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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花②

昏い夜を抜けて398

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 次の日は寝坊して遅めの朝食。
 いつも類が宿泊する高級ホテルのように、右から左に料理が出てくるわけではないから、眠たがってむずがる彼をベッドに残し、つくしが簡単な朝食を作って用意した。
 材料がないだろうから、近所で買い物ができるところでも探して…という算段は冷蔵庫を覗いて解消された。
 …いつの間に。
 ギッシリと詰め込まれた食材。
 元々朝食など摂る習慣のなかった類だったから、あきらかにつくしと暮らした日々の経験から彼女の為に用意されたもので。
 相変わらず偏食が酷い上に少食な男だ。
 食事の完食は夢のまた夢だったが、作ったものは一応一通りは口にしてくれた。
 食事の感想は…。
 『美味しかったよ』
だ、そうで、それでも皿に残された料理に複雑な気分は否めなかった。
 「……どうしたの?難しい顔しちゃったりして?」
 「どうしたら、あんたの偏食を改善できるのかって、悩んでたところ」
 思わず正直に、口をついて出てしまっていた。
 キョトンとした顔が首を傾げて苦笑する。
 「まだ、そんなこと考えてたんだ」
 「だって、なんか悔しいもん」
 …まあ、単に本当はマズいだけなのかもしれないけどさ。
 先程まで小さな黒集りになっていた場所を、類がチラッと見て、そちらの方へと促される。
 「ほら、ちょうど空いたみたいだよ。見たいんでしょ?」
 「あ、…うん」
 二人は昨日遠目に見た、大鳴門橋の橋桁内に造られた海上遊歩道・『渦の道』を訪れていた。
 天気が良いので日差しは暑かったが、仕切りの金網から吹き抜ける海峡の海風は潮の匂いを運んで心地よい。
 雄大な鳴門の海、片方に太平洋、反対側に瀬戸内海を眺め、類と腕を組んで歩く散歩道は美しく素晴らしかった。
 鳴門の海は、南国の海のように真っ青ではなく、海の深さだろうかどこか鈍く重い色合い。
 けれど渦の道から眺める景観は、どこまでも続いてゆく白っぽい空と、遠く陽の光を反射して境界線のないペールブルーの海とで広大なキャンバスに描かれた一枚絵のようだった。

 遊歩道をいく人々の喧騒と、頭上を走る車の音に紛れて、ゴゴゴゴゴゴゴゴッという地鳴りのような腹に響く激しい潮流の音が聞こえる。
 「…すごい!」
 人ごみが途切れた隙を狙って、類と覗き込んだ展望台の中央に埋め込まれたガラス床。
 真上から見下ろす直下45m下にある渦潮は圧巻だった。
 「ここはメッシーナ海峡、セイモア海峡と並んで世界3大潮流と言われてるんだ」
 「へぇ」
 意外ではないが、類は美術品や音楽、文学などの芸術や文芸方向にも造詣が深いが、こうした地理的な知識や、世界各国の風俗にも通じてかなり博識だ。
 それが幼い頃に受けた英才教育の賜物なのか、あるいは彼自身の読書好き、テレビ好きが長じた結果の知識なのかはわからない。
 …でも、あんがい普通の常識は知らないのよね。
 「運が良かったね。天候とか時間帯によっても、渦が見られない時があるんだって」
 「…え、そうなんだ?」
 つい魅入ってしまっていたが、この希少な大自然の驚異を目の当たりにすることができたのは、とても運が良かったのだとあらためて類の説明で実感する。
 …見られて良かった。
 元々、贅沢などとは縁がなく、旅行の機会も少ない。
 今回ひょんなことがきっかけとは言え、この時を逃していたら、この貴重な景観をこの先眺めることなどもう二度とないかもしれなかった。
 「大丈夫だよ。今回見られなくても、いくらでも俺が連れてきてあげるから」
 口に出して言っていたつもりはなかったけれど、いつもの癖が出ていたのだろうか。
 渦潮ではなく、類の顔をぼんやりと見つめていると、小さく笑った彼が髪を撫でてくれて、思わず赤面させられてしまう。
 …うは、天使の微笑みつきで、そんなことしないでぇ~。
 心で悲鳴を上げて、火照った頬を手の甲で撫でて誤魔化す。
 「もっと近くで渦を見たいんだったら、観潮船もでてるみたいだよ?」
 「へぇ、そうなんだ」
 「どうする?もう、けっこういい時間帯だし、観潮船に乗るならもう駐車場に戻った方がいいけど」
 時間帯は朝が遅かったので、ランチもずれ込み下手をするとスキップすることになりそうだ。
 「…えっと、確かこのあと、美術館に寄るんだったよね?」
 「興味ない?」
 「そんなこともないけど、どちらかと言えば類が見たいかな、とか?」
 確かに類には暇さえあれば寝てばかりだったり、テレビを好んで出不精だったりといった美青年にあるまじきオヤジ臭いところもある。
 しかし、詩集を読むことや画集を眺めたりすることも好んでいるようで、そこは美男の面目躍如、イメージどおりのところもあった。
 美術館チョイスは、つくし的には気を使ったつもりだったのだが…。
 「そこって、確か古代壁画から世界各国の現代絵画を原寸大で忠実に再現してるとかいうウリだったけど、俺だったら本物の方をかなり見慣れてるからね」
 「ああ!そっか」
 相手が超セレブなお坊ちゃまだということを、すっかり忘れていた。
 ポンと両手を叩いて、今更ながらに納得しているつくしの無邪気さに苦笑する。
 「まあ、今それほど牧野が見たいわけじゃないなら、今日はそっちはスキップしようか?そのうち本家の方に連れて行ってあげるよ。それじゃあ、観潮船にする?」
 「………うーん」
 確かにここから見下ろす渦潮は一見の価値があるが、それほどこだわって間近でみたいほどの興味がつくしにはなかった。
 そんな彼女の反応の薄さに、類もあっさりと納得する。
 「別にいいなら、近くにケーキの美味いカフェがあるらしいから、そっちでお茶でもしようか?」
 「え?!美味しいケーキ?」
 途端につくしの顔が輝く。
 「…ま、牧野には、花より団子だよね」
 「失礼なッ」
 満面の笑みで輝いてたつくしの顔が、ムッと唇を尖らせ、類の顔を睨んだ。




 「あ、ちょっと待って」
 つくしの腰にあてた手はそのままに、類が反対側の手でスラックスのポケットを探って携帯電話を取り出す。
 「…三田村だ」
 「メール?」
 「いや、電話。ちょっとだけいい?」
 問われて頷きつつ、視線の先に見つけた表示を類へと指し示す。
 「…あ、類」
 「ん?」
 「あたし、ちょっとお化粧なおしてくるから、ここでゆっくり電話しててくれる?」
 「わかった」
 これからまた、類の暴走車に乗っての移動が待っている。
 …それに。
 いくら代わり映えしない顔でも、好きな男の前では多少は身奇麗にしたいではないか。
 つくしはトイレに向かいかけ、途中、ふと自分のバッグの中からも携帯電話の呼び出し音が鳴っているのに気がつき、着信を確認する。
 「……あ」






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