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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①

昏い夜を抜けて427

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 突然の申し出に戸惑いつつも、とりあえずは桜子の祖母が健在なうちにと、次の日に渡西する桜子に同行して、つくしもそのマジョルカ島を下見がてら訪問することになった。
 「…明日って、あんたあたしに会ってる場合じゃなかったんじゃないの?」
 「いつものことですよ。そりゃ、F4の皆さんほどには多忙とは言いませんけど、自分で実業していればこんなものです」
 そんな多忙な彼女を自分の都合でいままで振り回していたのかと改めて認識すれば、なおさらのこと桜子に頭の上がらない思いがする。
 1泊2日…かなり強行軍な日程は、確かに桜子に半ば押し切られたカタチだったけれど、今にしてみればそれくらいの恩義は十分にあるはずだ。
 …どうしよう。
 盆休みは週明け2日を挟んで、15日を中日に5日間。
 土日を入れれば7日間の長期休暇になるが、実際には幹部職や一部の社員を除いて、週明けから有給を取って、9日間の休みを取ることも可能だった。
 桜子の祖母には、高校時代何度か面識がある。
 柔らかな笑顔の穏やかな人柄で、身分の違う友人であるつくしのことも温かく迎え入れてくれた人だ。
 「…着きましたよ」
 声をかけられて、思案に沈んでいたつくしの意識が浮上する。
 「あれ?お屋敷じゃないんだ」
 てっきり桜子の邸に直行するものと思っていたが、連れてこられたのは隠家風の会員制クラブのようで、あらかじめ連絡してあったのか、道路際に立っていた見目形の良いダークスーツの青年が二人待ち構えていた。
 すぐに一人は運転席側へ、もう一人はつくしの座る助手席側に回って、ドアを開けてくれる。
 「…ありがとう。車、よろしく」
 「確かに、お預かりいたします」
 桜子の差し出した車のキーを恭しく受け取った青年が、慇懃に礼をとり運転席へと代わって座る。
 いかにも水商売風というわけではなかったけれど、どちらの青年もカタギというには粋で、よくよく見てみればダークスーツも堅いだけでなくセンスよく華やいだオシャレをあしらっていた。
 内心ギョッと、つくしが横に並んだ桜子へと小声で耳打ちする。
 「…ちょっと、あんた。ホストクラブとか、あたし困るんだけど」
 大企業の専務付き秘書として、それなりの格好をしているので、つくしも周囲に浮いているということはなかったけれど、それはそれだ。 
 ドキマギと周囲を伺いながら、気後れも顕に桜子に寄り添う。
 友人知人の中には、普通の飲み屋やバー感覚でホストクラブにも出入りしている者もいて、それほど堅く考える必要はないことはわかってたが、極めて生真面目に生きてきたつくしにしてみれば別世界もいいところだった。
 ―――英徳とはまた別の意味で。
 「ぷっ、違いますよ。ホストクラブじゃありません。…まあ、見目の良い男性に囲まれて華やぎたい女性たちが集まっていることは確かですが、多少はいいじゃないですか。尼僧じゃないんだから」
 「…そりゃそうかもしれないけど」
 つくしも堅物というほどではないし、男嫌いではないからそんな気持ちもわからないではない。
 けれど、不思議につくしにはそういう欲求があまりなかった。
 かつて勤労処女と呼ばれたほどに奥手だったせいなのか、あるいは…。
 「先輩はもっとイイ男に囲まれすぎて、麻痺してますからね」
 「…そんなことないって」
 とは言うものの、彼女にもある程度自覚がある。
 元々アイドルなどに入れ込むたちではなかったにしても、高校時代…類たちと出会うまでは普通の感覚は持ち合わせていたのだ。
 しかし、彼らと関わるようになり、やがては身近な存在として一時期過ごした後遺症なのだろうか、他の女性たちがカッコイイと誉めそやすどんな美男に出くわしても、素敵だと思えなくなっていた。
 …あいつら顔だけはいいもんね。
 F4のせいには、違いない。
 「ま、気軽に楽しみましょうよ。ここはお酒も美味しいんです。下手な所に先輩を連れ込んだりしたら、煩い人たちがいますからね。そこは私も自分の身が可愛いんで、ちゃんと心得てますよ」
 「なによ、それ」
 わからないような、わかったような。
 その場に残っていたもう一人の青年の案内で、通された店内は豪奢な内装。
 ほとんどが女性客で、店内を行き来するウェイターやバーテンダーたちも、迎えにでた青年たちに劣らぬ美貌の持ち主。
 猥雑ではなかったが、やはりつくし的には落ち着かない事この上ない。
 個室というほどには密室ではなかったけれど、壁に囲まれ、わりとプライバシーの保たれた席へと案内され、注文がとり終わると、意外にも青年は席につくこともなくあっさりと去って行った。
 「…本当にホストクラブじゃないんだ」
 「だから、そう言ってるじゃないですか」
 「ここにはよく来るの?」
 サングラスを外し、桜子がホッと吐息を吐き出す。
 「そうでもないですけどね。一人で飲みたい気分の時には、かえって賑やかなところの方が私は気が紛れるんです」
 「普通は逆なんじゃない?」
 「気持ちが塞いでる時に、沈鬱な雰囲気の中じゃあ、よけいに落ち込んでしまうじゃありませんか」
