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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて473

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 『え?どうしてですか?』
 大学4年生の秋。
 あの日も激しい嵐のすぐ後だっただろうか。
 目にも眩しい陽の光がかえって禍々しくて、ジーンと後ろ頭が冷たい貧血の予兆を訴えていたことをなぜかよく覚えている。
 いつもは従順で口答えしない志保子が、唯々諾々と承諾しないことがそんなに意外だったのだろうか。
 虚を突かれたような顔した父が、言葉に詰まって、珍しく視線を泳がせた。
 『…馨君が、お前との婚約解消を希望しているらしい』
 …らしい。
 父にしては曖昧で、そしてなぜか慮るような口調。
 自信に満ちて、権威的な人だった。
 そんな父が、一方的な婚約解消?などに応じるはずもないというのに。
 高校2年生の時に引き合わされた男性。
 やはりそれは見合いだった。
 彼ら二人には告げられていなかったけれど、幼い頃に縁付けられていた許嫁同士。
 志保子の大学卒業を待って結婚する予定だったのだ。
 それでも志保子は嬉しかった。
 素直に感情を表すことなどできなかったけれど。
 好意を伝えたくても、それが何よりも難しかったことだったけれど。
 その後、一つ年上だというこの人とは、彼がアメリカに留学した以降も、何度となく定期的に会う機会を設けられた。
 長期の休みの間には、互いの家へ滞在することもあったというのに。
 志保子にしては馴染めていたと思う。
 自分なりの精一杯だった。
 ただ彼に可愛いと思われたかった、少しでも好かれたかった。
 たとえ彼にあるのは、政略結婚の相手にすぎないという認識ではあっても。
 それなのに…。
 いったいどうして?
 『私が…いえ、私の何がいけないのでしょうか?』
 激高せずに言葉を選ぶ父の態度もよくわからなかった。
 『……恋人が、いるらしい』
 『え?』
 『あちらの大学で、できた縁だったようだ』
 何を言われているかわからない、そういうわけではなかったけれど。
 それでもやっぱり、感情が理解することを拒んでいたのだろう。
 『…私も調べさせた』
 『………』
 『お前との話を現実的に進めたのはつい最近のことだが、花沢家とはそのつもりで双方提携を結んでいた』
 よくある話。
 志保子の身近にも聞く。
 それならばなぜ、父は志保子にそんな話をするのだろうか?
 一笑に伏すでもなく、婚約解消を自ら申し出よ、との提案は父らしくもない。
 第一、馨の意思はともかくとして、父の語り口調からして、花沢家から正式に申し出られた話ではないのだろう。
 それなのに…。
 あの時の衝撃が蘇る。
 まるで今、再び耳元で告げられたかのようなクッキリとした言葉で―――。
 『七生だ』
 『え?』
 まるで一つ覚えのマリオネットのようだ。
 え?と無言の繰り返し、それ以外の言葉など思いつきはしなかった。
 『…なんという運命の悪戯か。馨君の大学での恋人というのが、あちらに留学にやっているうちの七生だということらしい』
 『…七生?』
 まだまだ勉強が忙しすぎるから恋どころではないと、この間の電話でも言っていたばかりだというのに。
 いつからだろう。
 七生が変わった。
 高校を卒業し、アメリカに希望通り留学した親友の七生。
 いつもなんでも志保子には話してくれていた彼女が、何かを隠すようになった。
 最初の頃は、長期の休みには必ず日本に帰ってきて、志保子に会いに来てくれていたというのに、勉強が忙しいからと日本に帰ってくることを厭うようになって。
 志保子が会いに行かなければ、大学時代の4年間ほとんど会うこともできなかったことだろう。
 明るく朗らかで、屈託のない彼女が、時々言葉を呑むようになったその理由はなんなのかと思っていた。
 寂しかった。
 たった一人の大切な友達。
 その友達にさえ隠し事をされる信頼されていない自分。
 それでもいつか、彼女が再び信頼を取り戻してくれると信じていたのに。
 『私から言い出すわけにはいかない』
 …なにを?
 『お前の母親への遠慮というものがある。…だから、お前から申し出てくれないか?馨君との婚約解消を』
 …どうして?
 本当になぜなのか、志保子には理解できなかった。
 七生と馨の関係を聞いてさえ、実感として理解できていなかったのだ。
 ただ、馨が自分との結婚を望んでいない。
 それだけは唯一わかったことで。
 …こんなに好きなのに。
 彼に逢える日を、指折り数えては、彼の笑顔に胸を躍らせ、この世で最高の幸せだと感じた日々。
 『高階としては、お前でも七生でもかまわない。…今は公にはしていないが、お前と正式に婚約を解消し七生と結婚ということになれば、七生を当家の養女として正式にうちに入れる』
 なぜか母の憎しみに満ちた七生への眼差しが、ふいに蘇った。
 『妹だ』
 たぶん予感があった。
 それでも…ただ彼女が好きだった。
 ずっと、結婚しても、子供が生まれても、年老いても…友達でいられたら、と願った日々は永遠に戻っては来なかった。
 『七生は私の娘だ。お前とは母親の違う、この高階の実子。お前の異母妹なのだ』




*****




 初めて出逢った時、誰かに似ている気がした。
 けれど、それまで彼の人生で彼女のような女性は登場したことがなかった。
 明るくて、朗らかで、屈託がなくて、打算がなくて…ただ真っ直ぐな目の優しい女。
 生まれ故郷とは遠く離れた異国の地・アメリカで見覚えもあるはずもないと、見逃した。
 それがその後、多くの過ちと苦悩と不幸を生み出す結果になるとは思いもよらず。
 ただ、恋しただけ。
 ただ、彼女が欲しかった。
 彼を見て微笑むその顔が、可愛いくて、幸せにしたい。
 そう願ったはずなのに。
 自分の立場と生まれが、そんなささやかな願いを妨げた。
 責任と義務、課せられた期待に、裏切ることなど生真面目な彼には無理な話だったのだ。
 たぶん…弱かったのだろう。
 それらを振り捨て、一人の女を選ぶには彼は優柔不断に過ぎた。
 割り切ることもできず、いつも中途半端で、愛する者たちを振り回した。
 あの日…あの時、彼女と出逢うことさえなかったら。
 いや、後悔することさえできない自分を自嘲する。
 それでも出逢いたかった。
 彼女を愛したかった。
 出逢えず愛することさえできない過去などいらない。
 それならば、やはり罪はすべて彼にあるのだろう。
 初めて――七生が志保子の異母妹だと知らされた時のその衝撃。





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