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「陽のあたる処でシリーズ(短編集)」
家族編

12月11日は胃腸の日

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12月11日は胃腸の日



 「…は?出張?あんた、たしか来週にもNYに行くって言ってなかった?」
 それどころか昨日までタイだった。
 一応、明日から二日間のオフの予定だったが、ドイツで起こったトラブルの報告に、遠く離れた日本じゃ埒があかねぇと、俺が直接乗り出すことに決めた。
 ポカンと口を開けていたつくしの眉根が寄って、苦虫を噛み潰したような顔になる。
 少し口を尖らせて上目遣いのその顔は、どこか叱られた子犬っつーの?
 大人の女のする顔じゃねぇだろう。
 すげぇ可愛いけどな。
 思わずぷっと噴き出したら目に険が宿った。
 …やべぇやべぇ。
 誤魔化して、子供を産んでもあまり変わらない華奢な体を抱きしめる。
 俺の胸元に小さな手を置き、つくしが素直に頭を寄せてくる。
 結婚して、十数年。
 すでに二人の子にも恵まれて、順風満帆、俺たちの関係も落ち着いた。
 恋人から夫婦へ。
 夫婦から親へと。
 「…笑い事じゃないわよ」
 「ん?」
 「あんた、この間の健康診断もスキップしたでしょ?」
 「あ~」
 そういえば、40才も目前だとかなんとかで、久しぶりに精密検査を受けておけと口を酸っぱく言われてたか。
 たしか簡易なものでもこの前健康診断を受けたのは、すでに2,3年は前だったか。
 けど、正直暇がない。
 「ま、そのうちな」
 「そのうちそのうちって…いつなのよ。そういえば、胃の調子はどうなわけ?」
 持病…というほどじゃねぇが、さすがに頑健なこの俺も、ここ数年激務が続くと胃の具合が悪くなることあった。
 まあ、主にストレスと寝不足、過度な激務からくる過労で、一度軽い胃潰瘍と診断されたこともある。
 胃腸薬で改善できる程度の症状だったし、他に大きな病気をしたこともない。
 過信だと言われればそのとおりかもしれなかったが、俺もこの年になって、親の事情が実感できるようになったつーか。
 休みたくても休めない。
 仕方ねぇよな。
 俺だって好きで仕事してんじゃねぇよ。
 できるだけ、お前や子供達と過ごしたいと思っている。
 「お前たちには、まあ悪いと思ってけどよ」
 「…?」
 キョトンとした顔が本当に意外そうで笑える。
 「なにがよ?」
 「留守がちでいつも寂しい思いさせてるだろう?」
 「…ああ、まあ。でもあんたがお義母さんたちと戦ってまで、あたしを専業主婦でいさせてくれたから、子供たちには多少なりとも尽くしてあげられたかな。それは感謝している。お父さんがいつも留守がちなのは、寂しいと思うけどね」
 それでもグレないで、たまに会う俺にも子供たちが懐いてくれているのは、つくしのおかげだとわかっている。
 「まさか、あんたがこんなに仕事人間になるとはね」
 吐息みたいな小さなボヤキだった。
 俺自身もまあ、それは思わなくもない。
 けど、実際そうならざる得なかったという感じか。
 俺がコケればつくしが悪く言われる。
 すでに結婚しているんだから、いまさら引き裂かれるとかはありえねぇけど、それでも俺が頑張ることがつくし達を守ることに繋がるんだ。
 その誇りと自負が俺を常に突っ走らせてきた。
 時々、そんな俺を心配して、つくしが眉を潜めているのはわかっていたけれど。
 「無理…しないでよ、ホント」
 「してねぇよ。…お前、ちょっと心配しすぎだろ?そんなに俺に惚れてんの?」
 「バカッ!!人が真剣に言ってるのにッ」
 過剰なほどに、俺の体を心配するのも、口煩く生活習慣を考え直せと説教するのも、全部お前の俺への愛情。
 愛されている喜びに、過労した体にまた力が漲ってくる。
 少しだけ怒ったような、可愛い心配顔にそっとキスを落とす。
 「え?ちょ、ちょっと」
 慌てるつくしの尻の下に腕を入れ、一気に抱き上げた。
 …俺が絶対になくしたくないもの。
 どんなに疲れていても、この温もりを守るためなら頑張れる。
 いつもとは真逆の高さになったつくしの頭の後ろに手を当てて、引き寄せ、軽いキスをする。
 誘惑を込めて、俺はジッとつくしの大きな目を見つめた。
 潤んだ目の最愛の女が、すでに女の顔になっているのに密かにほくそ笑む。
 「て、ことで、今から夫婦の時間。しばらく会えねぇから、じっくり今から愛を確かめ合おうぜ?」
 「ホント、バカなんだから」
 悪態とともに、首に回された両腕の力が、俺の誘いへの答えだった。




*****




 なんだ?
 不思議な感覚。
 俺は夢を見ているのか?
 ぼんやりした頭を叱咤して、俺はゆっくりと周囲を見回し目を見開いた。
 あれは?
 …まさか、つくし!?
 信じられないことに、俺の視線の先にいたのは、涙にくれる俺の女と…その女の肩を抱き寄せている類!?
 そんなまさか。
 そりゃ、昔は類のことを嫉妬して、あいつらのことを疑ったこともある。
 けれど、まさか、この年になってこんな光景をまた見せ付けられるとは。
 震える唇を叱咤して、俺は怒鳴りつけようと口を開いた。
 …が。 
 声がでない。
 それどころか、駆け寄ろうとしても前へと足が進まねぇ。
 黒いドレス姿のつくしが遠い。
 …ふざけんなっ。
 離れろ。
 そう言ってやりたいのに、やつらは割っては入れない俺を嘲笑うかのように密着を深めてゆく。
 類が抱き寄せていたつくしの髪を撫で、背を撫で、何事かを耳元で囁く。
 その声に応えて、つくしがゆっくりと涙に濡れた顔を上げ、そっと目を閉じた。
 …ま、まさか。
 まるでキスを強請る時のようなつくしの女の顔。
 艶めいた顔がうっとりとして、つくしの頬に手をあて、顔を近づけてくる類を待ち構える。
 重なり合う唇と唇。
 これだけの距離が離れているというのに、リップ音が聞こえてきそうな濃厚な口づけ。
 どう良心的に解釈しても、友人の挨拶の範疇なんかじゃねぇっ。
 第一、挨拶であろうと、他の男がつくしに触れる自体が許せる所業じゃなかった。
 だというのに、何を血迷ったのか類の奴が、平然と宣う。
 『大丈夫、司の代わりに……俺がずっとお前たちを守るよ』
 『……類』
 『牧野』
 再び抱き合った奴らが俺を無視して、踵を返す。
 遠ざかってゆく背中が寄り添いあって、まるで奴らこそ夫婦のようだ。
 ふ、ふざけんじゃねぇーよっ。
 なんで俺の女をお前に守られなきゃなんねぇんだよっ!!!
 この俺様の目の前でカッ攫うとか、いい度胸してんじゃねぇかっ!
 「ぶっ殺すッ!!」




*****




 「………すっ」
 自分の声で目が覚めた。
 目を開けた瞬間、最初に見えたのは俺を覗き込むつくしの顔と真っ白な天井。
 「め、目が覚めたの!?」
 勢い込むつくしに、?の俺。
 あ?
 たしか、うちの天井はこんな無機質な模様じゃなかったよな?
 じゃなくって!
 さっきの光景が、瞬時に脳裏に蘇り、俺は勢いよく起き上が…れなかった。
 「このばかああああっ!だからあれほど無理するなって言ってたのにいぃぃ!!」
 いきなりドバああああッと滂沱の涙を流して、横たわっている俺の横で突っ伏したつくしをギョッと見つめ返す。
 点滴?
 つーことは、もしかしてここは病院ってやつか。
 そこで記憶がやっと繋がった。
 たしか5日間のドイツ出張を終え、そのままNYに発つ前にこなしておきたい会議が東京支社であったから、屋敷に帰る間もなく会社に向かったリムジンの中。
 朝からシクシクと痛む胃の痛みが、妙に強い気がした。
 それでも処方させておいた鎮痛剤で誤魔化し、会議へと向かっていた。
 …が。
 俺はリムジンを降りることができなかった。
 混み合った高速道路の揺れが俺の体調悪化を促して、会社についたとたん、リムジンを降りる間もなく吐き気を我慢できずに嘔吐。
 しかも、その場にぶちまけたのは、昨日の昼から食ってもいねぇ食物なんかじゃなくって、真っ赤な鮮血。
 さすがの俺もギョッとした。
 だが、ビビる暇もなく襲ってきた目眩に耐え切れずにブッ倒れた。
 そこからの記憶はまったくない。
 つくしの話によると、どうやら胃に穴が開いちまったそうで、速攻病院に担ぎ込まれ、緊急手術。
 一時は本当にヤバい状態だったらしい。
 「本当にもう、このバカは、いったいあたしを何回泣かせりゃ、気が済むのよッ!!」
 恨み言ももっともで、さすがの俺もつくしの言葉に反論できない。
 まあ、単純にそんな元気がないということもある。
 しかし、…あの夢は。
 もしかしたら、ありえたかもしれねぇ未来ってやつだったのかと思ったら、肝が冷えた。
 ジト~と泣き崩れているつくしを見るともなく見る。
 その視線に気がついたつくしが怪訝に俺を見下ろして、ズズッと鼻を啜りながら首を傾げて、問いかけてくる。
 「な、なんなのよ、その目は」
 「……………お前、俺が死んだら類と再婚とかするんじゃねぇだろうな」
 情けないことに、思いっきり真剣だった。
 ハ?というように、間抜け顔で目を瞬かせていたつくしの顔が、見る見るなんとも怖ぇ顔に変わってニヤリと笑った。
 「幸い類は未だに独身だしね。あんたが死んだら、遠慮なく類と結婚でもなんでもさせてもらうわよ。誰が若い身空で未亡人のままでいるかっつーの。あんたなんか忘れて他の男と幸せになってやる!!」




*****




 その後、俺が人一倍健康を留意するようになったのは言うまでもない。
 今でもあの時、見た夢を思い出しては、つくしを詰って逆ギレされされるのが日常の恒例行事となった。





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