「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①
昏い夜を抜けて423
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『あんたもたいがい大した度胸だな』
さすがに電話の向こうの男の声は、獰猛な肉食獣のような危うい緊張を孕んで、ともすれば声だけねじ伏せられかねない示威を帯びていた。
けれど彰も伊達や酔狂でこの男に近づいたわけではない。
類に忠告されなくても、自分が持ち出した切り札が、下手をすれば自分をも破滅に追い込みかねない諸刃の剣だとわかっていて提示したジョーカーだったのだ。
「…単に友好の証として、俺が持っている手札のうち、もっともあなたのお気に召すだろうと思うものを放出しただけのことですよ」
『放出?まだバックアップあるんだろうよ』
「いえ、信じてくださるかは、あなた次第ですが、あれに関してはあれっきり。第一、あなた以外の誰に対して、あれが価値を持つでしょうか?」
『…普通に世間にでも公表すれば、十分スキャンダラスなものなんじゃねぇの?労せずして、花沢物産はあんたの手に入る』
「スキャンダルに塗れ、餓狼に貪り食われて倒産寸前の花沢物産ですか?」
鼻で笑う。
『ま、そういうことになるかもな。そこからがあんたの腕の見せどころだろう、と言いたいところだが、無謀を豪胆と履き違えるほど俺ももうガキじゃねぇし?けど、俺に対しても切り札にするにはいまいち曖昧なんじゃねぇ?』
男のとぼけた物言いが笑える。
威力があったからこそ、自分から電話をかけて来たのだろう。
こちらから接触を試みても、司がその必要性を認めなければ、けっして叶わぬ会談を意図も容易く受け入れ、彰から提示しなくても優位な条件を用意して接触してきた。
クスッとつい溢れてしまった失笑はけっして嘲りではなかった。
だが、わずかではない勝利への優越が含まれていたのは仕方がないだろう。
よりいっそう、剣呑とした空気を電話越しにさえ、伝えてくる相手をあまり挑発したくなくって、あえて言わずもがなな言葉を継ぐ。
「…それでもあなたは俺に電話をしてきた」
『………』
「当事者である類と彼女、そして俺以外、おそらくあの画像を見ても、彼女が誰であるかなどわかろうはずがない。俺がそう処理を施した。…それに誰であるかわかったにしても、彼女には気の毒なことですが、我々にとって大した問題になるものでもない」
…彼女と類、そしてあなた以外には。
その言葉を飲み込んで。
「それでもあなたは、あのデータに価値を見出している。俺へと連絡をくれたこと自体が、その証拠でしょう」
『…ふっ、なるほど』
「………」
もう彰に言うべき言葉はなかった。
どのみち、司はすでに答えをもって電話をしてきたことはわかっている。
だから、あとは待つだけ。
しかし、一度決めたことを延々と逡巡する司ではなかったから、彰が思っていたよりもはるかに早く切り出す。
『まあいい。あんたの言うとおりだ。あれがあんたの俺への質なんだか、脅しなんだか…あるいは報酬なんだか知らねぇが、確かに俺には価値があった。俺にとってどんなものよりもはるかに影響力のあるブツだったさ』
その声音に含まれる真剣さに彰がたじろぐ。
もちろん、わかっていて利用している自覚がある彰だったが、たかが一人の女に、…自分の何をおいても、どんなものにも勝って優先的な価値があるなど言い切る司の言葉に、改めて驚愕を隠せない。
電話の向こうの相手は、一介の…ただの『男』などではないのだ。
あの道明寺司。
そして、同じような声音と…眼差しで言い切った男をもう一人知ってる。
おそらく、電話の向こうの司も、類と同じ眼差しをしているだろうことを彰は疑わなかった。
『あんたと組もう。…だが、間違っても俺があんたに好意を持ってるとか、ましてや信用しているだとか思わないことだな』
いつでもお前の喉笛に喰らいつき、食い殺すだろうと、暗に示唆する司にうっすらと彰は微笑みかける。
司には見えないだろう。
けれど互の表情が不思議に互いに見える気がした。
「ええ、わかってますよ」
好意だとか、信用だとか、そんな甘いものはとっくに捨て去った。
彼女…彰にとっての司や類のつくしに相当する女、七生を捨て去った時から、彼にはそんな幻想を抱く余地など持ち合わせてはいなかったのだから。
「…待たせて悪かったな」
携帯を切った司が、振り返ってねぎらう。
彼がそんな風に誰か他の人間を気遣うことがあるなどとは思っていなかった桜子は、驚きに目を瞬かせた。
「いえ、間の悪いところに伺った私が悪いのですから」
「…いや。いいか?」
ソファに腰を下ろしている桜子の対面側に座った司が、胸ポケットの煙草を指し示し、桜子に許可を取る。
「ええ、どうぞ」
応諾を得て、流れるような仕草で、コーヒーテーブルの上のクリスタルの灰皿を引き寄せ、煙草を口に咥え、紫煙を燻らせる男の姿はひどく美しく色っぽかった。
この男はビジネスの場では、海千山千の経済人たちをも怖気づかせる威圧感とカリスマ性を発揮する。
こうしてプライベートの場で相対してさえ緊張感を相手に抱かせずにはいられないが、どんな女たちも、まるで誘蛾灯に引き寄せられる虫のように、あるいは花に群がるミツバチのように、この男の艶めかしさと魅力に惹きつけられずにはいられない。
…こんなイイ男に言い寄られて突っぱねられる先輩が凄すぎますよ。
だが、一方で、つくしを現在手に入れている類という男もまた、司とは対局のタイプながら、甲乙つけがたい魅力を放つ男性だった。
