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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて474

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 「…七生とはずっと会っていなかった、と言ったら信じてくれるか」
 いまさら…二十数年も経ってもの言い訳。
 けれど、たしかにあの頃の状況で、言い訳など聞く暇も心の余裕もなかった…誰にも。
 本当に久しぶりの再会だった。
 笑えてしまうことに、志保子との結婚後も、馨は志保子と七生が姉妹であることを知らなかった。
 一つには戸籍にも載らない外腹であったこと。
 そして、もう一つは、それに付帯してか、盛大に執り行われた両家の結婚式で、高階家側の親族席にも…友人席にも七生の姿がなかったからだ。
 学生時代の恋人に、理由らしい理由も告げられずに一方的に押し付けられての納得のできない別離。
 心が残ってしまっていた。
 その本当の理由を馨が知ったのは…ホンの偶然。
 おそらく志保子にしても、七生にしても意図せぬ再会だったのだろう。
 まるで絵に描いた三竦みのようだった。
 間に立って紹介する人間の、なんと間の抜けたことだっただろうか。
 当然、当事者である彼ら三人には、そんな間の抜けた人間を見る余裕さえもなかった。
 「どうでしょう?」
 「…志保子」
 「あなたがあの子とずっと会っていたのだろうと、会っていなかったのであろうと、それがどうしたというのでしょう?私が知らなかったとでもお思い?私を抱きながら、あなたが誰を見ていたか」
 志保子と七生が姉妹だとは知らなかった。
 けれどさすがに身近に志保子と暮らすようになって、ふとした横顔に、ふとした表情に、自分が愛した女との相似を見つけていた。
 …そうだ、初めて七生に出逢った時、誰かに似ていると思ったのではなかったか。
 もしかしたら、だからこそ七生が忘れられなかったのかもしれない。
 彼女たちの外見の相似を見るにつけ…、その相似に反したあまりにも個性の違いを見せつけられるにつれて。
 志保子は誤解していたかもしれないが、馨は馨なりに志保子を愛してもいた。
 最初は馴染めなかった。
 澄ました態度や大人しいというよりも冷ややかな志保子の性格が、疎ましいと言わないまでもどこか物足りなく、どうしても妻として寄り添い愛おしむ自信がなかったのだ。
 だが、時が経ち、志保子の人となりに触れる機会が増えるにつれ、さすがに理解できるようにもなっていた。
 玲瓏とした完璧な佇まいの美貌の貴婦人。
 その中に息づく不器用で物慣れない女の一途な愛情を。
 清廉とした美貌の影に潜む、柔らかで臆病な心根を。
 そんな彼女の本質に気がつき、彼なりに志保子を受け入れられるようになっていたのだ。
 ただ政略で娶された妻としてだけではなく、一人の女性として慈しもう。
 いや愛してゆこうと思っていたのに。
 それなのに、一瞬で時が戻ってしまった。
 忘れよう…忘れなければならないと思い続けていた女を目の前にして。
 過ちだった。
 いや、おそらく最初からわかっていた。
 一度っきりと決意して目を瞑ったはずの逢瀬が、二回、三回と重なるにつれて、欲望は膨らんだ。
 もう一度夢を見たい。
 今や花沢物産の名実ともに守護者として立つようになった自分が、どうして愛する女を隣に据えることが許されないのか、と。
 愛する女の笑顔を見て、彼女を抱き、彼女と生きる人生。
 わずかに志保子への憐憫を抱きながら、それでも七生を失うことなどできるはずがない、と。
 けれど―――。
 『妊娠しました。…きっと、花沢の後継になるべき、男の子ですわ』
 あの日、あの時、たしかに志保子の顔は誇らしげに輝いていた。
 これでやっと本当の意味で、馨を手に入れた。
 自分の位置を確固たるものにできたのだと、安心できたのかもしれない。
 ずっと…、ずっと…不安だったのだ。
 自分が手に入れるべきでない位置を強引に手に入れたその時から。
 七生と志保子の間で、そのことが話し合われることは結局なかった。
 あの破局の日まで。
 志保子と七生の父が正そうとした道を、志保子が受け入れず、自分の幸福のために二人の男女を引き裂いたことなど。
 誰にも知られるはずがないと思いつつも、ずっと苦しかった。
 間違ったことをしている自分が、空恐ろしくいつその罪が暴かれるかと戦々恐々としていたのだ。
 だから、子供ができた時は嬉しかった。
 まさか、今も二人が互いを求め合っているなんて思いもよらずに。
 わずかに青ざめた馨の顔が忘れられない。
 それでも、
 『おめでとう、嬉しいよ。体に気をつけて、元気な子を産んでくれ。花沢のために』
 そう言ってくれて嬉しかったのに。
 交差する現在と過去―――。
 「それに会っていなかったと言っても、それはいつまでのことをおっしゃっているのかしら?」
 「…………」
 「間違っていたわね。私もあなたも。そして…七生も」
 愛されていないと知っていながら、恋人のいる男と強引に結婚した志保子。
 愛する女に去られたからといって、唯々諾々と家の都合に従った馨。
 そして、おそらく、馨の正体―――志保子の許嫁であることを知ったからこそ、黙って身を引いた七生。
 もしかしたら、かなり早い段階から知っていたのかもしれない。
 けれど、心に逆らえず、なのに結局戦うことさえもなく一人逃げだした。
 そんなことはわかっていた。
