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「中・短編」
甘い毒(1話完結)

ポイズン~Pure~

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 「あれは…」
 「確か…高校時代の後輩でいらしたわね。司さんにとってもとても親しいご友人なのでしょ?良かったら、私にも紹介してくださらない?」
 ピクリと顳かみに癇を走らせて、だが面白そうに笑う女には一べつも与えず、ドレスの裾を踏んで類に抱きとめられ、恥ずかしそうに照れ笑いしているつくしを一心に見つめる。
 彼の周囲には望む望まざるに関わらず、たくさんの欲望が渦巻き彼の関心を得ようと、あるいは彼の足を引っ張ろうと海千山千の人々が犇めいていた。
 人も羨む美貌と家柄、財産、地位、何一つとっても誰に過不足を取ることなく、どんな女も思いがまま。
 けれど、彼にとって大切なものはただ一つだけ。
 …あいつの傍にいきたい。
 けれど、片腕にかかった不快な重みが、そんな彼の切実な想いを引き止め、その場に留まらせる。
 つくしに出逢うまでどんな女にも心を動かされたことなどなかった。
 それどころか、どんな人間も彼にとっては炉端の石ころにも等しかったのだ。
 そんな彼にしてみれば、生まれ育った家でさえもどうでもよかった。
 …牧野!
 睨み据える視線の先、つくしの横顔がどこか青い気がして、司は焦燥に駆られる。
 腕にぶら下がってしなだれかかっていた女が、誰よりも尊重されるべき自分を無視し続けて、取るに足らぬ…美しくもなく特に取り柄もなさそうな平凡な女ばかりを司が一心に見つめていることにプライドを傷つけられ眉根を寄せた。
 しかし、この傍らに立つ美神の如き美男が、もはや自分のものであることに満足して、満面の笑みを浮かべる。
 自分たちはこの煌びやかで華やかな会場でもっとも注目を浴びて、重要視されているカップルなのだ。
 内心ではともかく、二人の婚約の祝辞につめ寄せていた人々が、まるで追い詰められた手負いの獣のごとき司の獰猛な視線に撫でられ、怖じけて後退る。
 禿頭の中年男に声をかけられ挨拶を返していた類よりも先に、つくしが彼に気がつき振り返った。
 瞬間…彼の中に生じた強烈な磁力。
 どんな雑踏の中でも、人波の中でも見つけられる…彼にとって奇跡のようなただ一人の存在。
 「あ……」
 小さな手で口を抑えて、思わず漏れ出てしまった声を堪えるつくしの目が、うるりと潤んで彼をたまらなくさせる。
 …道明寺。
 たしかに彼女の唇がそう動いた。
 牧野…。





