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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて463

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 「夜分遅くに失礼します」
 志保子に引き入れられた彼女の自室。
 「いえ、こちらこそ遠いところをお呼び立てしてしまって、ごめんなさいね」
 金を渡すから息子と別れろと迫った母親にしては、まるでそんなことなどなかったかのような穏やかな物言い。
 まるでピンに刺さった虫けらを見るような冷たい目も、うっすらと優しげに浮べられた微笑みさえも、どこかつくしに寒々しさを感じさせた。
 「まり子さん、どうもありがとう。あなたには遥々遠いところまでお使いを楽しんでしまって本当にごめんなさいね」
 「いえ」
 それに比べて、まり子の浮かべた小さな笑みは、志保子への柔らかな思慕が浮かび、ほんのりとした温味がある。 
 おそらく怜悧な態度は崩してはいないが、そんなまり子の思慕を愛しくもおもっているのだろう。
 つくしを見る時とまり子を見る時の眼差しの温度には、格段の差があった。
 けれど、
 「申し訳ないけれど、少し牧野さんと二人でお話したいの。部屋を用意していますから、良かったら先に休んでいてくださらないかしら?」
 「あ、はい。わかりました」
 素直に頷き、けれど心配げにつくしへとまり子が視線を流したのは、やはり彼女も彼女なりに何も感じていないわけではないのかもしれない。
 つくしの視線にもまり子に縋るようなものがあったのか。
 「そんなに心配なさらないで。もう夜も遅いことですし、そんなにお時間を取らせるつもりはないですから。もちろん、牧野さんが心配されているように、危害を加えたりするつもりもなくってよ?」
 「はあ…あ、いえ。そんな危害を加えられるだなんて…」
 別に危害を加えられるとか、そこまでの心配しているわけではなかったが、確かにイヤミやそれに類することを言われるのではないかとは危惧していたし、おそらくそれもあながち外れた予測ではないだろう。
 しかし、それを覚悟での面談に応じたのだ。
 確かに直接関わりのないまり子に、連綿と縋っているわけにいかない。
 またいくら本当のことでも、いつまでも戦々恐々とした態度でいるのでは、志保子に失礼には違いない。
 「では、小母さま、牧野さんお先に失礼して、休ませていただきます」
 「ええ、お休みなさい」
 「…お休みなさい」
 バタンとまり子が部屋を退出するのを待って、
 「お座りになって?」
 椅子を勧められ、指し示されたソファへと腰を下ろす。
 おそらく花沢家の格式に相応しく、最上級の家具が配置されているのだろうが、いまのつくしにはとてつもなく座り心地が悪かった。
 「単刀直入に伺っていいかしら?」
 突然の切り出し。
 構える間もなかったが、確かに時候の挨拶から入るのでは時間がかかりすぎるに違いない。
 「…はい、どうぞ」
 「先日、発売された雑誌に、類のことが載ったことをあなたはご存知?」
 「雑誌、…ですか?」
 「ええ。週刊○○○デーという雑誌の他数点。まだ海外には出回っていないようですが、社交界でもかなり広まってしまっているようですわね」
 どうやら、道明寺家のパーティで、招待客が話していた雑誌のことのようだ。
 けれど、つくしはまだ実際にその雑誌を見てはいない。
 おそらくどういったものかというのは、噂話の範疇で知っていたが、だが実際にどういう書き方をされていたのかまでは知らなかった。
 「…噂は、ある程度、耳にしています」
 「そう。見苦しいものではありますが、よければこちらに」
 そう言って、あらかじめ用意してあったのだろう、コーヒーテーブルの下棚から、3冊の雑誌を取り出した。
 3冊のうちの2冊は表紙にも類の横顔がアップで掲載されている。
 「…拝見しても?」
 「どうぞ」
 了承を得て、つくしが雑誌を手に取り膝に乗せる。
 中を見るのは勇気がいった。
 ましてや、その中に写っているだろう、もしくは書かれているだろうものに心当たりがあるだけによけいに。
 しかしやはり覚悟が足らなかった。 
 いや、写真のショッキング度からいえば大したことがない。
 一読者として見てみれば、極めてプライバシーの侵害ではあるが、類の人気に乗じて彼のセクシー写真で雑誌の売り上げを図ったのではないかと穿つようなものだった。
 いかにも情事の事前、あるいは事後であることを仄めかす意味深な写真ではあるが、類自身も全裸なわけではなかったし、相手の女の姿もほとんど写ってはいない。
 あるいは、本人でもそうと言われなければわからないような角度からの撮影で、顔はもちろん体格などもわからない。
 かなり被害者の女性に配慮された写真で、その事件の内容からすれば当然のことだったのかもしれない。
 だが、その被害者本人であるつくしにしてみれば、割り切ったつもりではあっても、十分にショックだった。
 …嘘。
 その時脳裏を占めたのはそんな感情。
 類を赦した。
 すでに過去のことだ。
 そう思い決めたはずなのに、その時の衝撃、哀しみ、苦しみがドッと蘇って、まるで追体験したかのような恐怖が湧き上がる。
 パタンッ。
 慌てて閉じた雑誌のページ。
 志保子の存在も忘れて、両手で顔を覆ってしまう。
 バサバサバサッとつくしが激しく身動きしたことで、膝の上の雑誌が転がり落ちる。
 それを冷静に見守って、志保子が小さく溜息をついた。
 「…………」
 「…………」
 どれくらい沈黙していただろうか。
 おそらく別荘の中にもかなりの使用人たちがいて、今も忙しく立ち働いているのだろう。
 けれど、防音の整った志保子の部屋には、なんの音もなく、わずかに、風が窓を叩き小さなカタカタカタカタという音が聞こえるばかりだ。
 何度か深呼吸して、つくしは自分の中の動揺を振り払った。
 「すみません、驚いてしまって…」
 「そうね、極めて愚劣で見苦しい記事だったわね」 
 …愚劣で見苦しい。
 客観的にそのとおりかもしれなかったが、当事者のつくしには痛すぎるセリフだった。
 ましてや、その加害者の母親から聞かされる。
 「あなたにこの雑誌を見せるまで、実は私も半信半疑だったの」
 「…………」
 「だって、そうでしょ?まさか、類が――私の息子がこんな事件を起こすだなんて」
 俯けていた顔を、つくしはハッと上げた。





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