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「中・短編」
Middle story(2~5話完結)

涙のわけ 中編②

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 まずい、と思いつつ、承諾を入れた仕事を後から取り消すことなんてできるはずもなくって、後ろ髪引かれる思いはあったものの、結局俺はキューバ視察を優先した。
 まあ、牧野のことだ。
 後からちゃんと事情を話して、真剣に謝れば許してくれるだろう。
 それどころか、
 『何いまさら言っちゃてんの?この間も、あたしのことは気にせず仕事に集中しなよって、言ったじゃないの?』
なんてケロッと言いそうだ。
 けど、そう思う端から、日本を立つ前に最後に交わした電話での様子が、妙に気になって…、このままいつものようにさらっと流していいのかと、心の奥底の俺の本能が警鐘を鳴らしていた。
 最近は、多少のことでは一々いいわけなんかしない。
 しかし、この時ばかりはジェットの中や、仕事の合間を縫って何度かメールを入れた。
 旅行のドタキャンへの謝罪に始まり、今度こそそれなりの休みを取るし、少し後になっちまうかもしれないが、クリスマスや牧野の誕生日の埋め合わせは絶対するから勘弁してくれ、という内容のもの。
 もちろん、プレゼントはそれらの記念日に合わせてすでに送っておいた。
 もっとも今年は、自分で選ぶというわけにはいかず、姉貴に頼むことになってしまったが、姉貴のセンスは良かったし、何より俺のことを除いても仲の良い二人だ、下手なものは贈らないだろう。
 だが、いつもはそっけないながらに、すぐに返事を返す牧野からのメールが入らない。
 ましてや、親しき仲にも礼儀有り。
 堅すぎるほどに堅くて、飯一食奢られただけでも律儀に礼をいう女から音沙汰がなかった。
 さすがにムクれているのかと、多少焦りながら、それでも甘く見ていたのかもしれない。
 まるで、注ぎすぎた杯から水がこぼれ落ちるように、牧野の中でゆっくりと溢れ出す何かがあったのに違いないのに、俺はそのサインをことごとく見逃していたのだということを、この時気が付いていなかった。
 キューバを訪れて一週間。
 仕事上のパートナーから、約束通り重要顧客を紹介され、意気揚々とこれから先の仕事の成功に手応えを感じ始めて一息ついた頃、牧野からやっと返信が入っていた。
 俺も仕事に専念する傍ら、そろそろ電話連絡なり、日本に残っている総二郎あたりにでも様子を見に行かせるかと眉を潜めていた頃合だった。
 『…元気?あたしは相変わらず、バイトに勉強にと変わらない毎日です。この間は、たくさんのプレゼントありがとう。お礼が遅れてしまってごめんなさい』
 そんな他人行儀な短文。
 元々チマチマ携帯メールを送るようなことが面倒だった俺とは違い、今まで牧野はそれでも日常のことや、雑談なんかを書いてきていた。
 俺もNY時代はそれなりに努力していたが、会おうと思えばすぐ逢える距離。
 時差が邪魔せず、好きな時に電話で話せるんだ、そんな気持ちから約束を取り付ける時や、その約束のキャンセル以外、俺の方はメールを利用することはほとんどなくなっていた。
 それがせめてもの…普段逢える機会の少ない、俺と牧野の唯一のコミュニケーションだったのに。
 いつでも逢えると言いつつ、ほとんど顔を合わせる機会さえなく、たまに逢えても忙しなく肌を合わせるだけ。
 あいつの温もりを直接感じて、日頃のストレスをあいつに包まれることで消化していた俺とは異なり、あいつはそんな俺との付き合いをどう感じていたか、んて少しも考えることがなかった。
 …あいつの中の限界に俺は気が付いてなかったんだ。
 結局、するつもりだった電話も、あいつからのメールに安心しちまって、俺はその最後のサインさえも見逃した。
 そして…。