 つくしの両手が縋るように彼の頭をかき抱いて、枕に顔を埋めて震える小さな声で途切れ途切れに喘いだ。
 何度抱いても、飽きない。
 それは初めて彼女をこの腕に抱いた日から変わらぬ想いで、むしろ彼女に餓える思いこそが膨らみ執着が増していった。
 白い滑らかな素肌も、伸びやかで華奢な肢体も、小ぶりな胸や腰でさえ彼の劣情を煽りこそすれ、他の女に目を向けることなど思いもよらなかった。
 まるで遅効性の毒のように彼の心を蝕み、彼女への恋心だけを純化させ、他のすべてを壊死させても構わないと思えるほどの恋慕。
 …愛してる。
 通り過ぎた快楽の余韻に涙を流し、潤んだ目で彼を愛しげに見上げる彼女はまるでまだ少女のように純粋で清らかだった。
 彼女さえ手に入るのなら、他の何を犠牲にしても厭わない…そう思う心はけっして嘘などではないというのに。
 道明寺財閥など知ったことか。
 それで困窮する人間が生まれたところでそれがどうした。
 そう言いのけてしまうことなど、自分には容易なことのはずなのに。
 …他の奴らなんか知らねぇ。
 けれど、目の前の女がそれを彼に赦してくれない。
 愛しくて、愛しくて、愛しくて…。
 優しくて、優しくて、残酷な女。
 強情で頑固な彼女が、彼の色に染まって彼だけのものになってゆくのが嬉しかった。
 彼の指先が触れるだけで、全身を朱色に変え、あえかな色香を匂わせ、司を捕えて離さない女。
 抱けば抱くほどに、逢えば逢うほどに、つくし自身が彼の人生そのものへと変わって、そんな自分の執着にすら身震いするほどの悦びを抱いた。
 けれど……。
 「……今夜が最後だね」
 彼の裸の胸の心臓の位置に顔を寄せ、目を瞑った彼女の目尻から涙がひと雫流れ、頬を伝い落ちた。
 いつもは司の強すぎる力に文句をいう彼女が、彼のなすがまま、抱きしめられたまま静かに泣きじゃくる。
 「ちゃんとご飯食べてね」
 「………」
 「お酒ばっかり飲んで、タバコの吸い過ぎもダメだよ」
 「………」
 「あ、あんたはディスクワークなんだから、た、たまには、散歩し…て、ね」
 「飯なんて食わねぇ」
 「………」
 「酒ばっか飲んで、タバコ吸いまくって、超不健康に生活してやるっ」
 「……バカ」
 鼻声の彼女は、それでも自分の言葉を撤回しない。
 抱きすくめていた司の胸に手を突っ張って、強引に戻そうとする彼へと首を振って抜け出す。
 「本当に、本当にッ!お前はそれでいいのかよ!?お前と別れて、俺にお前以外の女と結婚しろってか!?」 
 「……もう、決めたの。だって、あんたは道明寺司だから」
 そのとおりだ。
 自分は道明寺司なのだ。
 父が倒れ、激務に世界中を飛び回っていた母が突然に亡くなった…過労死だった。
 そしてその機を狙ったかのように、相次いだ財閥幹部の造反。
 業績不振。
 株価の急落。
 何もかもが一度に押し寄せたでなければ、どうにかなったかもしれない。
 しかし、それも繰り言にすぎない。
 二人は決断したのだ。
 差し出された支援の手。
 救われた多くの人々。
 ただ一組の恋人たちの未来を闇に葬り去っただけで、すべてが万事丸く収まった。
 伸ばされた彼の手を押しとどめ、ベッドの下に落ちた衣類を身に付けるその背中には、確固たる決意と今にも崩れ落ちそうな悲哀が同居していた。
 …なぜ。
 悔恨と絶望。
 「もう…行くね。シャワーは…いいわ。飛行機に間に合わなくなっちゃうもん。今日は一人で空港までに行くから、ここでお別れするね。タクシー拾うし、車で送ってくれなくても平気」
 「…牧野」
 まるで彼が何かをいうのを恐れているかのように早口で告げた彼女は、頑なにもう振り向こうとはしない。
 先程まで彼とひとつに溶け合ってしまっていたかのようにピッタリと重なっていた彼女が、彼から離れていこうとしている。
 …どうして。
 …なぜ。
 最後に振り返った笑顔が、泣いているよりもよほど苦しそうだと彼女は自分でわかっているのだろうか。
 たぶん、わかっているのだろう。
 それでも精一杯の笑顔で…最後に彼に覚えてもらえる顔が、せめて笑顔であればいいと。
 「…元気でね、道明寺」
それだけ。
 バタンと閉まったドアの音が、まるでしごく重い鉄の扉の音のように、司の耳に響き胸を塞いだ。





