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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて462

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 二人で見た空は綺麗だった。
 手を繋いで散歩する道はいつもと違って、楽しいことで満ち溢れていたように思う。
 幼い頃から美しい少女だと言われて、名家の高階家の一人娘である志保子は、いつも賞賛と憧憬の中心だったけれど、その影で、まだ親の事情などを慮るには幼すぎる子供たちには、人見知りで感情表現の苦手な彼女は疎まれがちだった。
 また、両親が不仲で権高く、年の離れた兄は遠い存在。
 立場や生まれというものを自覚せよという母親の教育は、当然彼女と使用人たちとの距離も作り、常に志保子は一人っきり。
 けれど、別にそれを寂しいとか哀しいとか思うことはなかった。
 人は愛を知り人の温もりを知って、初めて寂しさや孤独を知るという。
 志保子が自分の置かれた環境がけっして幸せなものではないと気がついたのは、彼女に出会ってからのことだった。
 遠縁だと紹介されて、時折邸に遊びに来るようになった同い年の友達。
 なぜか彼女が遊びに来るときは、ただでさえ家を空けがちだった母親は不機嫌になって、家に寄り付かなかった。
 けれど、それでも良かった。
 彼女に会えるなら。
 遠縁だというのなら、それほど濃い血縁関係などなかったはずなのに、彼女は不思議に自分と容姿がよく似ていた。
 同じ髪型をして、同じ服装をしていたらもしかしたら双子に見えることさえあったかもしれない。
 けれど、その魂のカタチ、気質がまるで違った。
 明るくて活発で、太陽の光そのもののような彼女を、邸の誰もが好いていた。
 気難しくて、志保子にはいつも厳しいばかりの父親でさえも、あきらかに彼女を可愛がっていた。
 それを寂しいと思わなくもなかったけれど、当時の志保子にとってはそれが当然のことだった。
 誰もが彼女を好きになる。
 志保子でさえも彼女が大好きだったのだから。
 彼女が自分を忘れないで、逢いに来てくれればそれだけでいい。
 初めてできた友達は志保子の世界をも広げてくれた。
 その後ももちろん社交的な性格に変わることなどできなかったけれど、それでも、知らない人とでもそれなりに話すことができるようになったのは、おそらく彼女という友達ができたことがキッカケだったに違いない。
 無口で無愛想な少女が、気高く毅然としていると言われるようになって、社交界で持て囃されるようになった頃には、人並に恋もできるようになったのだ。
 親の決めた許嫁だったけれど。
 『七生!凄い綺麗な人だった!』
 『綺麗…って、男の人なんでしょ?』
 『男の人だけど…今まで会ったことがある男の子たちとは全然違うの!上品っていうか、優しそうな人でね』
 『そりゃあ、シホみたいなお嬢さんに紹介されるようなお坊ちゃまなんだから、上品なのも当たり前なんじゃないの?』
 『…ん~、でも、永林にも御曹司って呼ばれる人たちはいるけど、あの人みたいな人はいないかな』
 『へぇ』
 遠い日の会話が容易に思い起こせる。
 『七生はいないの?学校に素敵な人』
 『どうかな、ちょっとはいいな、って思える人もいるけど。カッコ良ければ誰でもいいわけじゃないし』
 『どんな人がいいの?』
 『…目標がある人?』
 『なにそれ?』
 キョトンとした志保子に、七生がキラキラした目で言っていた。
 『なんでもいい、じゃなくって、自分がやりたい、とか、やらなければならない、って目的のためには何を犠牲にしても、って頑張れる真面目な人かな。それで、凄く優しい人がいい!…って、あたしのことはいいわよ!それでどうなの?そのお見合いした人と将来は結婚するの?』
 『お見合いじゃないわよ!それに結婚なんて、全然っ。まだお互い高校生だし、お友達にどうかって言われただけよ』
 『相手の人も高校生なんだ?』
 『…一才年上で、3年生だって。英徳ですって。大学は海外留学も考えているって言ってたから…もしかしたら、友達になる暇もないかも』
 もしかしたら、あの時すでにもう恋は始まっていたのかもしれない…志保子にだけ。
 『追いかけちゃえばいいじゃない』
 『だから!まだそんなんじゃないのっ。…でも、七生も大学はアメリカに行きたいんでしょ?それなら私も大学をアメリカにすれば、七生とずっと一緒にいられるかな』
 留学したいわけではなかった。
 ただこの親友と離れるのが嫌だった。