 七生もまた志保子を愛していたのだから。
 けれど思わずにはいられない。
 結局誰も彼もがエゴイストだったのだと。
 それなのに、志保子は無理やり運命を自分に引き寄せようと足掻いた。
 自分のエゴと間違いに気がついていたのに、正そうとせずに、すべてを手に入れようとした。
 何度間違っても、同じことを繰り返さずにはいられない。
 これでやっと長い自分の疑心暗鬼を拭い去ることができるのだと。
 遠ざかっていた七生の住むマンションに向かったのは、いったいどんな運命の恣意…あるいは悪戯だったのか。
 『愛してる、お前を愛してるんだ。…お前を諦めることなんて、俺にはできない』
 『…ダメよ、もうこれ以上は。とてもシホを裏切り続けることなんてできない』
 いくら親しい友の家だとはいえ、いつもは他人の家に黙って上がり込んだりする志保子ではなかったのに。
 手にかけた玄関のドアノブはカギが開いていた。
 どうして引き返さなかったのか。
 応答のないインターフォンの虚しい響きに、留守だと思って引き返すべきだったのに。 
 あの時の驚愕した二人の顔が忘れられない。
 なんて滑稽で、なんて浅ましくて…残酷な。
 『志保子ッ!!!』
 追いかけてくる七生の声。
 あの時の絶望と哀しみが蘇って志保子は体を震わせた。 
 …ああ、これが罪の報い。
 本当なら夫の隣に座っているべき人間は自分ではなかったというのに、それを無理矢理にネジ曲げた。
 挙句の果てに―――。
 「愚かですわよね。あの子がたとえあなたの前からいなくなったのだとしても、それで私があなたに愛されるわけでもないのに、ホントに醜いこと」
 「あれは、お前のせいじゃない。…私は知っていたのに、それを無視してお前一人に罪を押し付けた」 
 二人の女を不幸に落としてしまった自分の罪を直視できず、結局更なる不幸を呼んでしまった卑怯で臆病な男の独白。
 愛は狂気に似ている。
 愛は嫉妬をも生み、多くの悲劇を呼ぶ。
 そのことを当時の自分は知らなかった。
 「あの子が、高階を出てどこにも行けないのを知っていたのに」
 愛する男を取り上げ、高階家の人々以外に縁の繋がる人も頼るべき人もいないとわかっていたのに。
 『出て行って!!高階の家からも、会社からも出て行って!!そしてもう…あの人と私の前に二度と現れないでッ』 
 志保子が逃げ帰った実家まで訪ねてきた七生の言い訳すら聞かずに言い捨てた。
 しまいには、
 『…お願いよ、七生。私からあの人を取り上げないで。子供が生まれるの。やっと…私の場所になるところだったのに』
 縋り付いて、哀願さえしたのだ。
 あの優しい友が、そんな彼女の頼みを断れるはずもないとわかっていたのに。
 それでも、失いたくなかった。
 初めて出逢った時から愛した人だったから。
 『わかってる。シホ、わかってるよ。もう二度とあの人には会わない、約束するから。……ごめんね』
 それがおそらくちゃんとした彼女との最後の会話だった。
 『…赤ちゃん、大切にして』
 そう言い残して去って行った。 
 たぶん、あの時には、七生も自分の中にも宿っている小さな命の存在にも気がついていたに違いない。
 どうして、彼女を一人で行かせてしまったのだろう。
 何でもない時には、必ず彼女を車で送らせていたというのに。
 辛くて…辛くて…本当に辛くて。
 彼女のくれた約束が嬉しくてしかたがないはずなのに、軋る罪悪感と哀しみに身悶えた。
 手に入れたものがあまりにみすぼらしく汚らしすぎて。
 大好きな彼女を不幸にして、自分が手に入れた幸福。
 それなのに、涙が溢れて仕方が無かったのだ。
 『…た、大変です!七生さんがっ』 
 父のもとに届いた第一報。 
 留守だった父のかわりに兄が受けたその横で、志保子も聞いていた。
 『今、警察から電話があって…、七生さんが病院に運ばれたそうです』
 …ああ。
 「ああ…」
 心の中で呻いたつもりだったのに、いつの間にか…声に出ていた。
 溢れ出す涙が時を戻して、まるで今あったことであるかのように目の前に蘇る。
 あの時に戻れれば。
 あの時に戻ることさえできれば、と。
 何度となく願った想いが、今また―――。





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~ Comment ~

NoTitle

七生さんは黙って馨さんから身をひいたのですね。留学先で知り合い恋をした相手は親友であり異母姉であり自分を生んだ母は世間から見て私生児を生んだ女。さぞかし辛かったでしょうね。私なら心の中でなんでアンタだけがそんな上品ぶって生きているのさ!バカバカしい、このうちの財産を分捕ってやらから覚悟しときな!と腹の中で作を練っていたかもしれない。なぜ彰がつくしに類に対して面従腹背を示唆していたのか今になってよくわかった。事実を知った彰は志保子が正妻に生まれた地位を使って母を罵倒し、外に生まれた故の母の悲しみに憤ったことでしょう。そして彰は母の愛を知る事なく高階家の長男の嫡子あるいは養子?でも彰は類から見て自分と同じように暗い目をしていたと言っていたような。
彰は母の仇を取りたいがゆえに恋人を振って愛のない女を娶ろうとしている。恋人だった七生さんは母のように気の毒な女ではないけれど。彰の父は母を振ったわけではなく自分から身をひいた。彰は自分から恋人の手を離した。似ているようで似ていない。自分の方がより冷酷であることに気づいているのかしら。

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