「…一ヶ月だ」
「一ヶ月」
「ああ、俺がお前の時間と便宜を買う。契約書も用意してる。一ヶ月付き合ってくれたら、お前が望むままに、ヨーロッパでのシェアも約束するし、有力者への紹介や尽力も惜しまない」
「………」
契約…と言われ、司の視線の先。
A4サイズの大判の封筒の存在に、これが昔の…子供時代の友誼に基づいたものではなく、彼の道明寺司としての本気であることを彼女に知らしめた。
けれど。
「便宜を盾に、私があなたに先輩を売るとでも?」
「売る…か。お前にあいつが売れるとは思ってないさ。だが、お前の協力はぜひ欲しい」
「…協力、はしてきたつもりです」
あくまでもつくしの不利益にならない、あるいは彼女の意思を反映できる余地の範囲でのことでだ。
「これは…要請じゃない」
「…っ!?」
「命令だ。俺は牧野を手に入れる。これは道明寺司としての宣言だ。それを妨げるのなら、たとえどんな人間が相手であろうと、俺が全力で潰す。それが…お前であろうと、類であっても、たとえ、牧野自身の意思だったとしても邪魔はさせねぇ。お前の言葉はyes以外はない」
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「スキャンダルに塗れ、餓狼に貪り食われて倒産寸前の花沢物産ですか?」
鼻で笑う。
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男のとぼけた物言いが笑える。
威力があったからこそ、自分から電話をかけて来たのだろう。
こちらから接触を試みても、司がその必要性を認めなければ、けっして叶わぬ会談を意図も容易く受け入れ、彰から提示しなくても優位な条件を用意して接触してきた。
クスッとつい溢れてしまった失笑はけっして嘲りではなかった。
だが、わずかではない勝利への優越が含まれていたのは仕方がないだろう。
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「…それでもあなたは俺に電話をしてきた」
『………』
「当事者である類と彼女、そして俺以外、おそらくあの画像を見ても、彼女が誰であるかなどわかろうはずがない。俺がそう処理を施した。…それに誰であるかわかったにしても、彼女には気の毒なことですが、我々にとって大した問題になるものでもない」
…彼女と類、そしてあなた以外には。
その言葉を飲み込んで。
「それでもあなたは、あのデータに価値を見出している。俺へと連絡をくれたこと自体が、その証拠でしょう」
『…ふっ、なるほど』
「………」
もう彰に言うべき言葉はなかった。
どのみち、司はすでに答えをもって電話をしてきたことはわかっている。
だから、あとは待つだけ。
しかし、一度決めたことを延々と逡巡する司ではなかったから、彰が思っていたよりもはるかに早く切り出す。
『まあいい。あんたの言うとおりだ。あれがあんたの俺への質なんだか、脅しなんだか…あるいは報酬なんだか知らねぇが、確かに俺には価値があった。俺にとってどんなものよりもはるかに影響力のあるブツだったさ』
その声音に含まれる真剣さに彰がたじろぐ。
もちろん、わかっていて利用している自覚がある彰だったが、たかが一人の女に、…自分の何をおいても、どんなものにも勝って優先的な価値があるなど言い切る司の言葉に、改めて驚愕を隠せない。
電話の向こうの相手は、一介の…ただの『男』などではないのだ。
あの道明寺司。
そして、同じような声音と…眼差しで言い切った男をもう一人知ってる。
おそらく、電話の向こうの司も、類と同じ眼差しをしているだろうことを彰は疑わなかった。
『あんたと組もう。…だが、間違っても俺があんたに好意を持ってるとか、ましてや信用しているだとか思わないことだな』
いつでもお前の喉笛に喰らいつき、食い殺すだろうと、暗に示唆する司にうっすらと彰は微笑みかける。
司には見えないだろう。
けれど互の表情が不思議に互いに見える気がした。
「ええ、わかってますよ」
好意だとか、信用だとか、そんな甘いものはとっくに捨て去った。
彼女…彰にとっての司や類のつくしに相当する女、七生を捨て去った時から、彼にはそんな幻想を抱く余地など持ち合わせてはいなかったのだから。
「…待たせて悪かったな」
携帯を切った司が、振り返ってねぎらう。
彼がそんな風に誰か他の人間を気遣うことがあるなどとは思っていなかった桜子は、驚きに目を瞬かせた。
「いえ、間の悪いところに伺った私が悪いのですから」
「…いや。いいか?」
ソファに腰を下ろしている桜子の対面側に座った司が、胸ポケットの煙草を指し示し、桜子に許可を取る。
「ええ、どうぞ」
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この男はビジネスの場では、海千山千の経済人たちをも怖気づかせる威圧感とカリスマ性を発揮する。
こうしてプライベートの場で相対してさえ緊張感を相手に抱かせずにはいられないが、どんな女たちも、まるで誘蛾灯に引き寄せられる虫のように、あるいは花に群がるミツバチのように、この男の艶めかしさと魅力に惹きつけられずにはいられない。
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「…一ヶ月だ」
「一ヶ月」
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