FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①

昏い夜を抜けて430

 ←昏い夜を抜けて429 →意地張ってんじゃねぇよ!16
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「…そう。わかった」
 電話を切り、ベッドに座り込んでしばし瞑目する。
 髪から伝い落ちた雫がポタポタと落ちて、俯けた類の足元にまるで涙の跡のように小さなシミを作った。
 …牧野は司といる。
 それは直感だった。
 日頃から、カン働きになど頼ったことがない、きわめて論理派である自覚があったけれど、それでもそのカンが外れている気がまるでしない。
 『申し訳ございません。確かに、クラブの入口まではお姿を確認していたのですが』
 恐縮していた堀田の言葉が脳裏に蘇る。
 どうやら、入口を固めていた堀田の裏をかいて、つくしと桜子は店の裏口から出てしまったらしい。
 堀田ともう一人、実はつくしには内緒でボディガードをつけていたが、もし司の手の者たちと正面切ってやり合うことになっていたら、たった二人で彼らを相手に対抗できるものではなかっただろう。
 それがわかっていても、大人数をつけていなかったのは、今の時期、つくしが拉致されたり危害を受けたりする心配が他になかったからだ。
 また、誰が相手であっても、つくしやつくしにつけている護衛たちとやり合うような目立つ行動をとれるはずがない。
 誰にしてみても、スキャンダルは致命傷になりえるのだ。
 類の世界では。
 そして、司もまたつくしに人をつけていたことを類は知っていた。
 それが彼女を警護するためであったのか、それとも監視目的であったのかはともかく、むしろそれ以上の厳戒態勢はつくしの重要性をむしろ際立たせてしまったことだろう。
 類にとって、司がつくしを連れ去ったことが問題なのではなかった。
 彼がつくしを傷つけられるとは思っていない。
 それは、つくし以上に、類と司の不文律にも似た、互いへの共通した認識で。
 ただ、それが、つくしの失踪が一方的に…司がつくしの意識の有無に関わりなく無理やり拉致をしたのか、あるいは、彼女自身の意志の下、司と行動を共にすることを選んだのか、だ。
 『1週間くらい、お世話になってくるね。桜子には本当にお世話になったし、おばあさまとはあたしもまるっきり知らない仲じゃないから』
 明るく…けれど、急に有給をとることに対して上司としての彼への申し訳なさを滲ませていたが、つくしの声音の中に類への疚しさも、何らかの含みも含まれてはいなかった。
 『ええ~、お盆休みは俺が牧野の予定を抑えて、ずっと一緒に過ごそうと思ってたのに。つまんない』
 『…いや、ずっと一緒って、それは』
 照れた声は甘く、類の言葉につくしも彼と同じように感じてくれていたことを顕にしていて、彼女の心変わりの兆候など少しもなかった。
 それともそう思いたい類の祈りにも似た願いゆえだったのか。
 「それでも、俺にはもう同じ間違いは犯せない。俺は決めたんだ」
 突き進むだけ。
 そして待ち続けるだけ。
 彼の長い昏い夜の夜明けはもうすぐそばに…けれど、そのために必要なただ一人の女を信じて待ち続けることだけが彼に架せられたただ一つの方法だった。





 「…どこいくつもりだ。そんな格好で」
 「は、離してよっ!」
 パタパタとこぼれた涙が、掴まれた手の上に落ち、怯えた声など出したくないのに、どうしてもその手にこもった男の力に怯えずにはいられない。
 さすがに半分寝ぼけていた司も、つくしの青い強ばった顔色に気がつき、居住まいを正す。
 「ふぅ、手、離すから、ちょっと落ち着け」
 「………」 
 存外に静かな司の声音に、恐怖に強ばっていたつくしの心もわずかに平常心を取り戻す。
 髪をかきあげ、立ち尽くすつくしへとチラッと視線を流すと、彼女を刺激しないようゆっくりとした動きでベッドから立ち上がり、彼女の横をすり抜け、司はミニバーへと移動する。
 まるで怯えた小動物のように、そんな彼の一挙一動を見守っていたつくしだったが、どうやら司は何か温かな飲み物を作ろうとしているだけで、つくしに無体を働こうとしているわけではないことがわかった。
 どうしようかと迷ったものの、結局つくしはベッドからはとりあえず離れて、すぐそばに置いてあったソファに腰を下ろす。
 …どうして、こんなことに。
 それにつけても、考え込まずにはいられないのは、そのことだ。
 確か、桜子と飲んでいた。
 初めての店だったが、少なくてもメイプルや道明寺系列の経営している店ではなかったはず。
 とはいえ、司が相手では、道明寺系列であろうとまったく別の店であろうと、なんの意味もなさないことはつくしでさえも、身に染みてわかっていた。
 今の彼は、おそらく道明寺楓に準じた権力を有していることだろう。
 あの雨の日に置き捨ててきた彼が、本来の彼の覇道を進んで大きく成長しているだろうことは疑うべくもない。
 どれくらい物思いに沈んでいたのだろう。
 目の前に立つ気配に顔を上げると、司が、
 「…ほれ、飲め」
温かな湯気を立てる紅茶を、考え込む彼女へと差し出していた。
 躊躇して受け取れずにいるつくしに司は頓着せず、さっさとテーブルにカップを置くと、自分も向かい側に腰を下ろす。
 「………」
 「………」
 しばし、無言の時間。
 温かな紅茶の温もりが体に染み入り、ささくれ立って、半ばパニックに陥りかけていたつくしの心を宥め、冷静な思考を呼び戻してくれる。
 ずずっと、音をたて、最後の一滴を飲み干した頃。
 「で、…お前、どこら辺まで記憶残ってんだ」
 「え?」
 「お前のことだ。今のこの状況どころか、自分がどんな醜態晒したか、まるっきり憶えてないんだろ?」
 憮然とした司の顔に、非難めいたものと明らかな呆れを見つめ、つくしが慌てて記憶を探る。
 けれど、司の言うとおり、彼女の記憶にあるのは桜子に連れてゆかれたクラブで、酒盛りをしたところまでで…。
 「……あの、ここどこ?」
 基本的なことだ。
 だが、司の言うとおり何も覚えていない身。
 醜態を晒したと言い切られ、おそるおそる遠慮がちにつくしが口火を切る。
 「俺んちの別荘。桜子から聞いてんだろ?」
 「は?桜子からって」
 「あいつの祖母を静養させるのに、一ヶ月ほどうちの別荘を貸した。お前も滞在することになってるよな?」
 「な、なによ、それ」
 それは確か桜子の知人の…ということだったはずだ。
 「お前、ガキかよ。いったい何時間寝こけりゃ、気が済むんだよ」





◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





↓ランキングの協力もよろしくです♪
ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2






関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【昏い夜を抜けて429】へ
  • 【意地張ってんじゃねぇよ!16】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【昏い夜を抜けて429】へ
  • 【意地張ってんじゃねぇよ!16】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク