「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて461

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 リムジンの後部座席で、遠ざかってゆく道明寺邸を見つめ、つくしは堪らず頭を下げた。
 …もう過去は振り返らない。
 そう思いながらも過去愛した男へと、彼女の精一杯の謝罪と感謝を込めて。
 そんなつくしを対面側に座ったまり子が静かに見守っている。
 道明寺邸の威容が遠く闇夜に消えると、つくしは気を取り直し、改めて雨の中、彼女を車に乗せてくれた人物へと意識を戻した。
 「…本当に、声をかけてくださってありがとうござました」
 「いえ、お礼を言っていただいて良いのかどうか…」
 口ごもるまり子の様子はどこか申し訳ないような複雑なものを含んでいる。
 それもそうだろう。
 まり子がつくしに声をかけたのは偶然ではなかった。
 画策…というほどではなかったけれど、つくしに会えることを期待しての道明寺家主催のパーティへの参加だ。
 そして、実は声をかけたものの、まり子はいまだ迷っていた。
 …小母さまに頼まれはしたけれど。
 実はまり子は志保子の使いだった。
 少し前から、つくしが司に同伴して公の場に出席しているのは知られていた。
 司がつくしの情報をシャットアウトしていたから、世間的には彼女の氏素性は知られていない。
 だが、あの女嫌いの司が、大河原家の滋との婚約解消を公表してそう間も置かず、一人の女を連れ歩く意味。
 一目彼らの姿を見たものは、それだけでその理由を察することができた。
 どんな美女を前にしても顔色一つ変えず、常に冷たいビジネスライクな態度を崩すことがなかった司が、つくしを見る時の蕩けるような表情。
 甘く優しい仕草が、熱い眼差しが、それを見る人々に司のつくしへの気持ちを容易に察しさせた。
 第一、司自身がそれを隠しもせず、問われれば臆面もなく肯定していたのだ。
 『道明寺司の想い人』あるいは『恋人』
 特別に公表されていずとも、つくしの立場はそう人々の認識に浸透しつつあった。
 おそらく、そこにも数々の嫉妬と羨望が渦巻いていたことだろう。
 しかし、司の意思を妨げることができるものなどそうそういはしない。
 ましてや母親の楓さえ、現在対抗勢力の旗頭として相争っている最中のこと。
 司の親友であり、輝けるF4の一員である類の失墜とは真逆の慶事。
 内心ではどうであれ、誰もが新参者のつくしを好意的に受け入れたのには、そんな事情がある。
 司の恋人であれば、権高い社交界の人々にとってもつくしは無視し得ぬ存在なのだ。
 ましてや、順調に交際が続き、司が道明寺財閥の実権を握ることができれば…。
 そんな事情から、類の事件で話題になっている被害者の女がその当のつくしであるなどと、憶測する者はいなかった。
 もちろん、類との関係も公にはされていなかったので、つくしが以前に雑誌に掲載された『二つのラブストーリー』のシンデレラであるなど、誰も予想だにしなかっただろう。
 「あの…車はどちらに?」
 「はい、日本にも花沢家の別宅がいくつかあるのですが、現在小母さまは東京の喧騒から離れて、北軽井沢の別荘の方に」
 「…北軽井沢、ですか」
 たしか、類が北軽井沢にいるのではなかっただろうか?
 …まさか、お母様といるとか?
