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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第九章 暁闇①

昏い夜を抜けて421

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 『…あなたは私を騙したのですか』
 電話の向こうの声は、ひんやりとして少しも感情の揺れを感じさせない。
 けれどその胸のうちの妄執は、見えない電話のラインを通してさえ目に見えるようだ。
 「嘘は言っていませんよ。牧野とは別れて、マンションも出ました」
 シラッとわかりきったことを繰り返す息子の馬鹿にした態度に、志保子の見せかけの冷静さがかなぐり捨てられ、金切り声が上がる。
 『嘘ッ!!』
 相変わらずだ。
 他人の前では怜悧な奥方、賢夫人。
 その完璧なはずの仮面が、我が子である類の前だけでは容易に剥がれ、激しくアップダウンする感情に揺らされヒステリックに暴発する。
 『ただでさえ、あの男があなたに成り代わろうとしているこの時期にッ!!わ、私が何も知らないとでも思っているのですかっ!?あなたまでもが、私を謀り続けるつもりなら、私にも考えが…』
 …あります。
 そう言い切る前に、類の方が苦笑交じりにその言葉を遮る。
 「だから本当のことだと言ってるのです」
 騙していないとは言わない。
 まるで言葉遊びだと自分でもわかっている。
 それでも…。
 「俺は今もあのマンションには戻っていないし、牧野とは以前に別れた」
 キッパリとした断言に、志保子の勢いもわずかに後退する。
 『で、では、あなたたちが二人で親しげに腕を組んだり…会社の秩序を守るべき立場であることを忘れたような、破廉恥な行動を社内外で繰り返しているのを目撃されているというのは…』
 「まさか、破廉恥な行動を繰り返していただなんて、とんでもない。そんなこと俺がするわけがないでしょう」
 『……では?』
 だいぶ粛清されてしまったとはいえ、社内に潜ませた彼女の耳目が伝えてきた事柄がまるっきりのデタラメだとでも言うのか。
 そんなはずはないと思いつつ、それでも人は事実無根だと平然と否定されれると、自分の信じたいものを信じたくなってくるものだ。
 ここのところ志保子にとっての有益な情報を掴んでくることができず、彼女の不興を恐れた部下たちの愚にもつかない誤った報告だったのかと、意気込んでいた肩の力を抜く。
 自分でもイラついてる自覚がある。
 夜もよく眠れていない。
 それでもなんとか息をつきかけ、…次の類の言葉で再び逆上する。
 「手を繋いだり、デートしたり、恋人同士としてはあたりまえのこと程度の大人しいものですよ」
 『類ッ!?』
 ピンポーン。
 どうやら迎えの車が到着したようだ。
 『あ、あなたは、いまさっき、あの人とは別れたと…』
 「ええ、別れて、もう一度付き合いだしたんです。彼女は堅いですからね。俺の両親の了承を得るまでは同棲するのは控えたいと、マンションに戻るのは断られてしまいましたよ」
 『………っ』
 息を呑み、荒い息遣いが聞こえる。
 おそらく激情が激しすぎて、癇癪を起こしているだろうことも予想できた。
 さすがに他人に当たることなどするような女ではなかったが、それでも荒れ狂った彼女のヒステリックな狂乱に付き合わされる使用人たちへの同情がわずかにもたげる。
 ひどい時には過食拒食を繰り返し、躁鬱状態に陥ったあげくに虚脱状態になることも珍しくはなかったから、さぞ手に余すことだろう。
 だが、その前に…。
 「お母さんに、お話したいことがあります」
 『…あ、あなた、まさか』
 「さすがに電話ではなんですから、近いうちにそちらへ伺いますよ。明日…あるいは、明後日か」
 『!』
 避け続けていた母親との対面を示唆する。
 「とりあえず、そろそろ出勤時間のようなので、これくらいで失礼します。ご存知だと思っていたのですが、お忘れのようだ。こう見えても、俺にも仕事があるので、連日連夜の電話や使いは迷惑です」
 『類ッ!!』
 「あらためてこちらから連絡差し上げるまでは、どうか控えて下さい」





 結局、部屋付き執事の見立て通り、司の手の甲の傷はかなり深く5針も縫う大怪我だった。
 さすがに天下の道明寺財閥の威光。
 病院で待たされることはなく治療を受けることはできたが、なんだかんだで午前中の予定はスキップしてしまった。
 どのみち一刻も早く東京へ、つくしのもとへ帰るために強行軍だった。
 半日の遅れくらいはあっという間に取り戻してみせる。
 だが、その前に、執務机に投げ出した携帯電話を手に取る。
 ホテルの部屋で連絡した類とは繋がらなかった。
 …別に珍しくもない。
 昔から、類だけは彼の呼び出しや連絡にも唯々諾々と従わなかった。
 それが反抗だとか、反発だとかそういうことではない。
 ただ、面倒臭い。
 それだけが彼の行動理由のほとんどだったということは、幼馴染みの司も熟知している。
 その男が、かつて静以外の女に…いや人間に関心を持たなかったあの類が、つくしをかなり強引な手段を用いても手に入れていた。
 …やってくれるじゃねぇか。
 まるで自分を目の当たりにしたような所業だ。
 つくしに出会った高校生の頃のかつての自分。
 彼女に恋して、変わる以前の自分を彷彿とさせたことが片腹痛い。
 いやもしかしたら、今もそう変わりはないのかもしれない。
 司の慈悲も情けも愛情も、すべてはつくしに始まり彼女にだけ捧げられているというだけのことで、彼女をこれほどまでに愛しすぎていなければ、類と同じ手段をとったのかもしれなかった。
けれど…。
 …三年寝太郎のくせに、なにいまさら執着してやがんだよ。
 あの時てめぇは、炉端の石ころ程度にあの女から素通りしやがっただろ?お得意の物好きで、気紛れにちょっかいかけてただけじゃねぇか。
 それなのに、まんまと司から掠め取った。
 似合いもせぬ悪辣さと、極めてお手軽な方法で。
 だが、つくしにはこれほど有効な手段もなかっただろう。
 鈍感で、頑固で、一途で、お人好しな彼女には。
 つくしは、愚かなほど情の深い女だった。
 一度懐に入れた人間を拒み切れない。
 どんなひどいことをされたとしても、赦すのが彼女だったのだ。
 きっと今も、そんなところは変わっていないのだろう。
 文句を言いながらも、司の勝手を無視しきれない彼女につけいっているのだからまず間違いはない。
 司しかり。
 桜子しかり。
 つくしは、さまざまな人間たちの彼女への仕打ちを赦して、忘れ、時には愛した。
 そしてきっと、類のことも赦したのだ。
 彼女お得意の同情と慈愛とやらをふんだんに垂れ流して。
 過去ゆえに。
 司の暴虐から救ってくれた初恋の男だったから。
 皮肉にも、司自身がつくしを虐げたことで生まれた類との絆だった。
 「バカくせぇ」
 それでも…。
 そんな彼女だからこそ、愛しくも、身悶えるほどに恋しくて焦がれずにはいられない。
 …お前が欲しい。
 …もう一度、今度こそお前を手に入れるためなら、俺はどんなことをしても。
 トゥルルルルル、トゥルルルルルル
 執務机の上の、携帯ではなく、内線電話の呼び出し音が鳴り出す。
 ガチャ。
 「……なんだ?」
 『NYの社長からです』





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こ茶子さまお久しぶりです^ ^何かと大変そうですが、ご自愛下さいね。
もう更新される度にドキドキσ^_^;つかくつファンとしてはつくしちゃんを奪って欲しい笑ところですがこの後一体どうなることやら?

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