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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて465

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 「…あるいは、司君があなたに、と言い換えた方がいいのかしら?」
 ガツンと後ろ頭を殴られたような衝撃に、つくしは顔色を変えた。
 正直、志保子が何を言っているのか理解できない。
 いや、理解したくない。
 こんな捻くれた思考する人間が、今目の前にいることが信じられない。
 「道明寺?どうして、ここに道明寺が出てくるんです?あたしはっ」
 あたしは…、自分でも制御できない激しい感情の高まりに言葉が詰まって、上手く喋ることができなくなってしまう。
 ただ熱くなった頭の中を駆け巡るのは、
 …違う、違う、違う、違う、違うっ、ちがうっ!!
 ただ、その言葉の繰り返し。
 叫ぶカタチのまま、口を半開きにして、衝撃に見開いた目は、ただただ志保子を見ていることしかできない。
 さすがの志保子も自分が言いすぎたことを自覚してか、そんなつくしからわずかに顔を反らし、2回、3回と落ち着かなげに視線を彷徨わせる。
 けれど、再び顔を上げた志保子の顔には、相変わらず温もりのない微笑が浮かんだまま、何の謝意も…憐憫もなくつくしの動揺を冷たく見据えた。
 「…どうすればいいのです?」
 「………」
 志保子の問いに、つくしが怪訝に目を瞬かせる。
 以前…金銭と引き換えに息子と別れてくれと迫った時を彷彿とさせる問いかけ。
 「何を差し出せば、あなた方は取引に応じてくださるのですか?」
 「…取引?」
 意外な申し出。
 「花沢物産における経営権の掌握ですか?まさか名実ともに、道明寺が花沢を取り込みたい…そういうおつもりなのかしら」
 「意味がわかりません。今回のこと…類、いえ、花沢さんとあたしの間に起こったことに、どうして道明寺…さんのことがでてくるのか。そもそも、花沢物産の経営だなんて、一介の会社員であるあたしにかかわり合いのあることだとはとても思えないです」
 「そうね、あなたには関わりがないかもしれない。興味もお持ちではないかしら。以前お会いして、私が息子のことを諦めてくださいとお願いしましたね?」
 「………ええ」
 そんなに昔のことではない。
 そうでなくても、志保子の仕打ちは忘れがたいものだ。
 …この人達にとって、あたしは人間ではないのかもしれない。
 そんな卑屈な思いさえも浮かび、つくしは自嘲する。
 けれど、それが彼女の愛する男の持つもの。
 生まれ育った世界であり、常識なのかもしれなかった。
 …それなら、また逃げる?
 かつて、司を見捨てたあの雨の日のように。
 自分の中の真意を探るまでもなく、簡単にその答えは浮かんだ。 
 だから…。
 「あの時、あなたは自分からは類と別れることはできないとおっしゃった。私は意味を取り違えていたのかしら?…つまり」
 「………」
 「あなたが別れることができないのは類ではなくって、司君。これはすべて、私の類から花沢物産を取り上げるための、司君の策略なのではなくって?」
 「……っ」
 「………」
 志保子がつくしの返事を待ち、沈黙した。
 何度も何度も唾を飲み込み、つくしは冷静になろうとする。
 けれど、震える舌先がまるで喉の奥に張り付き、塞いでしまったかのように上手く声を出せない。
 「……、ごめんなさい。手短に、と言っていたのにすっかり話が長くなってしまったわね。お茶をお出ししましょうか?」 
 まるで普通の世間話の合間のように、志保子にはなんの屈託も淀みもない。
 今目の前にいるつくしの胸を、『言葉』という名の刃で差し貫いたことに対するなんの悔悟もなく、罪悪感さえもなく、ただ冷然と佇んでいる。 
 …怖い。
 初めて思った。
 司の母、楓に対して抱いた時とはまた別の感慨。
 けれど結局のところ、根は同じことなのかもしれない。
 『家』を守るという大義名分の下に、人の感情や心などは斟酌に値せず、目的のためなら他人を踏みつけることなど、なんということもないのだろう。
 そして過去、自分はその脅威に屈し、戦うこともなく逃げたのだ。
 結果、愛する人たちを傷つけ、自身も後悔に悶え、そして無関係な人たちをも人の闇の深淵へと引きずり込むことになってしまった。
 つくしはあえて目を瞑り、息を大きく吸い、吐いて、深呼吸を繰り返す。
 震えが止まった。 
 真っ直ぐに志保子へと視線を戻す。
 無表情の顔にハマった彼女の目はまるで、感情を隠した時の類の目に似て、ガラス玉のように透明で…暗く冷たかった。
 「お茶はけっこうです」
 「そう」
 「あたしには本当にあなたがおっしゃている意味がわかりませんし、道明寺さんとあたしに対してされている誤解もその理由もまったく理解できません。ですから、ハッキリとおっしゃってください。あなたがあたしに望んでいること。何を取引したいと思っているのか」
 「わかりました。では、まず先ほどの問を伺うわ。この週刊誌に載っている被害者女性というのはあなたね?」
 「……はい、そうです」
 肯定するのは苦痛だった。
 けれど、つくしは躊躇することなく、ハッキリと頷く。
 むしろ、先程まで淀みのなかった志保子の方が、その返答にたじろいだ。
 少しだけ躊躇し、けれど結局、その動揺を押し隠す方を選んだのだろう。
 冷笑を浮かべたまま問を重ねる。
 「雑誌に書いてあることは、本当ですか?あの子が…あの子が、類があなたを強引な手段で暴行したと。そこにあなたの意思はなかったと?」
 「はい」
 「…っ」
 さすがに志保子が息を飲む。
 「…その後も、卑劣な手段であなたを脅して、関係を継続した。そ、そんなバカなことが本当だなんてことっ」
 今まであくまでも冷然とした態度を崩さなかった志保子の悲鳴じみた声音に、チクリとした痛みを感じながらも、それでもつくしはハッキリと頷く。
 それが真実なのだから。
 「そうです。あたしは彼の愛人でした。けれど、それはあたしの意思ではなく、脅迫によるものでした」
 「……………」
 たまらず志保子が顔に手をあて、グラリと傾いた体を肘置きについた腕で支えた。
 喘ぐ肩が彼女の動揺を示している。
 しかし、ある程度は覚悟していたのだろう。
 すぐに体を起こし、再びつくしへと対峙する。
 さすがに、その唇の端の冷笑は消えていた。
 人形のようだった目に、燃える熾火のような昏い火が宿る。
 それはやはり『家』と『力』への妄執に過ぎないのか。
 あるいは、砕かれかけたプライド?
 「私の望みを言えとおっしゃったわね?」
 「…はい」
 「簡単なことです。意味合いは変わってくるかもしれないけれど、結局私からのお願いは、以前にお願いしたことと同じこと。今度こそ、あの子から手を引いて。花沢物産は私の一存で差し上げられるものではないし、たとえできたとしてもそれだけはできない」
 おそらく…今、何を言ったとしても、志保子の中では自分の疑惑が真実なのだろう。
 司とつくしが繋がっていて、もしかしたら、類をハメたとでも思っているのかもしれない。
 あるいは思いたいのか。
 もしかしたら、それをこそ息子を信じたい、ただの母としての愛情だったのかもしれなかった。。
 「私の持っている資産…お金、花沢や高階の持ち株、その他もろもろの有形無形の財産。なんでも差し上げるわ。すべてあげる。だから、あの子から手を引いて。今蔓延してしまっている醜聞の収拾に力を貸してちょうだい。…そのためなら、私はあなたの足元に跪くことも厭わないわ」




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