FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて467

 ←こ茶子の部屋の足跡~Vol.05 →鳶に油揚げ…中上編
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 『どうして人は過ちを犯すのかしらね』
 志保子の言葉が蘇る。
 それはもしかして、まり子に語ったものではなくて、単なる独白だったのかもしれない。
 いつものように泰然とした美貌の横顔にはなんの感情も浮かんではいなかったけれど、なぜか志保子が泣いている気がしていた。
 もしかしたら、柔らかな微笑の中に本心を隠しているまり子だったからわかるのかもしれない。
 …どうして嫌なことは嫌だと言わないの?
 昔静に言われたことがあったが、自分は答えられなかった。
 そういう性質なのだとしか言い様がない。
 自分が言ったことで相手が嫌な顔をしたり、怒ったり、嘆いたり、そうした生の感情をブツけられるのが怖かった。
 自然、笑顔という名の仮面をつけて、素直な感情を吐露させられる人たちには理解されなかった。
 けれど、何も感じていないわけではないのに。
 志保子の冷たい仮面の中に、あるいはまり子の曖昧な微笑みの中には喜びも悲しみもある。
 誰をにも幸せや不幸があるように、志保子やまり子にも人間としての感情があるのだ。
 『何度後悔しても、あの時に戻りたいと願っても、それはかなわないことなの』
 『……戻れなくても、繰り返さないことはできるのではないでしょうか?』
 賢しげだったかと、言った瞬間後悔した。
 けれど、志保子は嫌な顔をもせず、少しだけ考え込んで小さく首を振った。 
 『人はね、愚かな存在だから。間違っているとわかっていても、一度犯してしまった過ちはそう簡単に正せないし、ダメだとわかっていても同じ道に踏み込んでしまう。愚かにも何度も同じ罪を犯さざる得ないのよ』
 『どうしてですか?…自分が苦しむことになるとわかっているのに?』
 『苦しければ苦しいだけ人は愚かになる。愚かになって、その苦しみを贖おうと悪足掻きをしてしまうのね。…だって、もうどうしていいか自分ではわからないのだもの。何もかも投げ出してしまえれば、もしかしたら、それが一番いいのかもしれないわね』
 だがしかし、おそらく志保子にはそれができないのだ。
 間違っているとわかっていても、その過ち正すために更なる過ちを犯す悪循環にハマってしまった。
 そうしなければ生きていけない。
 そう志保子の横顔が語っていた。
 …赦されたい。
 赦せない。
 いやもしかしたら、赦されるはずもない、だったのだろうか。
 志保子が何を苦しみ、何を足掻いているのか、まり子にも知りようもなかったけれど、ただこれだけはわかっていた。
 …自分が正しいと思っていたら、人は後悔しない。
 過ちを認めていないのであれば、苦しみはしないのだ。
 そして、そんな志保子が同じことを繰り返すほどに愚かだとは思わない。
 ドレッサーに投げ出してあった携帯電話へと視線を向ける。
 さっきから何度となく手に取っては、タップすることができずにいた名前。
 これは過ちだろうか。
 再び、携帯電話を手に取り悩む。
 が、ふと気がついた。
 たとえ自分がこの番号にかけたとしても、果たして相手は、自分からの通話に応じてくれるだろうか。
 …どうしよう。
 しかし、そんなまり子の逡巡の答えのように、その当の相手からの着信に、まり子がビクッと体を揺らした。
 …運命?
 まさか。
 おそらく単なる必然と帰結にすぎないのだろう。
 受信をタップして、携帯電話を耳にあてる。
 「…はい、藤堂まり子です」
 『こんばんは、……花沢類です』




*****





 なんだか疲れが取れない。
 この恐ろしい程にフカフカと柔らかく、それでいて適度な弾力のある超高級ベッドのせいではないだろう。
 おかげさまで、超ド庶民のつくしでも寝慣れている。
 下から上へとランクアップするにはあっという間に慣れたものだが、この逆は果たしてどうなのだろうと、少しだけ悩んだ。
 昨日までのドシャぶりの雨が嘘のように、空はすっかり快晴。
 青い空から降り注ぐ陽光がかなり眩しい。
 「…つーか、うげ、もう10時じゃん」
 ヘビーな会談から一夜明けて、やっと軟禁生活から解放されたと思ったら、今度はどうやら監禁生活になる見込みだ。
 いつもだったらとっくに動き出している時間。
 バフンッとベッドに再び寝転がって、額に手をあて、大きく息を吐き出す。
 …類、心配してるかな。
 それともまだ道明寺邸に居座っていると、思っているだろうか。
 どうやら世間の噂とは違って、この北軽井沢の別荘に類は滞在していなかった。
 …それなら、どこに。
 そうは思うものの、こちらから連絡できないのはもちろんのこと、果たして自分はここから出してもらえる日が本当に来るのかと怪しむ。
 昨夜―――すでに今朝だったかもしれない。
 志保子との交渉?はもちろん決裂。
 つくしに承諾しえるたぐいの要求ではなかったからだ。
 『あなたの画策だと認めてください』
 まさかそんなことを言われるなんて―――乾いた笑いはどこまでも虚ろで我ながら力がない。
 志保子の要求…それは、雑誌への暴露を自分だと認め、それさえも類を陥れる為のつくしの画策で、類に結婚の約束を反故にされての恨みからだと世間に告白せよ、というものだった。
 そこに真実は必要ない。
 ただ志保子の思い込みとシナリオがあるだけ。
 合意での交際。
 さんざん類と別れろと迫っておいて、今度は認めろとはさすがに驚いた。
 おそらく司の関与を疑いながらも、あくまでもつくしの一存で済ませようとする背景には、彼の力を恐れてのことと、呑気なつくしにも容易に知れた。
 …どこまでも。
 鼻で笑う。
 志保子にとって脅威なのは世間の目と、司の力なのだろう。
 だから、つくし一人に泥を被せ、表舞台から消えよ、と迫る。
 そこにつくしの感情など斟酌する余地もなく、断ればここから出すことはできないと言う彼女の目に狂気が覗いた。
 『どちらにせよ、あなたが道明寺家の嫁として入ることなどできないのはわかりきったことです。それはあなたもよくお分かりのはずですね?』
 過去、ただ庶民の出身だからという理由だけで、楓に司との交際を妨害されたことは志保子も知っているのだろう。
 そうでなくても、志保子の常識と楓の行った所業は一致する。
 そして、今回つくしが類との関係を認めれば、世間の風聞や誹謗中傷を一心に受ける結果になる…もちろん、つくしが。
 なんともバカバカしい貧乏籤だが、そんなことをつくしが受けるだなんて、大真面目に志保子は思っているのだろうか。
 『お受けくださらなくても、かまいません。どちらにせよ、このままでは類の未来は閉ざされてしまうことでしょう。…それくらいなら、あなたには私と永遠にここで暮らしていただきます。よくお考えになって?私が死ぬか、あなたが私の要求を受け入れてくださるその時まで、私とここで一緒に暮らしましょう』
 それでもその目に本気が見えて、ゾクリとつくしは背筋を泡立たせた。





◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





↓ランキングの協力もよろしくです♪
ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2






関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【こ茶子の部屋の足跡~Vol.05】へ
  • 【鳶に油揚げ…中上編】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【こ茶子の部屋の足跡~Vol.05】へ
  • 【鳶に油揚げ…中上編】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク