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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて458

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 「………」
 「………」
 遠く雷鳴が聞こえる。
 いつかの日にも、経験した激しい雨。
 降り注ぐ雨が二人の表情を隠して、掻き毟るほどの哀しみと苦痛を雨粒に変えて誤魔化した。
 「……いいよ」
 「…っ」 
 わずかに青ざめたつくしの顔には、なんの怯えもなく、司への怖れもなかった。
 ただ透明な涙が、あの時とは違って、司の前に彼女の心情を顕にしていた。
 「それで、あんたの気が済むなら好きにして」
 目を瞑り、口を噤んだ彼女の静かな表情に、つくしを睨み据えたまま、司は身動き一つ取ることができない。
 …どうして。
 …なぜだ。
 何度も何度も、記憶の中の彼女を詰った。
 自分をいとも容易く捨て去って、平然と後ろ姿を見せた彼女の哀しみから目を塞ぎ、耳を塞いで、自分への憐憫に浸った少年の日。
 どうしてあの時、自分は彼女をどこまでも追いかけて、奪うことができなかったのだろうと、後悔する自分が赦せなかった。
 無力な自分を認めて、彼女に縋るほどにはプライドを捨てきれなかった自分。
 何もかも捨てるから、お前だけが欲しい、俺を選んでくれとどうして言えなかったのか。
 …愛していたのに。
 「ふっ……くっ」
 笑いが溢れた。
 胸が潰れてしまいそうに苦しくて仕方がないのに、目の前の無抵抗な女をただ見つめるだけで、何もすることができない自分が可笑しすぎる。
 冷たい唇が降りて、つくしの唇を塞いだ。
 触れるだけのキスは、どこか儚く哀しかった。
 「………バカにすんじゃねよ」
 掠れた声での呟きは、わずかに震えていただろうか。
 そっと開けたつくしの目に映った彼の顔は、もちろん泣いてなどいない。
 それでも確かに、彼の悲痛な心の声がつくしの胸を刺し貫く。
 …お前が好きだ。
 遠い過去の日に何度となく告白された言葉。
 再会しても何度となく囁かれた言葉は、いまこそ、あの時以上の重みを持って彼女へと訴えかける。
 滂沱の涙がつくしの目尻から溢れて、頬を伝い流れ落ちた。
 泣く資格なんかない。
 ちゃんとわかっているのに、彼の気持ちが痛すぎて…苦しい。
 司が押さえ付けていた彼女の両手を離し、ゆっくりと体を起こす。
 そのまま、廊下の円柱へと背中を寄りかからせ、片足を投げ出す。
 もう片方の膝を抱え、握り締めた拳を司は眉間に押しあて沈黙した。
 つくしも、そんな彼を刺激しないように、横たわっていた体をゆっくりと起こす。
 「相変わらずだな、ホント、お前、全然変わらねぇよ」
 「………」
 小さく含み笑う司から視線を反らさず、ジッと彼を見つめる。
 今、彼をこうして傷つけ苦しめているのは自分なのだと、自覚して。
 目を反らす卑怯を赦さない。
 あの日、あの時、彼を信じきれずに彼を傷つけた。
 たぶんあの頃の自分はまだ恋が始まったばかりの幼さで、彼のようには彼を愛することができていなかったのだ。
 たとえ、同じ結果が待っているのだとしても、あの時、確かに彼に真実を告げるべきだった。
 「残酷な女だ。身勝手で冷酷で…やっぱり、お前はまた俺を捨ててゆくんじゃねぇか」
 「…………」
 「あの時、俺が好きだった?いまさらそんなことを言われて、それでどうだって言うんだ。俺とのことは綺麗な思い出にして、ケジメをつけたい。ただそれだけなんだろ?」
 そのとおりだ。
 たぶん、司のいう通りの最低の女。
 彼の想いに応えられないのなら、最後まで卑劣で無慈悲な女のままでいれば良かったのに、過去の哀切と彼への罪悪感に言い訳せずにいられなかったのだ。
 …あんたが、好きだった。
 …あたしも苦しかった。
 …忘れることができなかった。
 あの雨の日を。
 ずっと何度も何度も夢を見て、謝罪し続けていた、と。
 けれど、それが何になったというのか。
 結局また自分は彼を傷つけ置き捨てるのだ。
 何度出会いと別れを繰り返し、再会したとしても、変えられない運命なのかもしれない。
 それこそが―――二人に架せられた永遠の宿命。
 「同情?罪悪感?そんなもんいらねぇんだよ。申し訳ないと思うんなら、今すぐ類のやつと別れて俺の所へ来いよ」
 まるで憎んでいるかのような目が、つくしを睨み射竦める。
 「そんなこともできねぇくせに、ふざけんな」
 「………」
 ゴクリと唾を飲み込んで、彼の怨嗟に満ちた数年間の屈託を胸に刻み込んで、つくしはゆっくりと立ち上がった。
 自分を見つめ続ける司の顔から視線を落とし、けれど再び顔をあげて微笑む。
 「…あたし、行くね」
 「………今、お前が類の元へ帰れば、事件の女がお前だと、周囲にバレることになるぞ」
 「道明寺…」
 驚きにつくしが目を見開く。
 「俺がお前を連れ歩いたことで、とりあえずはお前への目は反らされている。だが、類の元へ行けば、そうはいかねぇ。バレるのも時間の問題かもな。…それでも戻るのか」
 「……あんた」
 知ってるの?
 だがしかし…。
 肯定されたからといってどうだというのだろう。
 もはや司と彼女の道は完全に別れたのだ。
 いや違う、7年前に、すでに終わっていたことだった。
 「だから?なに?」
 「………」
 追い縋る無様を自覚していながらも、それでもあえて司は言い募る。
 答えはわかっていたけれど、それでもあの時できなかったことが、彼女を失う今この時を招いたというのなら。
 「絆されただけだろう?カラダに引きずられただけだ」
 「…たとえそうだとしても、あたしはもう間違いたくないの」
 …類が好き。
 …愛してる。
 もしかしたら、その気持ちさえ体が生んだ感情だと誰も言うのかも知れない。
 けれど、それがどうしたというのだろう。
 愛することに理屈はない。
 かつて司を愛した時のように、気が付けば好きになっていた。
 愛していた。
 だから…。
 「今度こそ、さようなら、道明寺」
 もう振り返らえないつくしを、司も呼び止めない。
 遠ざかる華奢な背中を見送って、冷たい雨を降らせ続ける暗い空を仰ぎ見る。
 あの日と同じ雨。
 …また、雨が嫌いになるな。





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~ Comment ~

こ茶子 さま
こんばんは
いつもお話を読ませていただきありがとうございます。

このお話が 類&つくし だと解っていても
やっぱり 司が傷つくと 腹が立つとかじゃなく
ただ 『なんでぇ』
と頭の中がいっぱいになってしまいます (¯―¯٥)

類とも幸せになって欲しいし
司とも。。。
無理だと分かっていてもねぇ。。。( ; ̄3 ̄)

沢山の更新ありがとうございます。
楽しみにお邪魔させていただかせてもらっています。

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