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「中・短編」
Middle story(2~5話完結)

涙のわけ 前編

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 「…うん、うん、わかった。あ…」
 切れた電話にため息を一つついて、携帯を卓袱台に置く。
 落ちてきた髪をかきあげ、耳にかけるともう一度ため息が溢れた。
 「道明寺さん?」
 「あ、うん。予定が変わっちゃったって」
 今日は久々のデート。
 夕方まで優紀と過ごして、夜には道明寺が一人暮らしのあたしのアパートに訪ねてくる予定だった。
 いつもだったら、真夜中に突然やってくるのがせいぜいなのに、今日は夕食くらいは一緒にできそうだから、外でディナーを取って映画に一緒に行ってくれるという約束だったのに。
 本当に楽しみにしていたのにな。
 ふと顔をあげると、憮然としている優紀の顔に出くわした。
 …えっと。
 ちょっと困って曖昧に微笑みかけると、ドンッと紅茶のマグカップを、あたしの部屋のちっちゃな卓袱台に叩きつけ、優紀がよけいにムッと顔を顰めた。
 「へらへら笑わないっ!」
 「す、すみません」
 こわ。
 思わずしゃちほこばっちゃったよ。
 もちろん、優紀は笑ってくれたりしなかったけど。
 「……どうして、いい子になっちゃうの?あんた、そういう子じゃなかったじゃない」
 哀しそうに言われて、唇を噛み締める。
 「…だって」
 だって…この言葉だって好きじゃなかった。
 でもしょうがないじゃない。
 あたしはしがないただの女子大生にすぎなくって、あいつは分刻みでスケジュールをこなさざるえない大企業の重役で…。
 「そりゃあさ、道明寺さんが立場のある人だっていうのはわかるよ。でも、あんた道明寺さんと付き合っていて、本当に今幸せだと思えてる?」
 「………」
 もちろん、幸せだよ!
 そう言いたいのに、どうして即答できないんだろう。
 道明寺がNYに旅立って4年と少し。
 約束通りイイ男になって帰ってきたあいつは、あたしの目にも眩しくって気後れするくらい。
 そんな男があたしを好きだって言って大切にしてくれる。
 嬉しくて、幸せで…それだけで十分なはずなのに、どうして今、あたしはそう感じていられないの?
 「デート、いったい何度ドタキャンされたの?」
 「………」
 「道明寺さんが帰ってきてから半年で、あんたたちが逢えたのはいったい何回?」
 「…それは」
 考えなくても、すぐに答えることはできる。
 それは、一つ一つが大切な思い出だからというよりも、両手の指で事足りるほどでしかなかったから。
 「誕生日も記念日も無視されて…」
 「………無視されたわけじゃないよ」
 「まあ、豪華なプレゼントは届いたんだっけね。メールと一緒に。道明寺さんが帰ってきたら一緒に行きたいところがたくさんあるって、あんたずっと言ってたよね?どれくらいその夢が叶ったの?」
 「………」
 あたしにはもう答える言葉がなかった。
 道明寺が帰ってきた最初の一ヶ月は本当に夢のようで、同じ日本にいるというだけでも嬉しくて嬉しくて…その上、時間のない中でも会いに来てくれるあいつの気持ちがすごく嬉しくて、たまに逢えるその日が待ち遠しくって本当に幸せだった。
 たとえ…夜の間の束の間、肌と肌を触れ合わせることしかできない逢瀬でも、それで十分だった。
 そのはずなのに…。
 今、あんたはどんな仕事をしているの?
 どんな生活をしていて、何を考えていて、…あたしのことをどう思っているの?
 そんな当然の疑問が沸くほどに、互いに会話することさえしていないことにある日ふと気がついた。
 遠恋時代は忙しい時間を縫ってでもくれていた電話での会話でさえも減り、メールはたわいない日常のやりとりから事務的な連絡に。
 こうしてたまに逢える約束さえも突然に入った予定でキャンセル。
 あいつに逢える日を指折り待って待って待って…楽しみにしていた分だけ、ガッカリして、寂しくて哀しくて、堪らなくなってしまう。
 わかってる。
 道明寺だって好きでドタキャンしているわけじゃない。
 だから、あたしは鉛を飲み込んだような重い気持ちをそっと堪えて、申し訳なさそうに謝るあいつに、『大丈夫』、『平気』、『仕事頑張って』それだけを言い続けてきた。
 でも…。
 「…あんたが、本当にそれで納得できてるなら、あたしも何も言わない」
 納得できてるならできてるで、それは恋人としてどうかとは思うけどね…と小さく零して今度は優紀がため息をつく。
 「でも、あんた笑わなくなったじゃない」
 「優紀」
 「…あたし、道明寺さんを見損なった。今のあんたじゃ、遠恋時代よりずっと…寂しそうで辛そうで…全然幸せそうになんて見えないよ」
 ぐっとこみ上げてきたものが…涙に変わって、泣きたくないっていつも思っているはずなのに、優紀の顔が滲んでますます涙が沸き起こる。
 「…うっ」
 「つくし」
 顔ごと唇を片手で覆って、あたしは小さな卓袱台に突っ伏した。





