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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇②

昏い夜を抜けて451

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 終業時の定時には、まだ残り1時間ほどあるか。
 こんな中途半端な時間の退社には、当然三田村の人知れぬ配慮がある。
 しかし当の類は、特になんの気負いもなく、周囲の視線をまったく気にもしていない。
 まばらに行き来する社員たちで、ざわめくエントランスホール。
 役員エレベーターから降り立った類の出現に、一瞬で周囲から音が消え、息を呑む音、好奇と嫌悪、不信、あるいは侮蔑といった、これまで類が浴びせられた経験のない視線が集中する。
 耐え切れぬようにヒソヒソ声で話す声。
 だがすぐに、その静寂の中、思わぬほど響いてしまった自分の声に、ギョッと言葉を飲み、再び沈黙した。
 まるでモーゼの十戒の如く自然形成された人垣の間を、類を先頭にした人々の列が通り抜けてゆく。
 シュ―――ッという、エントランスの自動ドアの音。
 いつもだったら周囲のざわめきに誰も気がつかないだろう音に、人々の視線が集中した。
 「……類」
 「彰」
 久方ぶりに出くわした両者の表情はあまりに対照的だ。
 「フランスから戻ったんだ」
 「……帰るところか」
 「そ。とりあえずここでの業務もやり収めかな」
 チラっと走らせた彰の視線に応えて、類の傍らを歩いていた三田村もそっと頭を下げる。
 「……三田村も来月一杯までだったか」
 「はい、ご迷惑をおかけします」
 引き継ぎ他、類の後始末を任されている三田村の退職は、類と前後して一ヶ月後を予定していた。
 他の一流企業からヘッドハンティングされることも多い三田村のことだ。
 当然、他の役員たちからも引き止められたのだが、たとえその要請に応えたところで、彰の天下となるこの花沢物産に、類の腹心の配下である三田村に居場所などあるはずもなく、互いの顔にあるのは暗黙の了解だった。
 「じゃあね、彰」
 こだわりもなく片手を挙げ、敗者であるはずの類が、勝者であるはずの彰の横を通り抜けてゆく。
 シュ―――――ッ。
 一同が自動ドアの向こうへと通り去ったとたん、戻ってくるざわめきは、かつて賞賛し羨望していたはずの類を貶め、非難する声で満ちていた。
 『…さすがお坊ちゃまは、面の皮が違う』
 『あんな、おキレイな顔して、婦女暴行ってか?』
 『信じられない…、私専務に憧れてたのに…』
 『あの雑誌って本当のことなの?』
 『根も葉もない嘘だったら、謹慎処分なんて下るはずないだろ?社長の息子なんだから』
 『自主都合退職なんていって、本当は懲戒免職を怖れて先手を打っただけなんじゃないのか?」
 類の姿が消えたことで、彰の存在も皆の脳裏から消えてしまったとでもいうのか。
 『花沢物産の面汚し!』
 『…どうなるんだ。会社にまで悪影響が及ぶんじゃないか?』
 『実際、株価にも…』
 『査問会は?』
 立ち止まってしまった彰を、彼の秘書が怪訝に伺う。
 「…副社長?」
 「悪い、先に言ってくれ」
 彰が踵を返す。
 部下たちが返事を返す前に、今さっき類たちが通り過ぎていった自動ドアが開くのも待たず、半ばこじ開けるようにしてすり抜け去った。




*****




 「…今日って、車内で目を通しておかなきゃならない書類とかもうないよね?」
 リムジンの後部座席に乗り込んだ類が、三田村に聞く。
 「はい。後から数点、帰宅された後に見ていただくことになるやも知れない事案がありますが、場合によってはですので、必要であれば後ほどファックスさせていただきます」
 「…そ。じゃあ、悪いんだけど、今日はお前、前に乗ってくれない?インターに着くまで、俺ちょっと一眠りしたいんだ」
 「かしこまりました。あちらの方は、すでにスタンバッておりますので、お眠りになる前にあらかじめ着替えて置かれた方がよろしいかと」
 渡された紙袋の中身を確認して、類が苦笑する。
 「了解。…二番煎じだけど、意外に有効だよね」
 「では、私は助手席の方に乗らせていただきます」
 「うん、ありがと」
 一礼して、ドアを締めようとした三田村の背後から声がかかった。
 「類ッ!!」
 駆け寄ってくる彰を視認して、道を開けるように三田村がドアの前を一歩下がった。
 「ハァハァハァ…、類」
 「彰」
 リムジンの入口から顔出して、類が不思議そうに目を瞬かせて、首を傾げた。
 「ちょ…っと、ハァ…話がある」
 「ん~、俺、けっこう疲れてるんだけど」
 「どうせ、これから思う存分昼寝三昧できるだろ?」
 自分が蹴落としておいて、いけしゃあしゃあと言い捨てる。
 「三田村、5分だけここで待機して」
 「…はい」
 類の目配せに、三田村が助手席へと消え、類もまた体をズらせて、彰を車内へと招き入れる。
 「しょうがないね、手短にして」
 「ああ」
 乗り込んだリムジンのドアが音もなく閉じて、よく似た…けれど真逆の道へと踏み込んだ二人の男の姿を飲み込み、最後の陽の光を弾いた黒い車体が闇へと溶け込む。
 「…で?話って何?」
 「あれ、お前だろ?」
 「あれ?」
 惚けて曖昧に首を傾げる類に対して、彰は確信的だった。
 「花沢類の婦女暴行疑惑記事を書かせたのはお前だな」





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