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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①

昏い夜を抜けて437

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 「…こんなところに呼び出して、いったいなんなのよ」
 桜子の祖母に挨拶を済ませ、祖母を囲んで、桜子、滋という気のおけない女友達とお茶会を楽しんだ一日。
 さすがにまだ探検をする余裕はなかったが、どうやら島丸々道明寺家所有の土地のようで、歩けばそれなりの広さもあるが、ほとんどが別荘の敷地と、小振りの波止場があるだけの無人島だった。
 普段は数人の使用人たちに管理を任せ、たまに仕事上の付き合いのある相手への接待に使用するくらいで、ほとんど道明寺家の人間が滞在することはないらしい。
 …ホント、金持ちのやることって。
 贅沢というより、つくしにしてみれば呆れた無駄もいいところだ。
 そして昼間にはどこか行っていたらしい司が、和気藹々と夕食を楽しんでいた女性陣たちの前に現れ、つくしを呼びつけた館の屋上。
 海を望むそこは、遥か遠くまで展望できて、空一杯の星空がまるで煌びやかな電飾の灯りのように地上を照らし、暗い海の波間を幻想的に浮かび上がらせる。
 だが、季節はまだ夏の終わりとはいえ、海辺の夜風は冷たく、つくしは剥き出しの肩を両腕で抱きしめ、ブルリと身震いした。
 「なんだよ、そんな格好してきたのかよ」
 「だって、まさかこんなに寒いとか、思わなかったんだもん」
 完全空調の整った邸内。
 過ごしやすい温度に、つくしは彼女のために揃えられていた衣類の中でも、夏らしく軽やかな素材のノースリーブカットソーと短パンといった格好で、外の寒さを予想していなかった。
 屋上テラスの端、手すりに寄りかかってタバコを吸っていた司が溜息をつき、着ていたジャケットを脱いでつくしの肩へとかける。
 「い、いいよ。あんたが寒いじゃん」
 遠慮して返そうとするつくしの手を遮り、いささか強引にボタンの一つを留めてしまう。
 咥えタバコのまま器用に留めてくれる、その大きな手を見るともなしに見ながら、つくしは奇妙な感慨を覚えていた。
 …綺麗な手。
 よもやこの手を再び、こんな間近で見る機会があるとは思わなかった。
 忘れることができなかった。
 けれど逢いたいわけではなく…また、会えるとも思っていなかった。
 類に彼と会う必要性を告げたときでさえ、本当に会えるとは思っていなかったのかもしれない。
 「女がカラダ、冷やすんじゃねぇよ」
 言い方は優しくはなかったけれど、その声音に含まれた思いやりがくすぐったい。
 昔から司はそんな男だった。
 乱暴で、不器用で、…けれどわかりにくいけれど、彼はとても優しい男だったのだ。
 そんなことを、思い出す。
 「…ありがと」
 「おう」
 クルリとつくしから背を向け、手すりに両肘をかけて、海を眺めながらタバコを吸う司の横に並ぶ。
 「………」
 「………」
 互いに無言だったけれど、不思議に心穏やかで気安い時間。
 半ば拉致されるように強引にこんな場所へと連れて来られて、不安と疑念にササクレだち、司に対して喧嘩腰だったつくしの気持ちが凪ぐ。
 「……仕事だったの?」
 「………」
 ふうっと煙を吐き出し、視線だけで司がチラリとつくしを見やる。
 「ジャケット。仕事用のでしょ」
 「ああ…着替えんの忘れてたわ」
 まずはつくしに逢いたかった。
 けれど、手を伸ばせばすぐそこにいる彼女は、7年前にこうして隣に立っていた彼女とは異なり、あまりに遠く隔たっていた。
 …そんなん単なる妄想だ。
 たとえそれが現実なのだとしても、変えてみせる。
 「ねぇ、…あんたいったいどうしたいの?」
 「どうしたい?お前、マジでそれを俺に聞いてるつもりかよ?」
 言葉選びを間違ったことに気がつき、小さく息を吐き、つくしはゆっくりと首を振る。
 「こんなことをしても何にも変わることはないんだよ。過去は過去。過ぎてしまった時は戻らないように、どんな関係も…どんな気持ちも、昔に戻すことは誰にもできない」
 「ふっ、…それなら、新しい関係を築けばいい」
 「道明寺」
 「本当に忘れちまったんだな。俺がどんな男か」
 「…あたしが、どんな女か?」
 「………」
 「そうだね、そうかもしれない。毎日を生きるのに精一杯で過去を振り返る余裕なんてなかった」
 つくしも司が見ていた、海を遠く透かし見る。
 暗い暗い海の蒼。
 その底になにがあるかここからでは見えないが、そこには彼らから見えなくても、確かな生命の営みがある。
 それと同じように、互いを見ることができなかった数年間にも、確かな時が流れ、その中で互いに自分の人生を生きてきた。
 「あんたが見ているのは、過去のあたし。もうここにはいない、…あたしでさえ忘れ去ってしまった牧野つくしなんだよ」




****




 「…そう、自家用ジェットを使われちゃったか」
 予想通りのことなので、最初から期待などしていなかった。
 それでも、つくしの行方を探ろうと思えば、もっとも有効でお手軽なのは司の後を追うこと。
 だが、一般航空機を利用する一般人はともかくとして、自家用ジェットを駆使し、世界各地を飛び回る司の行方を補足するのは難しい。
 「どこだかの政治家じゃあるまいし、航路情報をキャッチさせるほどバカじゃないだろうし…各国の離着陸記録をあたるか」
 そうするにしても、乗り継がれたり、どこかを経由されたらそれ以上の行方を辿るのは困難だ。
 もちろん、司も易々とつくしの行方を掴ませてなどくれまい。
 寝不足と疲労に霞む目頭を指先で揉み、大きく息を吐き出す。
 どこででも眠れるたちの自分が、眠れない夜を過ごすことがあるだなんて。
 …お前のおかげで俺の生活習慣丸変わり。
 お間抜けでお人好しなつくしの拗ねた顔が思い浮かび、我知らず類が薄らと微笑む。
 生活習慣どころか、世界が変わった。
 彼の人生そのものが、と言えるかもしれない。
 彼女がそこにいて、彼に微笑む、ただそれだけの毎日を望んでいる…そんなバカな男がいるだなんて、どこの誰が想像できるだろう。
 …けど、そんな俺の望みを誰よりも理解して共感しているのが、不倶戴天の恋敵だなんて、なんとも笑えるじゃないか。
 「いいよ。とりあえず、そのまま捜査範囲を広げて。牧野は、スペインのマジョルカ島近辺の島だなんて言ってたけど、実際にはわかったものじゃない。司の現在の立場と状況から考えて案外日本近海のどこかにいたりするのかもね。もちろん、“島”だとも限らない。まさか、真正直に道明寺家の所有地にいるとも思えないけど、裏をかいてそういうこともあるかもしれない。……ああ、そうだね。最近動いた大型私有地の登記簿も調べてもらおうかな。うん、行方がわかっても、特に手出しはしないで、そう。じゃあ、よろしく」
 つくしの捜索を命じている者たちとの通話を終えて、類はミニバーに歩み寄り、スーツの内ポケットから四角いプラッチックケースを取りだし、カウンターの上に置く。
 そして、棚からウィスキーの瓶を取り出してグラスへと注ぐと、その琥珀色の液体を、一気に飲み干して顔を顰めた。
 「…きつぅ」
 酒に強い類だったが、さすがにウィスキーのストレートはかなり堪える。
 けれど、今はこの酒のもたらす酩酊がなければ、とても眠れそうになかった。





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