 以前少しだけ伺い見たあの母子の様子から、あまり想像できなかったが、それでも親子なのだ。
 具合の悪い母を心配して、あるいは醜聞の最中にあることを自重して親元に…そんなこともあるのかもしれない。
 まり子はつくしを騙して連れ出したのではなかった。
 そもそもそうしたことをできる性分ではなかったし、またそんなことをしなければならない理由もない。
 ただ正直に懇願しただけだ。
 類の母親が、つくしに会いたがっている。
 現在、心労が祟って床に臥している為、自らつくしを訪ねることができず、恐縮ではあるが、まり子に同行して花沢家の別宅に訪問してはくれないだろうか、と。
 もちろん、志保子が床に臥している理由など言われずともつくしにも容易に想像できた。
 つくしが申し訳なく思う筋合いではないが、それでも類の母親なのだ。
 なにも思わないでいられるほど、つくしは冷たくなりきれない。
 それでも当然、迷った。
 おそらくまり子ならば、志保子に会う事を断ったとしても、道明寺家からの脱出には協力してくれただろう。
 その場合…脱出という表現ではなく、雨で帰宅が難しい、そんな言い訳になるかもしれなかったが、特に不自然な言い分でもない。
 けれど結局、つくしは志保子に会う事を承諾した。
 以前に会った志保子の印象と態度、そして立場からして、とてもではないが好意的な話だとは思えない。
 それでも、類の母親なのだという一点において、無視し得る存在でもない。
 ましてや、これからその彼と共に生きていこうというのならば、逃げるばかりではなんの解決にもならないだろう。
 …類に話しておくべきかも知れない。
 あるいは、類に会った上で彼と相談してからの会談がベストだろうとは思う。
 けれど、つくしに会うために道明寺家のパーティに参加して、なおかつ当主である司には秘密裏に道明寺邸を退去したいというつくしの奇妙な願いに黙って協力してくれたのだ。
 無碍にまり子の頼みを断れなかった。
 …たぶん、道明寺は納得してくれていた。
 そうでなければ、つくしのことを知らないはずもないSPや使用人たちが黙って玄関や門を通してくれたはずがない。
 それでも、道明寺邸を出るまでは、司がどう出るかつくしにも自信がなかったのだ。
 彼の真剣な想いをよくわかっているがゆえに、また彼の性格も。
 …せめて類に電話したかったな。
 しかし、つくしの携帯電話はまだ司の下に。
 新機種に変更する手間を惜しんでいたが、こうした事態になるのだったのなら、新しく入手する方が良かったかもしれないと思い至る。
 けれど…司の邸で、彼の知らないところで、類との逢瀬を重ねるような真似はしたくなかったのだ。
 また、類に愛していると告げながら、他の男の邸に身を置く自分に罪悪感を感じて、類の望むように電話をすることさえ疚しかった。
 結局、いつも自分の優柔不断な曖昧さは、誰も彼もを傷つけ苦しめている。
 …どうして、あたしはいつもこうなんだろう。
 何度後悔しても、直せない悪癖だった。 
 お人好しと言えば聞こえがいいが、単に八方美人の小狡い女にすぎないのかもしれない。
 「牧野さん?」
 一人、自責に陥っていたつくしは、怪訝そうなまり子の問いかけに我に返る。
 「え、…あ、すみません、ちょっとボウッとしてしまって」
 「いえ」
 品良くニッコリと微笑んだ美貌は優し気で、本当に静によく似ていると改めて思う。
 どうして類が彼女を選ばなかったのか、静の形代として彼女を愛さなかったのかとつくしは不思議だった。
 けれど、類が言いそうなこともすぐに思い浮かんだ。
 『だって、皮一枚のことでしょ?』
 …類なら言うかも。
 人一倍美しい姿をして、彼ほど人の美醜に無頓着な男はいなかった。
 おそらく自分の顔やスタイルがどんな女をも惹きつけるほどに美しいとは自覚していても、そこに何の価値も見出してはいなかっただろう。
 自惚れの強いF4の中で、彼だけはいつも自然体だった。
 その類が選んだ静とつくし。
 そこに相似性は確かにまったくなかったけれど、類の捧げる愛情は常に一つに固執され、他を見ることさえもなく、あまりに偏狭だった。
 しかし、本来人は愚かで弱い生き物だから、ホンの小さな相似や救いにも縋りたがるものなのだ。
 なのに、ブレない男の強さが頼もしく愛しくも、少しだけつくしはそれを哀れに思う。
 妥協を知らないことは確かに素晴らしい結果を生むこともあるけれど、たいていの人間は妥協を繰り返して心の安寧を選ぶ。
 こだわり続けて固執する苦痛よりも、小さな幸せを選んで妥協する方がどれほど楽なことか。
 そうして、かつてのつくしは山崎を選んだ。
 確かに大きな幸せはそこにはなかったかもしれなかったけど、たぶん、それはそれで、そこにも小さな幸せはいくらでもあって、そこそこの満足のまま人生を生きられたのではないかと つくしなどは思う。
 しかし、それができない人たちは―――。
 「私のもので良かったら、ですけれど、濡れたままでは風邪をひいてしまうかもしれませんから、こちらの服に着替えられませんか?」
 「ありがとうございます。お願いできますか?」
 「はい、どうぞ」
 親切なまり子の申し出に、つくしは感謝して着替えを受け取る。
 悩んでもしょうがない。
 あるいはいろいろ怒られてしまうかもしれなかったが、それでも類が北軽井沢にいるのなら、まるっきり志保子と二人っきりで対面するようなこともないだろう。
 志保子に会うのが不都合ならば、それはそれで会わずに引き返すこともできる。
 そう思いながらも…、あらためて濡れた体の寒さを自覚したからだろうか、奇妙に沸き上がってくる怖気につくしは小刻な震えを抑えることができなかった。





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