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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①

昏い夜を抜けて443

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 ざあああああああっ。
 激しく吹き付ける雨風が、普段は完全防音の静寂を保つ邸の室内に不快な騒音を響かせている。
 時折、闇夜の隙間を切り裂くようにして、走る光と轟音が志保子の憂鬱を深めた。
 …雨は嫌い。
 窓ガラスを伝い落ちる雨粒を無意識に辿り、その行方を虚ろに見つめる彼女の耳には、風の音さえもが女の悲鳴のように聞こえる。
 こんな日はいつでも過ぎ去った過去が蘇る。
 悪夢だったと、苦笑一つで洗い流してしまえれば、どんなに楽だった…苦しまずにすんだかとわかっていても、それができない自分はなんと愚かで不甲斐ないのだろう。
 だから、我が子でさえも思うように育てることができなかった。
 彼女のただ一つの希望、今やたっだひとつの絆、生きる糧。
 人が誰かを憎む時、それはその誰かの姿を借りた自分の中の何者かを憎んでいるのであって、他者ではないのだという。
 …本当ね。
 本当はわかっていた。
 自分が憎み恨んできたものの正体。
 けれど、その責任を誰かに転嫁して、憎み続けなければとても生き続けてゆくことができなかった。
 『…夫を寝取られて』
 『まあ、女の嫉妬は怖いものですわね』
 耳障りの悪い声がふと耳元で蘇った。
 『花沢物産の奥様然とした澄ました顔をして…』
 『本当。あの方のせいなんでしょ?…いくらなんでも実の妹をそんな目に合わせるだなんて』
 どうしてそんな声ばかりが鮮明に蘇るのだろう。
 顔を両手で覆い、志保子は呻く。
 …ダメよ、ダメ。これ以上、思い出しては。
 いつもそう自分を戒めては、結局果たせたことがないというのに、懸命に念じる。
 『あなたのためにやったんだ。…全部あなたのせいだ』
 …どうして。
 あの日、あの時、あの場所へ、時を戻すことさえできれば、すべてをなかったことにできたというのか。
 それでも、赦せなかったのだ。
 愛していなければ赦せたかもしれないのに、それなのに噴きだした憎しみが更なる不幸を呼んで、今や自分の中でも制御できぬ化物となり果て、自分の心をも喰らい尽くして虚ろにしてしまった。
 トントン。
 ぼんやりと窓の外を見ていた志保子が、わずかに身じろぐ。
 トントン―――。
 二度目のノックで、ゆっくりと振り返った。
 どうやら待ち人来たり、それとももしかしたらこれは過去への再現への始まりなのだろうか。
 そんなバカなことが思い浮かんで、泣き笑いに歪んだ顔に仮面を付ける。
 「…お母さん」
 「いてよ。どうぞ、お入りになって」




