FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて457

 ←イナビリティ・ワールド 後編 →こ茶子の部屋の足跡~Vol.02
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 ザアァァァァァァァ――――――ッッ。
 「…けっこう雨、本降りになってきたか」
 さっきまで小雨だった雨が、激しくガラス窓を叩いて、窓の外の景色を滲ませる。
 なにを見ても、聞いても、類が思い浮かべるのは一人の女のことばかりだ。
 自分がそこまで熱烈な男だと、自分でも知らなかったと驚いて笑ってしまう。
 空が青いと言っては燥いで、星が綺麗だといっては嬉しがって、寒い日は温かい紅茶が美味しいねと笑っていた。
 いつでも、どんなものにでも幸せを感じることができる女が、なぜか暗い闇夜の雨を嫌っていた。
 憂鬱な横顔が、そこにいない誰かを想って溜息をつくたびに、意地悪をして怒らせた。
 好きな子イジメだなんて、自分の稚気がバカバカしてくて、本当に意外で。
 拗ねた顔でも可愛い。
 怒った顔も嫌いじゃなかった。
 けれど泣いてる顔を見るのが、辛くなったのはいつからだろう。
 …笑って?笑ってよ、牧野。
 哀しませているのは自分だというのに、そんな矛盾した想いに苦笑した。
 愛しいという想いが、彼の知らなかった新しい何かを次々に教えてくれた。
 …でも、空が青くても、星がどんなに綺麗だって、温かい紅茶さえも、お前がそこにいてくれなければ、俺は素敵に感じられない。
 類は何も見えない外の闇を見ながら、スラックスのポケットの携帯を取り出し、一つの名前をタップした。
 トゥルルルルル、トゥルルルルル―――。
 『…はい?』
 あちらは今、まだ昼過ぎだろうか。
 間違いなく仕事中だろう。
 それでもたった2コールで応答してくれた相手に、自然、笑みが溢れた。
 他の二人の友人たちとは違い、彼はいつも律儀で忠実だ。
 「あきら、俺」
 『類かっ?!お前っ!!』
 絶句して、言葉を詰まらせた。
 きっと言いたいことがわんさとあるんだろうに、言葉を選ぶ彼の優しさが面映ゆい。
 『……今、どこでどうしてるんだ?…何度電話してもガン無視しやがってっ』
 温厚な性格の彼が怒鳴りつけるなんて、よほど心配してくれていたのだろう。
 けれど、類は顔を顰めて、大きな声がうるさいといつもどおりのマイペースで、携帯電話を耳から遠ざけた。
 「……煩い、あきら。俺、寝不足で頭痛いんだから、声落としてくれない?」
 『…………』
 さんざん心配をかけておいて、あまりの言い草にさすがのあきらも二の句が継ぐことができない。
 それでも、この男の身勝手さにはたいがい子供の頃から馴らされていた。
 溜息一つで遣る瀬無さを振り払う。
 『………今、北軽井沢なのか?』
 「ううん、東京」
 『は?東京?』
 「そ、牧野のマンションにいるよ」
 灯台下暗しとはよく言ったものだ。
 おそらくダミーを仕立ててハイエナどもの目を誤魔化して、どこぞに引きこもっているとは思っていが、まさか当の話題の女の家だとは。
 『…牧野は、大丈夫なのか?』
 「さあ?」
 『さあ?!』
 いつものことだとは言え惚けた物言いに、さすがのあきらの声にも険が宿る。
 「…今あいつ、司のところにいるからさ」
 『は?司ぁ?』
 「そう、聞いてない?」
 司と言えば類以上に薄情な男だ。
 もちろん類もマメとは言い難かったが、司の音信不通度と言えばそんな類の上をゆく。
 それでも友情が続いているのが我ながら不思議だ。
 おそらくあきらや総二郎の努力と忍耐の賜物には違いなかった。
 …しかもあいつの場合、自分が用がある時はこっちの迷惑は顧みねぇしな。
 「世田谷の屋敷に連れ込んで、パーティやなんだと連れ回してるらしいね」
 そこらへんのことは、イギリスにいるあきらには事情が通じてなかった。
 いつもは情報を寄越す総二郎にしても、ここのところ多忙で、暇な身の上ではなかったから、何から何まで網羅しているというわけにもいかない。
 親友たちの動向を気にしつつ、詳しいことは総二郎やあきらの耳にも入っていなかったのだ。
 それでも世間の過熱した報道について、互いにヤキモキしつつ心配していた。
 そこへ、その張本人からの電話。
 意気込むあきらとは真逆に、本人は飄々としたものだったが。
 『…いいのか?』
 「何が?」
 『司の奴、牧野に今も未練、あるんだろ?』
 うっすらとした笑みが類の顔に浮かぶ。
 電話の向こうのあきらに知る由もなかったけれど、その笑みは意外な程儚く、弱々しい。
 「そうだね」
 『…意外に冷静なんだな。あんな事件を起こしてまで、欲しかった女なんだろ?』
 「欲しかったわけじゃないよ」
 少なくてもあの時点では。
 『……類?』
 「欲しいんだよ。今もあいつが欲しくて欲しくて…怖くて仕方がないんだ」
 奪われることが?
 …それともただ一人置き捨てられて、忘れられてしまうことだろうか。
 これまでの類は待つことを怖いと思ったことがなかった。
 それはいつも静が、彼を完全には捨て去ったことがなかったから。
 彼女はけっして類のものにはならなかったけれど、それでも彼を手放したことがなかった。
 手を伸ばせば差し伸べられる手。
 気まぐれに撫でては、好きにすればいいと、自由という名の放置を繰り返されて、それでも静が彼を完全に忘れ捨て去ったことは一度たりともなかったのだ。
 彼がそれでは嫌だと自ら、静の元から逃げ出したあの時まで。
 しかし、つくしは違うのだ。
 愛すれば一途に、その全身全霊をかけてただ一人の男だけを想う。
 その愛はたった一人だけのもの。
 だから―――。
 「ねぇ、あきら」
 『…ああ?』
 「一つ頼みがあるんだけど、聞いてくれない?」
 子供の頃から身勝手が基本な男ではあったけれど、あきらに頼みごとをしてきたことなどなかった。
 家庭環境のせいか世話焼きな性分が、あきらをして自ら親友たちの面倒を見させてきただけのことだ。
 そんな類があえて頼んでくるのなら、いったいどんな無理難題なのだと、あきらは一瞬言葉を詰まらせた。
 「プッ…そんなに警戒しなくてもいいよ」
 『……そりゃ怖ぇだろ。まさか、司んところから、俺に牧野を奪って来いとか言うつもりじゃねぇだろうな?』
 「それいいかも」
 『冗談よせよ…』
 シャレにもならない。
 「ふふふ、そんなことじゃないよ。それじゃあ、そもそも意味はないし。…あいつが、牧野が自分から帰ってきてくれなきゃ、なんの意味もないことだろ?」
 『……司が帰さないかもしれない』
 「それはあるかもね」
 同意しながらも、類の口調はそうは思ってはいないように聞こえた。
 『司はお前と同じように牧野を欲している。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。それなのに、その余裕か?』
 余裕?
 そんなものはどこにもありはしない。
 ただ待っているだけだ。
 それしかもう彼にできることはなかったから。
 「一応、堀田と数人張り付かせてるから、迎えの心配はいらない。…司が牧野を欲しいなら尚更心配はいらないと思うよ」
 『…わけわからねぇな』
 「そう?簡単なことだよ」 
 欲しいのは彼女のカラダでなく、また彼女のココロだけでもないのだと司も自分も気がついている。 
 飢えるように彼女が欲しい。
 すべてが欲しい。
 カラダだけでなく、ココロだけではなく。
 ある意味、類と司は半身、合わせ鏡のような存在。
 だからこそ、互いの心がまるで素通しのガラスにように丸見えだった。
 つくしというたった一人の女ゆえに、人として再生し愛を知り、幸福を望んだ二人の男。
 けれど、そこに彼女がいなければ何の意味もない。
 生きることさえも。
 …もう必要ない。何も。
 怖いのは彼女を失うことだけで、絶望ではなかった。
 たった一つの真理。
 「頼み、聞いてよ、あきら。しばらくベベを預かって欲しいんだ」





◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





↓ランキングの協力もよろしくです♪
ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2







関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【イナビリティ・ワールド 後編】へ
  • 【こ茶子の部屋の足跡~Vol.02】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【イナビリティ・ワールド 後編】へ
  • 【こ茶子の部屋の足跡~Vol.02】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク