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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①

昏い夜を抜けて434

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 「……これは」
 類から渡された書類に、三田村がハッと顔を上げた。
 「たぶん必要になる気がするから、そのつもりでいて?」
 「それはっ」
 「別に今までもほとんどお前が経営していたようなものなんだから、大した違いはないでしょ」
 「いえ、けっしてそんなことはありません。私は基本、示された方針を実行することで実力を発揮する人間です。あなたという頭がいて初めて、私は手足としての機能を十分以上に開花できる。…人には分というものがあるのです」
 「分ね」
 どこかの誰かのようなセリフだと、類は小さく笑う。
 しかし、それ以上何を言い募ることなく、類はパソコンの電源を落として立ち上がった。
 「まあいいよ、俺が頭だというのなら俺の命令に従うのが筋というものでしょ」
 「……期間限定のことだと承知していればよろしいですね」
 …期間限定で済むことなのか、果たして永続的なものになるのかは、類にだとて正直わからない。 
 だが、今はこの目の前の優秀でありながら、自分に異様なほどの忠誠心を示し、祭り上げてくれている男を納得させるために頷いた。
 以前に最終的には、そんな彼さえも切り捨てるかもしれないと宣言した類だったが、そうなればたとえ三田村だとてただで捨てられはすまい。
 人間はまるで明日の天候のようなのだ。
 科学も発達し、人は経験というもので容易に天候を予測し操ってきた。
 けれどやはり結局は人知で計り知れぬ自然の万物なのだ。
 どんなに予測しようと、推理し、利用しようとしても操りきれぬもので、時に油断し過信すれば、自らの思い込みで甘く見たつけを支払らう結果となり、甚大な被害を被ることにもなる。
 …人間も同じだ。
 他人がどう思おうと、類もまた蟻塚の蟻の一匹に過ぎない。
 自ら何かを望み、蟻塚の中に身を投じてしまえば、彼もまた自分自身を取り巻くすべてを見切れるわけではなかった。
 パソコンの電源を落とし、簡単に身支度を整え、重厚な役員椅子から立ち上がる。
 「今日は、もういいでしょ。いいかげん帰るとしよう」
 時刻は定時少し前。
 とはいえ、それが平日であればのことだ。
 いつもは不夜城の様相を呈する花沢物産の窓の明かりも疎らだった。
 時間的にも黄昏時、まだ完全には日が落ちていないせいもあったけれど、休日出勤の社員が花沢ほど大手の会社でも今のご時世、それほど多くないせいもある。
 「俺も完全週休2日にしたい」
 「……何言ってるんですか、社会人にあるまじき長期連休をもうすぐ取ろうかという人が」
 ザクッと珍しく三田村が切り捨てるのも、やはりいろいろ思うところがあるからなのだろう。
 だが、それでなんの痛痒も感じないのが類という男だ。
 「やっぱり俺、専業主夫になろうかな」
 「………」
 「けっこう向いてると思わない三食昼寝付き」
 「はぁ」
 類の認識には大きな誤解と偏りがあるが、わざわざそれを指摘したい気力が三田村にも沸かない。
 なんだかんだバカっ話をしながら(主に類だけだが)通り過ぎたエントランスドアの向こう、ずいぶん場違いな黒塗りのリムジンが車寄せに停車しているのが目に入った。
 類の視線を辿り、ついでそのリムジンに気がついた三田村が眉根を寄せる。
 リムジンに乗るような幹部クラスの重要人物の来社の予定などあったかと、よその部所の役員たちのスケジュールまで記憶回路を探り確認する。
 だが…、
 「どうやら、俺に用があるみたいだよ」
 「…専務?」
 怪訝に問い返す必要もなく、相手も類に気がついたのだろう、リムジンのウィンドウがスルスルと下がって、乗車している人間が顔を覗かせた。
 …道明寺司ッ。
 咄嗟に類を見やれば、彼はすでに歩き出していた。
 「…三田村、今日はここまででいいよ」
 「しかしっ」
 「悪いけど、後の仕事は明日に回しておいてよ。今日はお疲れ、気をつけて帰って」
 「専務ッ!!」
 三田村も後を追おうと足を踏み出すものの、リムジンの両サイドに停車している車のドアからの殺気で足を止める。
 …道明寺家のSPか。
 もちろんおおっぴらに姿を顕にはしていないが、社屋の壁際、柱の影、駐車している車の中には、類のSPもまた彼らの動向を見守っているので、類の意思に反してどうこうできるわけではなかった。
 類がリムジンの間近に到達すると同時に、お仕着せの運転手が運転席から降り立ち、一礼して司の座る後部座席のドアを開け、類を主の乗る中へと促す。
 「久しぶり…司」
 「…よう」
 不倶戴天の間柄であるとは思えないほど、ごく自然に普通の挨拶を交わし合い、司の車に類も同乗した。
 ドアが閉まり、間を置くことなくスムーズに車が発進しだす。
 しばらくの間は互いに一言もない。
 それは別にこういう関係に陥ったからとかそういうことではなく、幼い日、友情を温めてきた時からの二人のスタンスというだけのことで、何ら特別なことではなかった。
 今この場にはいない総二郎とあきらがくだらない世間話やおしゃべりに興じ、それを冷笑的に見やりながら、それでも気紛れに参加したりしなかったりの司に、まったく我関せずの類。
 おしゃべりな親友二人が同席しなければ、司と類との間に会話がないことも希ではなく、それでもそれを気詰まりだとも、居心地が悪いとも思ったことはなかった。
 そうして無言で過ごすことさえもが、互いに気安い空気で、楽な関係だったのだ。
 …それが、今や互いに同じような時間を過ごしながらも、今までとは違った張り詰めた空気を感じていた。
 何食わぬ顔で平静を装いながらも、そこにはすでに無言のバトルが繰り広げられ、互いの動向を一挙一動見逃すことなく観察し、互いの弱点を見極め最初の一手を模索している。
 「…牧野、どうしてる?具合悪くしてるんじゃないの?」
 そして最初に口火を切ったのは類の方で、けれどやはり誤魔化すことなく、二人の間に横たわった女の存在がまず第一。
 「具合悪くしてるっつーのは?」
 うっすらと微笑んだ類の顔は、底冷えするような冷たいものを含んでいた。
 だが、司もまた、もちろんそんなものでたじろぐような繊細な神経を持ち合わせている男ではない。
 「正攻法で連れ去ったわけじゃないんでしょ?よもや無理やり拉致したとかは思ってないけど、酒の力を借りたか、お人好しでお間抜けなあいつを丸め込んで騙したか。どちらにせよ、案外身近な駒を手に入れてたってことかな?…推察するに、お前が抱き込んだのは三条なんじゃないの?」





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