 「うーん、そうかなぁ」
 小さく微笑んだその美しい横顔はいつもと同じようで、間接照明の薄暗い明かりのせいだろうか、つくしの目にどこか憂鬱そうに見える。
 …それはそうだよね。
 唯一の肉親が、完治の難しい難病を患い、そうしたくても常にそばにいて看護してあげることが難しい。
 ドライに見えて、桜子は情の深い女性だった。
 祖母に対してしかり。
 つくしに対しても同様。
 かつて、初恋の司にこだわり、ずっと想い続けていたのも、そうした彼女の情愛の深さゆえもあっただろう。
 「あのね…」
 言いかけたところで、ウェイターが先ほど注文した酒とツマミを持ってきた。
 洗練された仕草で、桜子とつくしの前へとサーブするのを見るともなく見守る。
 再びウェイターが去ると、桜子自らワインのフルボトルを手に取り、つくしのグラスへと注いでくれる。
 「…それ、いったいいくらくらいするわけ?」
 「心配しなくても先輩に払え、なんて言いませんから、こんなところまで来て貧乏臭い心配するのやめてください」
 「貧乏臭くて、すみませんでしたね」
 確かに、値段を聞くのはせせこましすぎるというものだろう。
 ふぅっと息を吐き、グラスの中の淡いピンクの酒をちびりと口に含む。
 「ん~、美味しい!」
 「でしょ?先輩、なにげに貧乏性丸出しの癖に、口だけは肥えてるんだから、きっと喜んでくれると思ってましたよ」
 「口が肥えてる?」
 口が肥えてると言われるどころか、昔からなんでも美味しく食べれる方だ。
 自分も酒をコクリと口に含み、桜子がつまみのブルスケッタ(※1)やプロシュット(※2)の皿をつくしへと差し出してくれる。
 「ほら、ここは食べ物も美味しいですから、遠慮せず召し上がってください」
 「うん」
 当初、店の雰囲気に圧倒されてしまったが、桜子の言うとおり酒も美味しければ、料理も美味い。
 適度に賑やかで、かといって煩さすぎもせず、居心地の良い店だった。
 「先輩はなにげに、美味しいものも食べ慣れて口が肥えてますよ」
 「そうかなぁ」
 「ただ、好き嫌いが少ないだけ。許容値が広いので、たいていのものは受け入れられる。ベストでなくてもベターの中で、良いところを見つけられるし、嫌いなものも好きに変えられる」
 桜子の物言いは食べ物の事を言っているようで、どこか暗喩に満ちていて、わかりにくい。
 「…それって食べ物のことだよね?」
 微妙な笑みで、曖昧に頷いて桜子が肩を竦める。
 「で、花沢物産を辞めて、先輩その後、どうされるつもりなんですか?」
 「……ん、いくつか選択肢はあるとは思うんだけどね」
 ヘッドハンティングというほどではなかったけれど、幸い、さまざまな人たちとの出会いの中でツテもできて、中には「花沢を辞めて、うちで働かないか?」と言ってくれた人たちもいた。
 それのどこまでが本気かはわからなかったけれど、その言葉が自分への賛辞であることを信じられる今が誇らしかった。
 一生懸命にやればなんでも報われるわけではないことは、知っている。
 けれど、頑張らなかれば報われる機会さえないのも真実で。
 精一杯やってきた。
 けれどそうしたチャンスは、ただ偶然に訪れたわけではない。
 それまでも確かに、つくしは何事にも懸命に取り組んできた。
 しかし、彼女が与えられた機会の中で自分を育てることができたのは自分だけの力ではなかった。
 各界でもその人ありきと言われるような一廉の人々と知り合うキッカケを与えてくれ、常に克己せよ、彼女にはその力があると手を引き、時には足元を照らして、背を押してくれたのは一人の男。
 ただ恋人だとか。
 ただ恩人だとか。
 そんな一言だけでは言い表すことのできない人…花沢類。
 彼の捉えどころがない冷たい横顔ではなく、彼女にだけ見せる柔らかい優しい顔が脳裏にふと思い浮かぶ。
 『人脈は力だよ』
 『他人に自分の人生を左右されたくなければ、自分で力をつけなければ』
 どうして、彼は自分に力を与えようと思ったのか。
 恋人としてでなく、脅迫者と被害者として相対していた時でさえ、常に彼はつくしに与え続けていた。
 『力』を。
 まるで道端に転がった取るに足らない小石のように、つくしを彼女の意思に反してどんな道筋からも放逐させてしまわないように、彼女の心を押し潰してしまわないように。
 それこそが彼女を守るものであり、彼女にはその力があると力づけてきたように思う。
 「先輩?」
 「あ、ごめん。ちょっと、ぼうっとしちゃってた」
 「寝ないでくださいよ?」
 「はは…自信ないかも」 
 ほんのりと回り出した酒の生み出す酩酊が気持ちよく、フルボトルを空けるどころか、グラス一杯で潰れてしまいそうだ。
 あまり深酒をして、桜子に迷惑をかけるわけにもいかない。
 …明日は、海外だし。
 その前に、マンションに寄ってもらって、一泊とは言え、簡単な旅行支度をする必要がある。
 …そうだ、その前に類にも連絡しなきゃ。
 「悪いけど、ちょっと電話してもいいかな?」
 「…花沢さんにですか?」
 「うん、明日移動中に連絡できるかわからないし…もしかしたら、10日ほど海外で過ごすことになるかもしれないから」




※1 イタリア料理の軽食の一つ。おつまみや前菜として用いられる。
※2 イタリア式の燻製しない生ハム。



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