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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて452

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 「どうして?」
 類の目はどこまでも澄んで透明だった。
 対抗者であるはずの彰への憎しみも嫉妬も、怒りさえもなく。
 以前はそれに哀れみを感じることはあっても、苛立つことなどなかったはずなのに、なぜか今、そんな彼をこそに憤り、許せない気がしていた。
 そしてその理由も、すでにもう彼の中にある。
 気がつかないでいるほどには、彰も愚鈍になりきれなかった。
 …そうだったら、さぞや楽だったろうな。お前の手のひらで踊る滑稽さを自覚しなくてもすんだ。
 「道明寺か、とも思ったさ。だが、道明寺にはあそこまでの詳細を俺は話していない」
 「そうなの?じゃあ、牧野かもしれない。俺のことを恨んで、暴露したのかも?」
 俺が持っていたデータは彼女に渡しちゃったしね、と嘯く類を睨む彰の目は、もはや欺かれはしないと憤怒に燃えていた。
 「…そんなはずはない。あの雑誌に載っていた写真は、俺の持っていたデータをベースにカットしたものだろう。…俺が彼女の正体がわからないように編集したんだ。その俺が見間違えるはずもない」
 「なるほど、相変わらずマメだよね、お前」
 肩を竦める類は、肯定も否定もしない。
 まるで仕事の成果や日常の労苦を褒めるかのような言いようで、それがよけいに彰のカンに触った。
 「フザけるなっ」
 「別にフザけてるつもりはないよ。俺にしても、お前がアレを司に渡したのは、これでもけっこう意外だったんだけどね」
 「……っ」
 「お前が言ったんじゃなかった?アレは諸刃の剣だって。でもさ、お前にとってだって諸刃の剣だったはずだ。自分がその犯罪の片棒を担いでいる自覚がなかったとか、お前がそこまでのバカだったって言うんなら、まあ別だけど?」
 返す刀で切り込まれ、攻めているのは自分のはずだったのに彰が言葉に詰まって口を噤む。
 もちろん念頭になかったはずがない。
 けれど、人は時として感情を優先して、理性を凌駕し保身さえも忘れてしまう事がある。
 庇を貸して母屋を取られかねない相手である司に、弱みとなり得る証拠を渡すことは、まさに彰の沸騰した頭の生んだ自暴自棄だった。
 だが、類は違う。
 「でも、ま、お前もさすがにあいつの性格までは読めなかったみたいだね。あいつ、負けず嫌いだからさ」
 あの男の中には、姑息な手段で類を蹴落としてつくしを手に入れるという選択肢など欠片もなかったのだ。
 その絶対的な自信。
 道明寺司としての自尊心。
 …仕事じゃ、いくらでも汚いこともしてるくせにさ。
 あるいは、その手段の無意味を誰よりも熟知しているゆえだったのかもしれない。
 司もまた類同様に、つくしという女をよくわかっていた。
 生真面目で、一途で…誰よりも打算のない優しさと温もりを持つあの女に策略は有効ではなかった。
 真心を捧げて、ただ一心に愛を乞う。
 …お前がいる、ただそれだけでいい。
 その難しさを実践できる男が果たしてどれだけいるだろう。
 「…………お前、もしかして逃げたかったのか?」
 「?」
 類には彰のいう意味が本当にわからなかった。
 俯けた顔を歪めた彰の方がよほど苦しそうな顔で、逃げたそうに見えるのはきっと類の気のせいなんかじゃないに違いない。
 …だけど、お前が選んだ道だよ。俺じゃない。
 しかし、類はその言葉を口には出さず、ただ彰の言葉を待った。
 「どうして、俺にアレを撮影させたんだ?俺にわざわざ将来の弱味になるとわかっていて、なぜ立ち合わせた?…お前はいつか、こうなることをわかっていて、最初から画策してたんじゃないのか?」
 神ならざず身で、そんなことがあるはずがないと思う一方で、彰の中では妙な確信めいたものがある。
 だが、問われた類は目を瞬かせ、不思議そうに彰を見返すだけだ。
 誰も彼もどうしてそんな単純なことがわからないのだと、言うように。
 「お前が望んでたんじゃん」
 「……は?」
 「何もかも壊したかったのは俺じゃなくって、お前だろ?」
 「…………」
 コン、コン。
 ちょうど5分たったのか、三田村が、わざわざ車から降りてリムジンのドアをノックしていた。
 それに気がつき、類も腕時計を確認して話を打ち切る。
 「あ、俺も、もうそろそろいかなきゃ。悪いけど、話はこれでおしまい。出てってくれる?」
 「…あ、ああ」
 まだ不完全燃焼のような納得いかない顔をしている彰へと、
 「彰」
 車を降りかけていた彰が、類の呼びかけで振り返った。
 「お前もなんだか、俺のことを神か悪魔とでも勘違いしているみたいだけど?」
 「………」
 「ただどうでも良かっただけだよ」
 彰が目を見開くのに、類は苦笑した。
 「…予想しうる未来なんていくらでも存在する。でもそれをお前がどう選ぶのか、俺がその時どうなってるのか、そんなのその時になってみないとわからないものじゃない」
 そう、類がつくしを愛してしまったように。
 彼女の存在こそ、類の不確定要素だった。
 よもや、彼女の存在がここまで自分の人生そのものになってしまうことなど、誰が予想できただろうか…類自身を含めて。
 「じゃあね、高階社長、あとは頼んだよ」 
 バタンと車のドアが閉じる。
 三田村も呆然と立ち尽くす彰へと、頭を下げて再び助手席へと戻った。
 間もなく、リムジンが走り出して夜の闇へと走り去ってゆく。




*****




 ゴロンと仰向けに転がったリムジンの後部座席。
 腕を目の上に掲げてそっと目を瞑る。
 類の瞼の裏に映るのは、不思議に初めて出会った頃の彰の顔だった。
 子供の頃の類の記憶に、ほとんど人物は残っていない。
 彼にとっての人とは、まるで通り過ぎる景色のようだった。
 ただ一人静だけが別格だったが、それ以前の彼にとって人と物との区別は希薄だったのだ。
 ただその中で、燃えるような目で自分を見ていた彰が不思議で。
 誰も彼も彼を腫れモノに触るかのように遠巻きにするか、あるいは感情を見せず無表情の彼を不気味がって忌避していた。
 そう現在の周囲の反応は、彼にとってあまりに懐かしいもので、特にそれをどうだとか思うほどの珍しいものでもないから、それを苦痛に思えるはずもない。
 長じて、F4の一員と賞賛を受けるようになっても、結局は似たようなものだ。
 人は自分とあまりに違うものを排斥する。
 それがたとえ、憧憬とかいうものであっても、そこにはかならず嫉妬と羨望が伴い、特別扱いと言う名の孤独へと追いやられてきた。
 美しすぎる者、聡明すぎる者、持ちすぎる者。
 それらすべて、…異端であり醜いのだ。
 そうした人々の中で、唯一生の感情を見せた人間。
 それが彰だった。
 明らかに彼を嫌っていただろうに、それでも人形のような彼を憐れんでいた彰の優しさが温かかった。
 「…だから言ったじゃん。お前は俺のことが嫌いだったかもしれないけどさ、俺はお前のこと、けっこう好きだってさ」
 今日もおそらく眠れぬ夜を迎えることになるだろう。
 そんな予想に類は、うんざりと溜息をついた。





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