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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花③

昏い夜を抜けて415

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 通り過ぎる背格好の似た男性を見つけては、溜息をつき、再び時計を確認する。
 いったいこの動作をどれくらいの間、繰り返したことかと、七生自身自分に呆れていた。
 …わかってる。
 本当は彼はもう来ないのだと。
 昨夜の一時は、彼の弱さ…七生の未練の見せた夢にすぎない。
 優しくて…優しくて…本当に弱くて脆くて…ずるい男。
 情が深いからこそ、いつも迷ってばかり。
 そんな彼を好きになったのだから、こんなふうに待つべきではないのだ。
 きっといつか、彼の足枷になってしまう。
 弱い彼を受け入れ続けて、ボロボロになった自分に結局、また傷つくのは彼なのだ。
 絶対に彼からは幕引きができないのがわかっていたからこそ、自分から別れを選択したのに。
 「…バカね」 
 気がついたら、声に出して呟いていた。
 それでも…たぶん、最後の賭けだったのだ。
 来るわけがない…そうわかっていて、待たずにはいられなかった。
 カチカチカチ…PiPiPiPi、PiPi…。
 小さく鳴った腕時計の目覚ましを止める。
 雑踏の中だというのに、不思議にその小さな音が耳に大きく届いた。
 バッグの中からチケットを取り出し、改札の機械に通す一瞬前…背後を最後にもう一度だけ振り返る
 それは先ほどから、何度となく繰り返した『最後のもう一度』とすんぷ変わらぬもので泣き笑いに苦笑した。
 待ち合わせから、時間はとっくに25分も過ぎて…。
 すでに待ち構えていた新幹線に乗って、自分の席を探す。
 世の子供たちは夏休みの真っ最中。
 さぞや混み合っているかと思って選んだグリーン車は、かなり空席が目立った。
 これから先、混み始めるのだとしても、今はありがたい。
 手荷物を急いで頭上の棚に置いて座った時には、涙が溢れて仕方がなかった。
 窓の外、見送りの人々に見とがめられないように、片肘たてた手のひらで顔を押さえて、眠ったふりで俯く。
 やがて鳴り響く発車メロディの音とともに、滑るように新幹線が走り出す。
 もはや、彼女の涙を止めてくれるものも…慰めてくれる人もいないのだから、我慢なんてとでもできるはずがなかった。
 「……すん………ぅ………すんッ」
 走り出したガラスの向こう…夜の闇に消えた面影。
 初めて出会った頃の彰が、彼女へと微笑みかける。
 『……七生?ななみって言うのか』
 それが彼女へと彼がかけた初めての言葉。
 その名前が、彰を生んで間もなく亡くなった彼の母親の名前だったと知ったのは、その出会いからどれくらい後のことだっただろうか。
 いつも彼女の名前を呼ぶ時、彰はまるで大切な宝物を抱きしめるような切なげな顔をしていた。
 明朗快活で温厚な人柄のハンサムな彼は、たくさんの人たちの人望を集めていつも人の輪の中心だったのに、いつもどこか飢えたような顔をしていた。
 何が彼をそんなに哀しませているのかと、…彼をよく知る前はずっとそれが気がかりで。
 やがて二人の距離が縮まり、彼女にだけは彼の本当の部分を見せてくれるようになった彼がただ愛しかった。
 そんな彼を慰めたい、抱きしめてあげたいと思っていたのは彼女の方だったのに。
 それなのに、今、抱きしめて欲しいのは七生だった。
 本当に好きだった。
 愛していた。
 …さようなら、彰。幸せに…。
 過ぎ去ってゆく家々の灯が、まるで光の川のように七生の目の前を流れ去ってゆく。
 その川が…この気持ちさえも連れいって、すべてを洗い流してくれれば。
 そんな詮無いことを願う自分を哀れんで、七生はいつまでも、いつまでも一人忍び泣き続けた。





 「……ん~、今日はこれくらいにしよっか」
 類の言葉に、パソコンから目を上げると外はすっかり真っ暗になっていた。
 時間は20:30を少し過ぎたところか。
 …はあ、週末明けの月曜日でこの時間までの残業はちょっとキツかったかな。
 なんて、前日までバッチリ遊んできた身としては贅沢な感慨。
 順当にいけば、いよいよ後半月ほどで、類の海外赴任が差し迫っている。
 そして、つくし自身もフランス渡航へと。
 けれど、前々から…類との関係が変わってきてから、心のどこかでうっすらと浮かび上がりだしていた決意。
 立ち上がって三田村の本日の最終報告を受けている類を、ジッと見つめる。
 その視線に気がついた類の目が、つくしを見てふっと和んだ。
 これもいつの時からか、あたりまえになりつつある二人の習慣。
 つくしが類を見れば彼が小さく目元を和んで、類がつくしを見れば彼女が嬉しさに、少しだけ口元が緩む。
 三田村や眞子にもその視線の先を辿られ苦笑されて…。
 「えっと、あ、あたしも今日はこれくらいで、失礼しますね」
 すでに類の一言でパソコンの電源も落とし、がちゃがちゃと帰り支度に入る。
 基本、整理整頓が行き届いているつくしだったから、帰ろうと思えば身支度も早かった。
 「うん、一緒に帰ろう。ちょっと遅いけど、大人のアフターファイブの時間としてはまだ少し時間があるから、デートして帰ろうっか」
 にっこり。
 思わずその美しい微笑みに見惚れぼうっとさせられ、サラッと言われた言葉を聞き逃しかける。
 が……。
 ニヤニヤニヤ。
 横からの視線が痛い。
 「ひゅうひゅう~、お熱いぞ~。顔が真っ赤」
 「え、江島さんっ!」
 「…専務、社内ではお控えください。牧野さんのためにも悪目立ちするような発言はどんなものかと」
 「……み、三田村さん」
 肩を竦めた類がつくしの横へと歩みよって、机に乗った彼女のカバンを手に背を抱き、立つように促す。
 「いこ、牧野」
 「せ、せ、専務」
 「今からはプライベート。どうせ今更じゃない?あえてするほどじゃないけど、交際宣言したっていいし?…うちは確か社内恋愛禁止じゃなかったよね?」





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