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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①

昏い夜を抜けて435

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 「知ってたか?」
 「そりゃ、普通わかるでしょ。三条と飲んでてそのまま消えて、今度はわざわざお前が現れて」
 だが類は最初から、真剣につくしを探そうとしていなかった。
 SPを類がつけていたことなど、もちろん司も知っていたし、逆もご同様だ。
 つくしがSPを撒けば、類に連絡が行くのは当たり前。
 司を見て事の次第を悟ったにしろ、あらかじめ見破っていなければ、何者に誘拐されたやもしれぬともっと焦っていても良かったはずなのだ。
 「ずいぶん余裕じゃねぇか、てめぇ」
 類の余裕が妙に司のカンに触る。
 昔からこの男はそうだ。
 司がどんなに手を伸ばしても手を伸ばしても、結局つくしはその手からすり抜けてゆくのに、類はいつもただそこにいるだけでつくしの関心を得ていた。
 非常階段で類を見つめている時のつくしの顔は、類への好意で恥じらい、赤く染まった彼女の赤い顔はひどく可愛かった。
 類の一挙一動で、泣いたり笑ったり…司は怒らせることしかできなった時にも、類はいつもそこにいるだけで彼女のさまざまな表情を引き出していた。
 いまさら…。
 いまさらだ…。
 何年もたったというのに、いまだに忘れられない光景。
 類を想って流した彼女の涙より、美しいものを司は見たことがなかった。
 類があのまま日本に残っていたのなら…牧野は―――一時と言えど、けっして俺のものにはならなかった。
 傲岸不遜な司の唯一の劣等感。
 「…余裕か」
 「バカにしてんのかよ」
 「俺がお前を?」
 意外そうな顔が、噴き上がりかけていた司の勘気を抑える。
 「お前が俺を、の間違いじゃなく?」
 「…自覚してるわけだ」
 スーツの内ポケットから取り出したCDーRを、類へと放り投げる。
 「マスター?」
 「…どうだかな。俺にそれを寄越した奴は他のものは全て削除したと言ってるが」
 タイトル書きさえも書いていない真っ白なそれを、類は無言で取り上げ、スーツの内ポケットへと入れる。
 「持って帰るのかよ」
 「…くれるんじゃないの?」
 「お前のはどうしたよ」
 「さあ?俺も一つっきりのデータを牧野に渡しちゃったから、行方は牧野に聞いて」
 「…ふん」
 「それで?」
 淡々とした会話に、どちらの声音にも激情は含まれていない。
 表面的には真逆な二人だったけれど、ただ一人の女を間に、立場変われば、あるいはタイミングさえ違えば、互いが互いの立場で、同じ行動を起こしていたとしてもおかしくはなかったのだ。
 どうして責めることなどできただろう。
 …バカだけどな。
 類らしくもないバカをやったものだ。
 だから今の類は強引に出ることができない。
 彼女を失わないために。
 真実彼女に愛されるために、奪われるかもしれない怖れを抱きながらも、類は待ち続けるしないのだと、司はわかっていた。
 そんな類を鼻で笑い、司は過去の自分をも笑う。
 「牧野のこと、どこに連れて行ったわけ?」
 「わざわざお前に俺が言うとでも?」
 「…永遠に閉じ込めてるわけにもいかないだろ?」
 「閉じ込めたりなんかしないさ」
 テーブルの上のタバコケースからタバコを取り出し、司が口に含む。
 眉根を寄せ、類が一言。
 「…臭い」
 「昼行灯のお前と違って、こっちはストレス満載なんだよ」
 「彰の意図としては、これを使ってお前に俺を追い詰めて欲しかったんじゃないの?」
 「…かもな」
 司も否定しない。
 彰の思惑など司もとっくの昔に察していたが、道明寺司ともあろうものが、他人の思惑に踊らされることなどありえない。
 「まさか、俺に渡すとはさすがの彰も思ってなかっただろうね」
 「会社から放逐されようが、世間から白い目で見られて社会から総スカンを食らおうが痛痒を感じない奴に、よけいな労力を使うだけ無駄だ。むしろ、俺の方が牧野に恨まれるじゃねぇか」
 「恨まれる…か。そうかな」
 司が忌々しげに、フンと顔を反らす。
 「でもまあ、さすがに社会から総スカン食うのは、俺でもちょっと困るかも?」
 そう言いつつも、やはり類の態度はあくまでも他人事。
 司の言うとおりまったく痛痒を感じていないのだろう。
 たとえ、世間にどんなに極悪非道だと罵られようとも、彼には金がある。
 他人の思惑さえ気にしなければ、一生それなりに遊んで暮らすことも可能な以上、どうとでもできるのだ。
 「俺はマンションに閉じこもって生活しても全然平気だし、家の壁に『極悪非道!』とかの落書きされちゃうことになっても気にならないけど、牧野はそうじゃないもん」
 「……家の壁に落書きって、どこのどいつがお前んちに落書きできるんだよ」
 むしろそういう行為をした人間の方が、あっという間に警備員に拿捕され警察に引き渡されることになるだろう。
 「むしろこれは、俺に対してよりも、花沢物産にとってアキレスの踵になるだろうね」
 「花沢物産?」
 「…花沢家かな」
 会社はいざとなれば、別の人間に任せることもできる。
 「醜聞を起こした花沢家の跡取りの尻拭いに、親族の高階家が出張って会社の英雄にでもなるか」
 「いいね、なかなかにいいシナリオだ」
 「…俺も舐められたものだな」
 「ま、お前と俺は恋敵だし、それくらいは協力してくれると思ったのかもね…あるいは」
 「あるいは?」
 俯きがちに小さく微笑む類の顔はどこか、物悲しげだった。
 冷徹で感情のないかのようなこの男にも、血が通っているのだ。
 そして、司もそれを知っている。
 「別にどうなっても良かったのかもね。花沢を欲しい気持ちと、いっそ花沢物産ごと潰れてしまえばいいという思いと。…どいつもこいつも、ホント、バカみたいだよね。愚かで醜悪で、欲張りで…なのに弱っちくて」
 「ふっ、自分だけは違うような口ぶりだな?」
 司の言葉に揶揄はない。
 なぜならば、司と類はコインの裏と表だ。
 類が思うことは、司にもよく理解できる心情だったのだから。
 「本当に必要なものは一つだけで十分だよ、俺は。お前はどうなの?」
 「………牧野は渡さねぇよ」
 「俺の二番煎じ?馬鹿にしておいて、やることに意外性がなさすぎるんじゃない?」
 ポトン、ポトン、と司の指の間に挟まれたタバコの灰が落ちて、大理石のテーブルにくすんだ曇を作る。
 大して吸いもしないうちに、もう吸う気も失せたのか、司は残った吸殻をクリスタルの灰皿に押しつぶして火を消した。
 「やるわけがない」
 「………」
 「無意味じゃねぇか。…体が手に入って、お前は満足したか?俺にとっても必要なものは一つだけだ。だが俺は無欲な男じゃない。欲しいのはたった一つでも、その全部を俺は奪いつくす。一部なんてゴメンだね」
 心と体。
 その全てが揃ってこそ、牧野つくしなのだ。
 彼らが愛する女。
 何を失っても欲しい、ただ一人必要な存在。
 「…でもそのお前にとって必要なものがお前を選ばなかったら?牧野を今手に入れてるのは、お前じゃない。あいつは俺のものだよ」





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