 『あんたも残り少ない女子大生生活、もっと楽しみなよ』
 泣きじゃくるあたしに、優紀が後ろ髪引かれるような感じで帰っていった。
 今日は泊まって行こうか、って言ってくれたけど、優紀には優紀の事情がある。
 夜から道明寺が来るのがわかっていたから夕方までの約束だったし、優紀も彼氏と約束をしていた。
 …女子大生生活か。
 我ながらこの4年間はかなりストイックな生活だったと思う。
 それこそ大学と家、バイト先を往復するだけの毎日で、暇さえあれば勉強に時間を費やして、道明寺からの連絡を待っていた気がする。
 『鉄パン処女通り越して、どこの修行僧だよ…』
 西門さんにも、そんなこと言われたっけ。
 学校の友達との飲み会やサークル活動なんかに参加しなかったのは、貧乏暇なしで時間がなかったのも確かだったけど、本当のところは道明寺が嫌がるから参加は避けていたんだよね。
 たまには学生の時代にしか味わえないことをやってみたいとか、単純に息を抜きをしたいとか、…F4以外の新しい人たちとの出会いを楽しみたいとか思ったこともないとは言えない。
 でも、そのたびに、自分の知らない人間とあたしが過ごしたりするのを嫌がる道明寺のことを思って、そんな些細な気持ちはグッと我慢していた。
 あたしには道明寺の方がずっと大切だったから。
 あいつに追いかけられて始まったこの関係が、逆転してしまっていたのはいつからなんだろう。
 ただでさえ離れ離れなんだもん、喧嘩なんかしたくない。
 遊ぶ暇なんてないくらいに頑張っている道明寺に比べれば、あたしの些細な望みなんて贅沢だよ。
 いつものことではあるけど、道明寺は相当忙しかったらしく、約束のキャンセルを簡潔に伝える電話だけで特に他にはなんにも言ってなかった。
 フォローのメールもないスマホを眺めて、また涙が滲みそうになる。
 悲劇のヒロインかっつーの。
 納得できないなら、自分から電話をかければいいのに、それもできないあたしはどこまで優柔不断なのよ。
 でもあいつがどういう立場にあるかってことがわかっていて、とてもワガママなんて言えるはずもない。
 そう思う端から、以前の…遠恋時代のあいつなら、どんなに忙しくてもメールくらいくれた。
 そんな不満が湧き上がって、いつもどおりの物分りのいいカノジョの自分と、本当は寂しくて寂しくて耐え切れなくなっている自分が行ったり来たり。
 もうホントにグルグルでぐちゃぐちゃで、今日は自分でもどうしようもなかった。
 「…今日はもう寝ちゃおう」
 夕飯なんて、別に食べなくてもいいや。
 気分が塞ぐ時には、寝るに限る。
 ふて寝を決め込んで、まだ日が沈んで間もない時間帯だというのに、あたしはそそくさとベッドに潜り込んだ。
 もう少し…。
 もう少ししたら、道明寺と約束した旅行に一緒に行ける。
 今まで寂しかった分も取り戻せるほど、たくさんの時間を、二人で過ごせるんだもん。
今まであったことや、これからのこと、ううん、たわいないこともたくさん話したり、昔みたいにふざけたり。意地っ張りな自分も少しは控えて、あいつに甘えて素直になろう。
そうしたら、きっとこんな鬱々とした気持ちなんてパアッと振り払えて、元の頑張り屋の自分に戻れるよね。




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