 ここのところ俺を奔走させていたプロジェクトが一段落し、結局、牧野との時間をゆっくりと取れるようになったのは、年始も遠くすぎ、そろそろ春になろうかという季節…3月も初旬のことだった。
 俺の誕生日も俺の仕事の都合で、NYで過ごすことになり、牧野を誘いはしたが、牧野は牧野で忙しかったらしく、NYで会うことは叶わなかった。
 その頃からだったからか。
 『一度、ゆっくり話したいことがあるの。少し時間をとってくれない?』
 そんなメールをもらうようになっていた。
 仕事が大詰めになっていた俺は、何度か仕事の合間を縫って約束を取り付けたが、日本にいながら、いつもどおりドタキャンの連続でとてもじゃないが、ゆっくり話すどころか顔を合わせる機会さえもとれなかった。
 たぶん…俺がNYにいた頃、あるいは、NYから帰った直後の頃だったらそれでも無理に時間をとったことだろう。
 あとでしわ寄せが来るにせよ、牧野を何よりも優先して、少しでもあいつに逢いたいという気持ちを優先していた。
 牧野の気持ちを優先していた。
 それなのに、俺はなぜ…。
 指定されたカフェのドアを開け、右、左、牧野の座っている姿を探していると当の牧野が、片手を上げて合図を寄越す。
 「…道明寺」
 以前だったら、声をかけられる前に俺のほうが気がついていた。
 いや、この時ばかりは気がつかなくても仕方がないだろう。
 思わず息を呑み、歩み寄りながら、それでも俺は言葉を探すばかりで二の句を継げられずにいた。
 「久しぶり、仕事大変だったんだね。少し痩せた?」
 いつものように、自分のことは後回しで俺を気遣う言葉。
 「……ああ、かなりコキ使われて、ひーひーしてたわ」
 「ふふ、コキ使ってたのは、道明寺の方でしょ?内海さんも、バカみたいに体力持て余したあんたに付き合わされて大変だよね」
 「誰がバカだよ」
 憎まれ口を叩く牧野の額をコツンと小さく手の甲で叩いてやる。
 痛いなあ、と笑う牧野の変わらない笑顔が、疲労で凝り固まった俺の心をゆっくりと癒してくれる。
 普段は意識しないのに、こうしてこいつに逢って、たわいない話をしていると、俺が今までどれだけ気を張っていたか、ストレスに心が悲鳴をあげていたかを思い知らされて、その柔らかな空気に気持ちが慰められて、新しい力…どんな激務や難解な仕事にも立ち向かえる力を分け与えられているかを思い知らされる。
 …やっぱ、すげぇよ、お前。
 「髪切ったんだな」
 「え…うん、ちょっと気分変えようと思って」
 サラリとした手触りの真っ直ぐな黒髪は、ショートに切り揃えられていて、もしかしたら高校生の時よりもっと短いかも知れない。
  こいつの長い真っ直ぐな黒髪が好きだった俺的には残念な気持ちもないことはないけれど、照れくさそうに笑う牧野のハツラツとした雰囲気にはすごく似合っていて、牧野自身も気に入ってるらしいから、これはこれでいいのかもな。
 まあ、ようはどんな髪型だろうと、どんな格好だろうと、牧野が牧野であれば、俺にとっては他の誰に変えようもない最高の女ってことなだけなんだろうけど。
 どんだけ惚れてるんだよ、俺。
 久しぶりの実感。
 実は俺は今日から2週間のオフ。
 一つのプロジェクトを終えられた祝儀みたいなもんで、驚かせようと思って牧野には内緒にしていた。
 今までの不義理をこれでチャラにできるとは思ってない。
 だが、それでも少しでも喜ばせたい、嬉しい顔が見たかった。
 「あのな…」
 「あのね」
 俺と牧野の言葉がかぶる。
 「あ、ごめん。道明寺、先、どうぞ」
 「いや、お前から言えよ」
 このあとは旅行の予定とか、牧野がしたいことをゆっくりと話し合いたい。
 ここのところ牧野の近況さえも聞いていない。
 いろいろ話したいこともあるのだろう。
 楽しい話は後でゆっくりと話してやればいい。
 「………あ、うん」
 少し迷ったように牧野は視線を左右に走らせて、けれどすぐに思い切ったように真っ直ぐに俺を見つめ返した。
 「実は、あたし、就職が決まったの」
 「……は?」
 そういえば、就職活動がどうのって言ってたか。
 俺的には俺がNYから帰ってすぐに、あるいは牧野の大学卒業と同時に結婚したいと思ってたのに、こいつが社会勉強をしたいというから、数年間―――最長、4年間の猶予を与えてやっていた。
 もちろん、就職先をどうするかとか、それなりに揉めてはいたけれど、それでもこいつも道明寺グループの子会社のいくつかに絞って、見学会やら説明会を受けていたはずだ。
 「たく、本社にしろってあらためて話すつもりだったのによ」
 そう言えば、話したいことがあるとかメールでも盛んに送ってきたっけな。
 就職のことだったのか。
 まあ、グループ内であれば、いざとなればどうとでも移動させられる。
 そんな気持ちから、俺は鷹揚に頷いた。
 「…まあ、しゃあねぇな。俺も忙しくて相談にのってやれてなかったし。で、どこに就職が決まったんだ?通勤に時間とられるようなら、近場にマンション買うから一緒に暮らそうぜ?」
 そうすれば今よりもっと一緒にいる時間がとれる。
 たとえ俺の海外出張が月の半ば以上であろうと、今よりはずっといいだろう。
 だが、牧野の答えは内心ほくそ笑んだ俺の予想をまるで覆した。
 「……シンガポールなの」 




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