 一歩足を踏み出すごとに、魂がひび割れてゆく音が聞こえて、そのあまりのひどい痛みに、つくしは片手のひらで涙を拭って、必死に嗚咽を堪えた。
 愛していた。
 …ううん、今も愛してる。
 もう二度とは逢ってはいけない人だとわかっていて、せめてもう一度だけ逢いたいという気持ちが溢れて我慢できなかった。
 『…連れて行ってあげるよ、NY』
 類の優しい笑顔は、言っていた。
 …素直になっていいんだよ。
 このまま、司に一緒に逃げてと言い出してしまいそうな自分をきっと彼は見破っていたに違いない。
 けれど…司は道明寺司なのだ。
 高校生の彼ならば全てを捨てても悔いは残らなかったかもしれない。
 けれど、大人になった彼は本当に大きな男になった。
 多くの人びとの生活を背負い守り続けて耐えてきた彼が、果たしてすべての責任を捨てて生きてなど行けるだろうか。
 …あんたはプライドが高い男だよ。
 誰よりもつくしはそれを知っている。
 司に挫折など似合いはしない。
 『……牧野』
 彼の笑顔が好きだった。
 彼の甘い声が好きだった。
 彼の優しさが好きだった。
 彼の激しさが…、弱さが…、温もりが…。
 本当に彼の全てを愛している。
 「うっ」
 こみ上げてきた吐き気に、口元を押さえた。
 今はまだ平らな腹をそっと抑えて、空を仰ぎ見る。
 …大丈夫。あたしは雑草。
 あたしは一人でも生きていける。
 だからあんたも頑張って…そしてできれば幸せに。
 「行かなきゃ…類が待っててくれてる」
 たぶん彼女が司と行く道を選んだとしても、決して彼はつくしを責めたりはしなかっただろう。
 それでも、待ち合わせに現れた彼女へと仕方なさそうに優しく笑ってくれるに違いない。
 …馬鹿だね、ホント、あんた。 
 そんな彼の言葉がすぐに思い浮かんだ
 つくしは流れる涙をそのままに静かに笑んで…そして歩き出す。
 明日へ…真っ直ぐに。
 司のいない未来へと、それでも必死に歩き続けた。





 動悸打っていた鼓動が次第に力を失い、手足に通っていた血が冷たく変わるのを自覚する。
 それでも、自分は生きてゆく。
 ただ日々を生きるだけで、人としての感情さえ失ったとしても…。
 ひどい女だ。
 そう思うのに、彼女に焦がれる想いを消すことができない。
 …お前ほど、俺を理解してない女はいねぇな。
 …何が、道明寺司だ。お前さえいれば、俺はそれでかまわなかったのに。
 そう思う端から、もしすべてを捨てつくしと逃げてしまったとして、そんな自分を彼女に誇れるのか。
 そんなつまらないプライドを失えない自分がわかっていた。
 そして、そんな自分をつくしもわかっていたのだろう。
 「くそっ!」
 手に触れたバスローブを身に纏い、衝動のまま、今彼女が出て行ったばかりのドアへと向かいかける。
 けれど、触れたドアノブを掴んで、ドアを開けることなく司はすべての身動きをやめた。
 どれくらいの時間が過ぎたのか。
 今自分が何をするべきなのか。
 つくしの涙を無駄にしないために。
 彼女の言うとおり、自分は道明寺司なのだから。
 自分の手の中のものをけっして諦めてはならないのだ。
 …何年かかっても、必ずすべてを取り戻してみせる。
 たとえその時、彼女が彼ではない誰かを愛して選んでいたとしても。
 けっして諦めない。
 諦めることなどできるはずがなかった。
 なぜなら、彼女だけが彼にとってのただひとりの女。
 …地獄までだって追いかけるって言っただろうよッ。
 …お前が俺に財閥を守れというのなら、守ってやる。
 …俺に道明寺司としての誇りを忘れるなというのなら、すべての勝利を手に入れてやる。
 だから、だから…だから!!
 「牧野ぉっ!」





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同じ題材です3つの話が書けるなんてすごいですね。
どのお話も面白かったです。
darkは記憶喪失の道明寺が記憶戻るけど、つくしはてに入らない。
sweatはお互い思いあってていいなと思いました。
pureは離れざるを得ない2人の葛藤がわかって凄く悲しかったです。
こ茶こさんは飽きたとおっしゃってましたが、一読者としては全然飽きてませんよ。
またこれからも色々なお話読ませてください

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