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「中・短編」
Middle story(2~5話完結)

Stole my heart 中編②

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 「…道明寺?」
 眠気を払ったしっかりした声。
 どうやら酔もすっかりもう醒めて、不思議そうに俺を見上げてくる牧野の視線が痛い。
 …だから、嫌だったつーんだよ。
 けど、仕事のメールに目を通さずにいられなかったのはこの数年間ビジネスの水にどっぷり浸かっていたからなのか…あるいは、副社長の椅子が目前だったからなのか。
 立てた膝に埋めていた顔を上げる。
 いつまでも、こうしていても仕方がない。
 真っ直ぐに俺を見つめている牧野の視線に物理的な痛みさえ感じながら、だからといって誤魔化せるものでもなかった。
 「悪い」
 その言葉だけで、もうすべてを悟ったんだろう。
 一瞬目を見開いた顔が、仕方なさそうに諦めた顔で頷き、いつものように俺の身勝手を飲み込んで牧野が納得する。
 「いいよ、仕事でしょ?仕方ないよ」
 「本当に、ごめん」
 一度だけ視線を落とし、けれどもう一度顔を上げた牧野の顔はいつもどおりだった。
 「いいって。だいたい、日本と違ってアメリカだと盆暮れとかもないわけでしょ?」
 「…まあ」
 「そうじゃなくっても、師走のこの忙しい時期、あたしの誕生日なんて忘れられがちなんだからさ」
 そのあっけらかんとした言い方に、自分の方が牧野に不義理をしようとしているくせして、ムッとして、枕に両肘ついて体を起こしていた牧野をぎゅうぎゅうと押さえつけ、「痛いなあ」」と悲鳴を上げさせる。
 「俺はお前の誕生日を忘れているわけじゃねぇぞ!」
 「わかってるって、あんたの気持ちは…」
 「ほんとに悪いと思ってる。絶対に、あとで埋め合わせするから…」
 「……うん」
 珍しく素直な牧野の落胆が伝わってくる。
 たいがい意地っ張りで、素直な女じゃねぇけど、今年の誕生日は一緒に過ごせると言った時には本当に喜んでくれていた。
 「NYに行くの?」
 「ああ…ちょっと、今、取締役会が割れててな…」
 他社に勤めていて、うちの事情に通じているわけではない牧野にどう説明しようか迷う。
 けど、牧野が俺の唇に片手をそっと当てて…、
 「いいよ、詳しく言わなくって。あんたの仕事が上手くいくほうが、あたしも嬉しいし…」
 その小さくて柔らかな白い手を握り返して、キスを落とす。
 ふふふ、と笑ってくれる顔中にもキスをして…。
 「……ぁ」
 「プレゼント、好きなの選んでおけよ。誕生日に合わせても贈るけど、NYから帰ったら一緒に買いに行くからな」
 「もう、…ん、本当に…いいのに……ぁ」
 収まっていた熱を再び掘り起こして、一つ一つ丹念に牧野の中の快楽の種を芽吹かせる。
 何度抱いても、けっして飽きない。
 この小さな温もりが、俺に力を与えてくれる。
 ずっとそばにいたい…そう思えば思うほど、どうしてそばにいてやることができないんだろう。
 そばにいられない?
 自問自答して、情熱のすべてを牧野の中へと注ぎ込んで…こうして繋がったところから牧野と溶け合って一つになれればいいのにという思いが、いつものように湧き上がる。
 荒い息と滝のように噴き出していた汗が収まってきて、本当はずっと包まれていたい気持ちを振り切って牧野の中から自身を抜き出し、まだ胸を喘がせている牧野を抱きしめる。
 「……ば良かったな」
 「あ?」
 「ん……」
 半分眠そうな声。
 牧野の指先が、俺の胸元をなでるように滑って擽ったい。
 あふっと小さくあくびをして、俺が顔を覗き込むと案の定、もう目は閉じていた。
 たぶん、口に出てしまっていた自覚がなかったんだろう。
 聞き返す俺に返事をすることもなく、パタリと手の力が抜けて…、スースーと小さな寝息が洩れだした。
 「…はえぇ」
 これじゃあ、余韻を愉しむ暇も何もありゃしねぇだろ。
 そうは思いつつ、牧野が溢した言葉を反芻する。
 『…それなら、コンサート行けば良かったな』
 類が口利きをしたとかいうコンサートを、牧野は結局断っていた。
 俺のオフの予定は今日から牧野の誕生日までの3日間だったけれど、年初の三が日のあたりまでは珍しく日本にいることになっていた。
 外資でさらに一般社員たちとは別のスケジュールで動いている俺にはもちろん仕事はあるが、夜には適当な時間に帰ることができる。
 当然牧野の方はといえば、年末年始の休みに入っている。
 俺とはすれ違いで、逆に28日まで仕事が入っているから旅行の予定は立てられなかったわけだが。
 なんとかいうアーティストのコンサートは29日。
 一日中、そばにいてやれるわけじゃない。
 だけど、一緒に入れられる貴重な夜の時間を牧野も惜しんでくれた。
 『今からじゃあ急すぎて、一緒に行く人も募れないし』
 そんな素直じゃない言葉だったけど、
 『じゃあ、俺が一緒に行くよ』
とかフざけたことを抜かすやつの言葉も退けていた。
 それなのに、結局また俺がドタキャン。
 今年中に戻って来れるか微妙なところ。
 「……ごめんな」
 のんきな寝息をたてている唇と髪にキスを落として、華奢な体を抱きしめ直して頬ずりをする。
 …絶対に年始には間に合わせるから。
 副社長の椅子も手に入れて、大手を振ってお前を俺の嫁にするから待っててくれと、俺も目を瞑る。
 一人っきりではなかなか訪れない眠りが、腕の中の優しい温もりに誘われて、すぐに訪れた。





 「あ~あ、行っちゃった~」
 すでに人気のない冷たいシーツの感触についため息をついて、バフンと枕へと頭を戻す。
 掠れてガラガラの声が、かなり恥ずかしい。
 …もう、あたしは今日も仕事なんだって言っておいたのにっ!
 会社に行く前に、この声をなんとかしなきゃと、一人身悶える。
 甘怠い体が、妙に切ない。
 こういう一人っきりの朝は、何度味わってもどうにも慣れない。
 別に高校の時…道明寺がNYに行ってしまった時のように、何年も会えなくなるってわけでもないのに。
 …副社長、か。
 もちろんあたしだって嬉しいことだけど、正直、寂しくなってしまったのも本当だ。
 なんだか、ますますあいつが遠いところに行ってしまったようで、ただのOLにすぎない自分との身分の差が胸に響く。
 …身分の差って、今更じゃん。
 だいたいあいつが頑張ってるのも、あたしとの未来のためだって、ずっとあいつは口でも態度でも示してくれていた。
 愛されているって、十分伝えてもらっているのに…どうして、あたしはこんなにも欲が深くて我が儘なんだろう。
 本当はあいつがそんなに頑張ってなんてくれなくてもいい。
 ただあたしの傍にいて、笑っていてくれれば、愛してるって抱きしめてくれれば、それだけでいい、なんて。
 「……ハァ、そろそろ支度しよう」
 起き出した視線の先、鏡に映ったあたしの顔はどこか不安そうで、あたしらしくもなくまるで迷子みたいに頼りなげだった。




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