「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて471

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 『……あなたもいいかげん、ご自分の罪を直視なさるべきでは?』
 賢しげな息子の耳障りな声が耳に残る。
 思えば、昔からあの息子が苦手だったことを馨は思い出していた。
 まるですべてを超越しかのように、すべてを見透かす目の向こうにあるものに苛立たせられた。
 それでも馨の中では、ただ一つの確信だったのだ。
 …類しかいない。この花沢を更なる発展に導き、次代に引き継ぐべき後継者は。
 それは思い込みだったのかもしれない。
 あるいは人はそれを固執というのかもしれなかった。
 それでも、類が従順を装い、時流に流されているうちは良かった。
 彼には野心はなかったけれど、あえて逆らうほどの熱意も気力もない男だったから。
 それが変わってしまった、一人の女ゆえに。
 かつて馨が大業の前の小事であると、心を殺し捨て去ってきたものを理由に、全てを壊した。
 トントントン―――。
 おそらく、予感はすでにあった。
 「類の後に、今度はお前か」 
 誰の訪問かなどは、とっくにわかっている。
 そしてその要件もまた…。
 「…入れ」
 ガチャリとドアを開け、顔を覗かした男の顔に既視感を憶えた。
 それは、二十数年前の光景。
 この社長室に入ってきたのは、今顔を覗かせた彰ではなく、馨自身だったけれど。
 座りなれたこの役員椅子ともどうやら別れる時が来たようだ。
 いつの間にか、あれほど荒れ狂っていた気持ちが、不思議に凪いで、これまでの自分の人生を客観的に思い起こす余裕が出てきていた。
 …ふ。
 思えば、生き急ぐように駆け抜けてきた。
 周囲のものたちを顧みる余裕もなく、また愛する者たちをおざなりにして、自分はここまで来たのだ。
 …後悔?
 そんなものがあるはずもない。
 けっして後悔することなど自分に赦せるはずもなかった。
 目の前に立つ、自分によく似た男の顔をジッと見据える。
 我が子とは言えじっくりと眺めたことがなかった。
 しかし、こうして見てみれば、類よりも遥かにこの息子の方が自分によく似ていることに気が付く。
 おそらく外見の相似性よりも、魂そのものが似ているのだろう。
 いつも彰を見ると、彼を産んだ母を思い出した。
 馨が愛した最愛の女。
 愛すればこそ、彼女への罪悪感と哀切に心が軋んだ。
 そしてもう一人の、彼故に不幸にしてしまった女への。
 二人の女を愛してしまったからこそ起きてしまった悲劇。
 けれど、それは今、ここで言うべきことではない。
 親の愛憎などこの目の前の息子が、いまさら聞きたいとは思っていないだろうことを承知して。
 「…それで?」
 無表情に見下ろしている彰へと、いわずもがなな問を問いかけ、要件を促す。

 「役員会の招集が明日、行われます」
 「私の承認もなく?」 
 「…あなたは召喚される立場です。あなたの代表権に対する不信任案が評議される予定です」
 「どちらにせよ、もう根回しは終わってるのだろう?」
 わかっていた。
 類がこの件を始めた時から。
 いやもしかしたら、それ以前、ずっと前から仕組まれていたことなのかもしれない。
 「ええ、そのとおりです。今回の類の事件により、さまざまな部門で不都合が生じています。株価の低迷はもちろんのこと、関連事業での契約破棄や取引停止などはすべて、今回の事件に端を発し、当然、その責任は現在の代表取締役であるあなたにある。ましてや、あなたは類の父親だ。父親としての倫理的、道義的責任も当然問われることになるでしょう」
 「……なるほど、倫理的、道義的責任か。蛙の子は蛙だな。それで?その後はどうする」
 「代表権だけではなく、あなたには取締役からも、退いてもらうことになるでしょう」
 沈黙が落ちた。
 わかりきったことだったが、それでも複雑なものが胸に宿る。
 ましてや今回の事件は、政敵に陥れられたわけでもなければ、自らの失態でもなく、その責任を問われている息子自身の画策であったのだから。
 …それでも、類に負けた、とも言えるか。
 そして、目の前のもう一人の息子に。
 今や彼にもわかっていた。
 「次にこの椅子に座るのは、お前というわけかね?」
 「…役員会の承諾が得られれば」
 「よくもいう。最初から、そのつもりで私の追い落としにかかっていたのだろう。お前のバックについているのは道明寺か?バルビエだけではないだろう」
 よもや司が類ではなく、彰に肩入れするとも思えなかったが、そこに類の意思があればまた別の話だろう。 
 「去るべきあなたには、もはや関わりのないことでは?」
 「まったくだな。…しかし、お前もまた花沢の一族には違いあるまい」
 「ふっ…俺がですか?」
 噴き出した彰の顔は本当に、いかにも面白いことを言われたという顔だった。
 「俺は高階家の人間ですよ。内々には事情を知っている人間もいますが、ごく少数のことですし、実際、俺は正式な高階家の直系だ。たとえ、養子にしてもね」
 「花沢の汚名を、縁戚の高階が濯ぐというシナリオというわけだ。ずいぶんチープなものだな」
 「なんとでも」
 互いにあるのは親子というよりも、冷え冷えとした他人行儀なものがあるだけだった。
 だが、これまでもずっとそうだったのだ。
 彰が初めて、この実父だという男に引き合わされたその時から。
 「高階の…一族の恥を晒しそうな方のことはあなたにお任せしますよ」
 「………」
 「それはあなたの責任のはずだ。少なくても、俺までもが失脚すれば花沢は断絶したも同然。あなたにとっても、それはありがたくないはずなのでは?」
 「……どうだろうな」
 不思議なことに馨の中からはすでに毒気も…野心も抜け果て、そこには穏やかな諦観があるだけだった。
 それに鼻白んで、彰が踵を返す。
 「では、また明日」
 「………彰」
 立ち去りかけた彰へと、馨が声をかける。
 振り向かないままにドアノブに手をかけ、彰が立ち止まった。 
 その背に向け、馨が一言。
 「ずっと、すまなかったな。…花沢物産を頼む」




*****




 一人になった社長室の部屋を見回す。
 何十年と戦い続けた場所。
 けれど、意外になんの感慨も湧いてこないことに、馨は自嘲する。
 すべてを捨て、感情を押し殺し、この会社の発展のためにだけ尽くしてきた。
 けれど、結局この手に残ったものは、なんだったのだろう。
 「だが、…私にもまだもう一つやるべきことが残っているか」
 怜悧な息子の声が耳に蘇った。
 『……あなたもいいかげん、ご自分の罪を直視なさるべきでは?』
 先ほどの沸騰した頭では耳障りに思えたその声が、確かな天啓のように様変わりしていた。
 「…私も、現金なものだな」
 彼が生み出したこの歪を、すべて正しい場所へと。
 それが最後に、彼に課せられた役目なのだろう。





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