*****




 居間のソファの対面側に座り、久しぶりに会った息子の挨拶は、いつものごとく、ごく他人行儀で儀礼的なものだった。
 「ご無沙汰していました」
 「…本当に、どこでどうされていたことやら」
 類の行動は常に把握するべく人をつけていた。
 けれどいつの頃からだったか、志保子の元へはそれらの情報は遮断され、気が付けば社内にいた耳目も排除されていたのだ。
 当然、花沢家所有のマンションや持ち家、類が宿泊してしかるべき格式あるホテルなどにも注意を向けていた。
 けれど、そんな彼女の干渉を嘲笑うかのように、類は志保子にその動向を容易に探らせてはくれなかった。
 …あの女と一緒にいるの?
 しかし、つくしはこの数日出社していないようで、類所有のマンションからも姿を消していた。
 「以前に電話でもお伝えてしていましたが、今日はお母さんに、お話があってこちらに伺いました。」
 「ずいぶん勝手なことですね。わたくしがお願いした時にはいらしてくださらないくせに、自分の要件がある時にだけ面会を求めて?」
 口調が皮肉げになるのは致し方あるまい。
 けれどそんなイヤミくらいでたじろぐ類でもなかった。
 「…まさか、あの娘…いえ、牧野さんと結婚したいとかそういうお話ではないでしょうね?」
 あまりに単刀直入な問いかけに、類が苦笑する。
 もっとも、互いに見て見ぬふりをしても、結局、そのことくらいしか互いに話すことなどないのだ。
 「ええ。そのまさか、ですよ」 
 「許しませんッ!」
 間髪入れぬ返答。
 それも想定内。
 「そんなことが許されると思って?」
 「別に俺は、許可を求めにこちらに伺ったわけではありませんよ」
 サラリと、『あなたの許可など必要ではない』と流され、志保子の顔が屈辱に赤くなる。
 パシッ。
 暴力を振られたのは初めてだった。
 母親とはいえ、たかが女の細腕。
 頬を張られたくらい、類にとってなんということもなかったが、むしろ殴った志保子の方が立ち尽くし、自分の暴挙に驚いて呆然としている。
 「あ…、私」
 それでも志保子の爪が唇の端を傷つけたらしく、舌先に鉄の味を感じて、拭った指先にわずかな赤い血の色が滲む。
 「俺を殴りたければいくらでも殴ってください。俺はあなたに結婚の許可をもらいに来たのでもなければ、何かを許してもらおうと思っているわけでもない」
 震える唇を我知らず噛んでは舐め、今息子を傷つけたばかりの手をもう一方の手で握りしめて、志保子が類を睨み据え、言葉を絞り出す。
 「では、私に何の話があるというのです?私からのどんな許しも必要がないというのなら、いったい何を―――ッ」
 「……俺のことを諦めてください」
 父に告げたのと同じ言葉。
 「俺のことを諦めて、もう見果てぬ夢を俺に押し付けるのを辞めてください」
 志保子を見つめる類の目に、初めてわずかな憐憫が浮かんだだろうか。
 だが、それも一瞬のことで、いつもの感情のない冷たいガラス玉のような目に取って代わる。
 その意味を問いかける前に、類が放った次の言葉に志保子が絶句した。
 「俺は花沢の家を出ます」
 「…っ!?」
 「会社も今月付けで退職する」 
 今、聞いたことは夢だろうか。
 今まで見続けてきたどんな悪夢にも出てこなかった種類の新しい悪夢。
 「……許されるはずがないわっ!」
 まるで一つ覚えの言葉のように、それでもそう繰り返すしか方法のない母に、類が冷酷に止めを刺す。
 「俺はとっくに成人した大人だ。結婚であろうと、社会的進退であろうと、親に許可を取る必要も相談する必要もない。そして…これは、お父さんにも了承を得ています」
 「なっ!」
 「盆休みを挟んで、社内の各部署にも通達されることになるでしょう」
 「そんな、そんな馬鹿な。あの人がそんな…」
 志保子も馨が類を買っていることを知っていた。
 だからこそ、たとえ一時期彰を重用しようとも、最終的には本来の正当な後継である類を立てるものと信じていたのに。
 それ以上何も応えない…答えられないことを、志保子の返答と勝手に解釈したのか、類が座っていたソファから立ち上がった。
 「これで、お母さんが俺に執着する理由はもうないでしょう。親子の縁を切るというのならそうされてもけっこう。しかし、いいかげん、俺に監視をつけたり、俺の名で他家に縁談を持ち込もうとするのは辞めてください」
 言いおいて部屋の出口へと向かう。
 けれど…。
 「あの女のせいなのね」
 掠れてしゃがれた声音が、背後から追いかけ、ドアノブにかかった類の手の動きを妨げる。
 「私がそんな馬鹿なことを認めるとでも?私が黙って、唯々諾々と従うとお思い?」
 ゆっくりと振り返った類へと、志保子が微笑みかける。
 その顔は不思議に彼によく似て…だが、ずっと陰惨で醜悪だった。
 「あなたがそのつもりなら、私にも考えがあると言ったはずよ。あなたの前からあの女が消えたとして、それでもあえて生まれながらの運命に逆らう熱意が、あなたにはあって?」





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