢であった志保子にそんな悪辣な手―――集団の男達に七生を襲わせようなどと考えつくはずもなかった。
 けれど…。
 …あの時、たしかに七生などいなくなればいいと、願った一瞬があったことを志保子は自覚していた。
 ストーカー男は言っていた。
 志保子の不幸が許せない。
 裏切る夫も許せないが、志保子から夫を奪った女が許せなかったのだと。
 まるで志保子の心の奥底を覗き込んだかのような言葉。
 手段を思いつかなかっただけで、もしかしたら本音の底では七生の破滅を望んでいたのではないだろうか。
 だから、志保子は一切の言い訳をしなかった。
 できなかったのだ。
 高階家の令嬢よ、花沢家の夫人よと、褒め讃えられ尊崇されることはあっても、嘲りなど知らなかった志保子が、恥辱と軽蔑の中で過ごした数年間。
 それでも、志保子は顔を真っ直ぐに上げ続けた。
 「…誰に言い訳する必要もないことでしょう?関係のない他人には真実などどうでもよいことです。よりショッキングで興味深い話題があればそれでいい。……それこそ、類の記事に群がって、面白可笑しく騒ぎ立てる人たちのように」
 物事の真髄。
 世の中というものは、そういうものなのだと志保子も悟っていた。
 だからこそ。
 「牧野さんをここへ連れてきたのか」
 「………っ」
 「いるのだろう?」
 動揺は一瞬だった。
 ここは花沢家の別宅。
 望めば、馨の耳に入らぬことなど何一つないのだ。
 「そうです、と言ったら、あなたはどうされるおつもり?彰を…七生の息子を選んだあなたにとって、もはや類は無用の長物ということかしら?」
 そんなことはないだろうという意を込めて―――真っ直ぐに見返した目の強さは虚勢ではあっても、彼女の唯一絶対を守る為のもの。
 「………もう遅いのだ」
 「遅くはないわ。どんなことをしても巻き返して見せますわ」
 そうでなければ、あの日あの時―――犯した間違いが、すべて無駄になってしまう。
 多くの不幸と哀しみを撒き散らしたままで。
 「私も社長職を追われた…近く、引退することになるだろう」




*****




 「ぶっ!!」
 いきなりの突撃。
 「わんわんわんわん、わんわんわんわんっ」
 顔中を舐め回され、押し倒された床の上。
 「…あ、あら。だ、だめよ」
 焦った声音でリードを引いているようだが、興奮状態の犬を宥めるには至らない。
 それでもなんとか犬の猛攻撃から逃れでて、這う這うの体で立ち上がったつくしを、困った顔のまり子と堀田が覗き込む。
 「ま、まり子さん、…堀田さん」
 中型犬とはいえ、華奢な女性が一人で抑えるには辛かったらしい。
 堀田がなんとか宥めてベベのリードを引いてくれた。
 「どうして…」
 ここに?
 言葉にならない。
 数日前に帰宅していたまり子がこの場にいることもそうだったが、類がつくしにつけてくれていた堀田がこの場にいるのが信じられない。
 「牧野様、……私がついていながら、申し訳ありませんでした」
 「え?…ああ」
 おそらく護衛としてついていながら、司に拉致られることになってしまったことへの謝罪なのだろう。
 けれど…。
 「いえ、あたしも迂闊なところが多々あったんですから、頭を上げてください」
 何度となく失敗していながら、いくら友人が共にいるからといって、正体もなく飲み過ぎるなど言語道断な行いだったのだ。
 「…でも、どうしてここに」
 見れば、まり子と堀田の後ろには、つくしを部屋から出さない為の見張りとして配置されていたSPたちも控えていた。
 …もしかして?
 そんなわずかな希望。
 つい走らせてしまった視線が探してしまっている。
 けれど、どう見てもそこには類の姿などありはしない。
 自分でも自覚しているわずかな失望。
 「小父様が…」 
 「え?」
 「…今、花沢の小父様が志保子小母様にお会いしていらっしゃいます。…牧野さんは、今のうちにこちらへ。外に…車が待っています」





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