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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて460

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 「雨…だったんだ」
 いつの間にか激しさを増した雨は風をともない、広く張り出した庇の下にある屋外通路にさえも吹き付けていた。
 …まさか、傘を借りるわけにもいかないし。
 叩きつける雨風で、綺麗に梳り整えた髪はすでに乱れて、つくしの顔に張り付いている。
 まだ寒い季節には程遠い秋だが、薄手のドレスが透けて肌寒い。
 だが、とても上着や荷物を取りに、与えられた自室に戻る気にはなれなかった。
 よもやまだ司が追いすがってくるとは思えないが、ここは道明寺邸。
 司がその気であれば、つくしを拘束し、この邸から一歩も外に出さないようにすることも容易なのだ、
 背後から迫る闇が、見えない誰かが追ってくる姿のようで、つくしは焦る気持ちのままに足を急がせる。
 「あ、…土星のネックレス」
 司と再会した時から、いつか返したいと持ち歩いていたのだが、ついにその機会を逸して、当の道明寺邸の一室に置き忘れたまま、つくしだけがこの邸をいま立ち去ろうとしていた。
 しかし…。
 …道明寺もいまさら、あんなものを返されても困るよね。
 もちろんだからといって、つくしがいつまでも持っているわけにはいかない。 
 それならばこの広大な邸で、膨大な宝飾品の山の中に埋もれ、誰からも忘れ去られてしまうことこそ相応しいのかもしれない。
 司とつくしが、かつてともに過ごした日々のように。
 …つーか。
 「なんで、この屋敷はやたらとバカでかいのよっ!!」
 過去メイドをしたことがあるだけに、それなりに土地勘?はあったが、闇夜に庭に出て出口にまで辿り着ける自信がまったくない。
 だからといって、延々とこうして円周を回っているわけにもいかず。
 …どうしよう、玄関に回る?
 SPたちに押し止められたら、つくしにはもう逃れるすべがない。
 と、なれば…。
 「……あのぉ」
 激しい雨音に混じって、最初、その声に気がつかなった。
 「あの?牧野さん?」
 聞き覚えのある女の声に、つくしは振り返った。




*****




 もしかしたら、多少なりとも眠っていたのかもしれない。
 類はただ横たわっているだけの居間のソファから体を起こした。
 無意識に触れた頬や顎下に、ザラリとした感触。
 だが、今はそれさえも遠く、どうでもいい。
 RRRRRRRRRRRRRRRR、RRRRRRRRRRRRRRRR。
 今度は、ハッキリと耳に届いた。
 ぼんやりとした視界の中、コーヒーテーブルに置きっぱなしだった携帯電話の画面が、電気も消えっぱなしの室内を明るく照らし、よく見知った男からの着信を告げていた。
 待っていた女からの着信ではなかったけれど、無視をするわけにもいかない。
 今の彼にとっても、応答する意味のあるごくわずかな相手だ。
 怠い体を起こして、億劫に思いながらも電話に出る。
 「…はい、俺」
 『遅えぞ』
 不機嫌全快。
 だが、不機嫌具合であれば類も十分に負けていはいない。
 「お前、煩い。文句言うだけなら、もう用はないから、電話切るよ」
 嘲る気配。
 『誰の電話を切れても、俺からのだけは切れねぇだろうよ』
 「………」
 別に悔しくもなんともなかったが、そのとおりではあるので黙り込む。
 見るともなく見たキャビネットの置き時計は、そろそろ20時を指し示そうとしていた。
 まだそんなに遅い時間ではないが、早い時間でもない。
 電話の向こうの男が、今彼女を連れ回して独占しているのではなければ、今夜くらいは久しぶりにつくしは電話をくれるだろうか。
 それとも今耳元で、聞きたくもない声を聞かせている男が、嫉妬丸出しの意地悪でもして、彼女の部屋の電話回線を遮断しているのかもしれない…そんなわけのわからない妄想をして類は小さく含み笑った。
 …俺もかなり頭がぶっ飛んじゃってるのかもね。
 自覚がないわけではない。
 けれど、それは彼のなにがしかの予感だったのかもしれなかった。
 『……お前、どうせうちの門前に、お前んとこのSP張り付かせてるんだよな?』
 「お前が、うちの連中を入れてくれないからね。パーティ客に紛れさせようにも、うちの関係者は今、華やかな席には誰も行きたがらなくてさ」
 くくくと司が笑う。
 笑っているのに彼が楽しくて笑っているわけではないのは、類も充分承知している。
 声音の中の何か。
 口調だろうか。
 他の人間だったら気がつきもしない、…長年の親友であるがゆえの直感が、わずかな司の変化を嗅ぎ取っていた。
 『そりゃそうだろ。誰のせいだよ、いったい』
 「俺?」
 くだらない上滑りの戯言だ。
 互いに言いたいことはそんなことではないとわかっているのに、それでも類もまた司を急かそうとは思わなかった。
 『門、開けさせるから、うちのエントランスまで車回させろよ』
 「………」
 『さっき、牧野が俺んとこを出て行った』
 それだけですべてを承知して、それでも何食わぬ声音で類は平然と追い打ちをかけた。
 「……フラれた?」
 『…………殺すぞ』
 軋るような唸り声が、司の本気を伝える。
 だが、もちろんそれで怯むような類ではない。
 「諦める?」
 『…誰が、諦めるかよ』
 「フラれたのに?」
 淡々とした声音は嘲るでもなく、ただ司の中の真実を知りたいだけのようだ。
 あるいは、司の中でも消化しきれない想いをただカタチにして、せめて聞いてやりたかっただけなのか。
 『人生ってやつは長ぇらしいからな。俺に惚れてたあいつがお前に心変わりしたように、どうしてまた俺に惚れなおさないと言えんだよ』
 「…………」
 『まあ、しばらくは見逃しておいてやるさ。それがあの時…おめおめとあいつの手を離して、追いかけてやらなかった俺の弱さの代価ってやつなんだろうよ』
 もし司の言う過去、つくしとの別離を彼が受け入れなければ、運命はまた変わっていたのかもしれない。
 類ではなく、司が選ばれた未来もまたあったかもしれないことを類はわかっていた。
 …すべてはタイミングだ。
 けれど、それをこそ運命だというのかもしれない。
 愛を掴むチャンスは儚くて、そして本当に希少なものだから。
 『油断してんじゃねぇぞ、類。誰よりもあいつに惚れてて、幸せにしてやれる男は俺だからな。それをあいつが気がつくまで…その時まで預けておいてやるだけだ』
 相変わらずの強気の宣言。
 あまりに司らしい。
 自然、類の唇の端に皮肉ではない…小さな笑みが浮かぶ。
 それは本当に淡く儚く、…類自身にも理解しがたい複雑な感情を含んだものだった。
 けれど、
 「……そ、好きにしなよ」
口にしたのは、ただ、それだけ。
 『なんだよ、お前は俺に言うことねぇのかよ』
 「ないね。あいつへの気持ちは、直接あいつに言うことにするよ。お前に語ってどうするの?俺は無駄なことはしないことにしてるんだ」






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