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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて466

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 ドレッサーに向かい髪を梳き、顔に含ませた化粧水の馴染みを確認する。
 鏡に映った壁時計の時間はもう午前に近い時間帯。
 …あれから、どうなったのかしら。
 はしたないことだとは思いつつも、ホンの1時間ほど前に残してきてしまったつくしと、志保子のことが気になって気になって…。
 …小母さま。
 滅多なことはないだろう。
 そうは思うのに、志保子の部屋を退出する間際のつくしの縋るような目が忘れられず、後ろ髪惹かれて仕方がない。
 …私、牧野さんをこちらに連れてきてしまったのは間違いだったのかしら。
 最初から迷いはあった。
 まり子だとて、世間知らずではあるが、愚かなわけではない。
 類を間に挟んだ、志保子とつくしの相克を理解していないわけではなかったけれど、打ちしがれ、窶れてしまった志保子の頼みを、無碍に断ることができなかったのだ。
 彼女への好意と恩義ゆえに、躊躇しつつもつい従ってしまった。
 いまだこの醜聞に塗れた花沢家に出入りしていることを父は知らない。
 もし知られてしまったら、ここに来ることは禁止されていたに違いない。
 けれど、現在、仕事の都合で父は日本にはいなかった。。
 父と自分との間で右往左往する年若い義母は、家庭内の不和を恐れてまり子に意見をしたり、告げ口をすることはなかったから、しばらくは大丈夫だと思う。
 …家に居場所がない。
 幼い異母弟は可愛いし、年が近すぎて母と思うには難しい父の妻である人のことも嫌いではなかった。
 だが、まり子もまた社交的な性格ではなかったし、従姉妹の静のように自分の目標を持って何かを掴みとろうという気概も…勇気さえもない。
 そんな彼女にとって、何くれとなく気を遣い優しくしてくれる志保子との時間はこの上ない安らぎだったのだ。
 『…あの家の者たちに関わるのはもう辞めるのだ』
 父の声が耳元にふいに蘇って、まり子はブルリと体を震わせる。
 類との縁談が破談になって、父の怒りは相当なものだった。
 それ以前にも元々それほど乗り気ではなかったこともある。
 だが、静の父である伯父の意向があった。
 類の父の馨と静の父は学生時代の友人で、仕事上の関わりも深かった。
 おそらく二人の念頭には、類と静の結婚という道もあったに違いない。
 けれど一人娘の静が家を出るに至って、かわりにお鉢が回ってきたのが、まり子だった。
 まるで出来の悪いスペアをあてがわれるように、ほとんどの人間が歓迎することのなかったこの縁談を、ただ一人志保子だけが喜んでくれた。
 『私は嬉しいわ。まり子さんが私の本当の娘になってくれたら、毎日がどんなに楽しくて幸せなことかと思うの。もちろん、今もあなたのことをとても可愛いと思っていてよ?」
 たとえそこには、従順な娘で家名に泥を塗ったり、志保子や家の者たちに逆らうような気概がない都合の良い娘だという認識が含まれていようと、別にまり子は構わなかった。
 まるで静の影であるかのように、華やかで明るい静を誰もが愛し褒め称え、誰もまり子を顧みなかった。
 けれど、なまじ容姿が似ているために、同じことを求められても上手く応えることができない彼女を失望し、父や周囲のものたちは溜息をついた。
 『静にこんなに似てるのに…』
 『静ならこれくらいできただろうに…』
 『静と同じことがどうしてできないんだ』
 『静なら…』
 『静なら…』
 『静なら…』
 何度となく言われなれた言葉。
 せめて静を憎めればよかったかもしれない。
 だが、あまりに手の届かない存在である静を嫉妬することなどとてもできなかった。
 人は自分に手が届きそうな相手には敵愾心を抱くことができる。
 けれど、あまりに隔たっている存在は眩しすぎて…憎むか、諦めるしかないのだ。
 だからむしろ、類の態度は嫌ではなかった。
 まり子を認識することさえしてくれはしなかったけれど、誰もが重ね見て勝手に失望してゆくというのに、一度たりとも類は彼女を静と同一しすることがなかったからだ。
 期待されていないから、失望されることもない。
 それが嬉しいなんて、自分でもおかしいとわかっている。
 けれど、私は私なの。
 静お姉さまじゃない。
 社交的でなくても、明るくなくても、活発でなくても、それでもいいと言って欲しい。
 『罪人だ。あの女は狂っている―――花沢…いや、高階志保子は母親の違う妹を、自分の崇拝者に襲わせて、自殺に追い込んだ。ここまでは、社交界でも一時期、噂になったことで、当時も世間を賑わせたものだ。ただ、それを言っているのが実際に事件を起こした男だけのことで、高階志保子は認めなかった。またその男は、高階志保子の結婚前からの熱烈な求婚者であり、結婚後もかなり付きまとっていたようだったから、どこまで信憑性のある話かわからない。また実際に高階志保子が逮捕されるということもなかった。…それだけでも我が家と縁付くには、噴飯ものではあるがな』
 そこで言葉を切った父の顔には本物の嫌悪が宿っていた。
 『しかし、まあ、あの高階家の令嬢で、花沢家の夫人だ。大いに多めに見て、根も葉もない噂だと笑い飛ばすこともできなくはない。だが、私の兄は花沢と当時も懇意にしていた。その兄から聞いたことだから間違いない。その事件の直前、夫である花沢とその異母妹とが不倫関係にあったことが、志保子に知られて言い争いになっていたそうだ。身重の妻がいながら、関係を持つなど、花沢やその異母妹も呆れた話だが、それを恨んで…というのはなんともはや』
 『…小母さまが』
 さすがに志保子を母とも慕うまり子にしても、花沢家の醜聞は息を呑むほどに凄惨なものだった。
 『その事件の後、妻は流産し、愛人である異母妹は妊娠が発覚した。当時は妊娠中のDNA鑑定などは難しかったことと、…気が触れていたらしいからな。結局、出産まで誰の子かわからないままだったらしい。どうして、堕胎させなかったのか理解に苦しむが、まあ、そういう事情だったようだ。まったく、よくも高階も花沢も平然と社交界で大きな顔をしていられるものだと、そこまでいってしまうと、さすがの私でも感心するしかなかったよ』
 実際には感心どころか、父の顔に浮かんでいたのは嘲り。
 人情家の伯父とは異なり、父はそうした曲がったこと、世間的に認められないような過ちが大嫌いだった。
 本当に父が言うように、まり子と類との縁談を渋々にでも認めたのは、伯父の口添えがあったからなのだろう。
 我を曲げない父が唯一頭の上がらない相手…それが伯父だった。
 しかし、浮かんだ疑問に囚われていたまり子にとって、そんな父の態度はどうでもよく、また普段の父の性質から鑑みれば、当たり前すぎる反応で特に珍しいものでもない。
 『出産。その、…類さんの叔母さまという方には、お子さんがいらしたのですか』
 『ああ、―――高階彰だ』
 『高階…彰さん?』
 『そうだ。現在花沢の役員になっている所を見ると、どうやらその後DNA鑑定でもして、花沢の子だと証明されたのだろうが、当時はさすがにそこまで厚顔ではなかったのだろう。一度他家に養子に出して、高階志保子とその異母妹―――野上七生だったか、その二人の兄が養子として高階の家に迎え入れたようだ。ちょうどその兄も長男を失ったところだったし、高階は女系だからな。高階家の後継者にという目論見もあったのかもしれないな。そうした一連の出来事を思えば、やはりお前を縁付かせるなど、いくら兄の意向でも正気の沙汰ではなかったと後悔している』





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