 『もう、あたしがどうするか、じゃなくってシホがどうしたいか、でしょ?…まだ、友達作るの大変なの?永林にも友達くらいいるんでしょ?』
 『…話す子はいるけど、私って話しかけづらいみたいで』
 『自分で話しかけないでどうするのよ』
 『友達が欲しいわけじゃないもの』
 やせ我慢ではなかった。
 無理をして友達を作るくらいなら一人の方がずっといい。
 けれど、それも彼女という親友が自分にはいるから、その心の拠り所があったからだったのかもしれない。
 それだけ、あの頃の自分は彼女に依存していた。
 無表情だ、不気味だと無視されることはなくなっても、付き合いづらい、お高く止まっていると敬遠されることにはあまり変わりはなかったから。 
 『あたしには普通に話せるのにね』
 『……七生は私を嫌わないもの』
 『だって、あたしはシホが好きだから』
 あの頃が、たぶん志保子にとってもっとも幸せな少女時代だった。
 大好きな友達がいて、仄かな初恋に心ときめかせていた日々。
 何も知らなかった。
 『私も七生のことが大好き。だから大学くらいは同じところに行きたいの。やっぱり私も留学しよう!』
 『…ダメに決まってるでしょ。シホは高階家のお嬢様なんだから、永林大学に行くのが伝統なんでしょう?そうでなくても、海外だなんて心配されるだろうし…』
 『………』
 反論できなかった。
 何一つ自由になることなどなかったから。
 『それに、あたしだってアメリカになんて行けないよ』
 『どうして?アメリカで経営や経済を勉強して、高階で働きたいんでしょ?』
 『小父様には本当にお世話になっているし…、でも、もうこれ以上迷惑かけられないよ。お父さんが遠縁っていうだけで、母子家庭のうちを何くれとなく援助してくださって、お母さんが亡くなった時も何から何まで…』
 まさか、その援助が何から来ているものだったかなんて、当時の志保子も…七生も知らなかった。
 そして、志保子の母が特に理由らしい理由もなく、七生を嫌っていた理由も。
 『そんなことより!その紹介されたっていう男の子、頑張って友達になりなさいよ。いきなり彼氏は無理だろうし?あ、赤くなった』
 『無理っ。友達にもなれないと思う。話しかけられても無視しちゃったし…』
 『無視しちゃったの?』
 呆れたような七生も、志保子の態度の理由をよくわかっていた。
 『無視…したわけじゃないんだけど、いきなり話しかけられて、何を話したらいいのかわからなくて』
 『YES、NOだけしちゃったのね』 
 『…うん』
 美人だとは言われていたが、志保子の美貌は愛らしいタイプではなく、玲瓏としたものだけに愛想がないとどこまでも冷たく見えてとっつき難かった。
 一方、子供の頃はあれほど似ていると言われていた七生の方は、成長するにつれ髪型や活発な行動もあって、あまりその相似性は目立たなくなっていた。
 明るくて、気さくな美人。
 本人にその気さえあれば、いくらでも恋人もいただろう。
 けれど、志保子と同様、七生も気軽に恋人を作るような少女ではなかった。
 夢見がちだった。
 純粋だった。
 『ま、しょうがないわよね。できない人に、無理にニコニコ愛想を振りまけ、っていうのも酷な話だし、シホの立場じゃあ、お付き合いするとなったら結婚が前提だから、下手に取り繕っても後が辛いものね』
 『………うん』
 『少しづつ知ってもらうしかないよ。本当は高慢ちきなお嬢様なんかじゃなくって、単純に人見知りで口下手なだけだって、ね?』
 『うん』
 『そうだ!それより、あれ大丈夫なの?ストーカーみたいな人!?』
 どっぷりと過去の光景に浸り込んでいた志保子の意識が、軽くなる。
 ふいに瞼の裏が明るくなって、目を瞬かせた。
 バサリと膝から、分厚い洋書が転がり落ちる。
 「………奥様?お休みですか?」
 どうやら、本を読んでいるうちにいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 気が付けなかったが、メイドがドアをノックする音で目が覚めたようだ。
 「いえ、起きているわ。どうしたの?」
 「先ほど、藤堂家のまり子様がいらっしゃいまして、牧野様とおっしゃる方をお連れしたと」
 まだ幾分かぼんやりしていた志保子が居住まいを正す。
 「そう。…連れてきてくれたのね」
 「もう夜分も遅いことですし、どうなさいますか?こちらにお通ししますか?明日にされますか?」
 「………そうね」
 先程まで降っていた雨は、どうやら小雨になったようだった。





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