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「中・短編-」
Better Sweet Angel…9話完

Better Sweet Angel 06

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 兄弟で連れ立ち父親である家元の私室に辿りつくと、すでに大事な話は終わっていたのか、和やかな空気へと移行していた。
 母や兄はともかくとして、部屋の主である父親の姿がない。
 「……あら、遅かったのね、二人共」
 「俺は出かけてたんで…」
 「あれ?お父さんは?」
 キョロキョロとわざとらしく見回し、孝三郎がおどけてソファに腰を下ろす。
 「来月の新盆のことで、三倉さんに呼ばれて行きましたよ」
 「ありゃりゃお忙しいことで。ついこの間、盂蘭盆が終わったばかりだというのに、俺にはとてもマネできませんよ。あ、お母さん、俺、抹茶ミルクで」
 「はいはい」
 どこかの誰かのような茶道家らしくない邪道な注文をして、我が儘全開の弟に総二郎が顔顰め、目の前でにこやかに座っている兄へと視線を移す。
 「…兄貴、結婚するんだって?」
 「孝が話したか?」
 「まあね。ずいぶん、急なことじゃないの?」
 「そうかな」
 「そうだよ、ずっと女っ気がなかった兄貴がどういう風の吹き回し?」
 母手ずから総二郎にはコーヒー、孝三郎は抹茶ミルクを受け取って、勝手に兄二人の会話に横入りしてくる。
 「…ん、風の吹き回しというか、一目惚れ?」
 「「「一目惚れ!?」」」
 兄弟ばかりか、母親までも目を丸くして祥一郎を注目する。
 照れた顔には、恋人への確かな愛情と賞賛を宿して。
 「まあ…特別に美人とかそういうんじゃないけどな。なんていうか、こういうのって、ビビッてくるってあるだろ?」
 ビビッ…。
 「顔にこれまでの人生が現れるというか、この年になるとある程度性格とか考え方って、顔つきにでてくるじゃないか」
 「………」
 「実際、付き合ってみたら、思った以上に素敵な人だったし、この人とずっと一緒にいられたら、きっと俺は幸せに生きていけるんだろうなってさ」
 「………」
 「ようは、ベタ惚れってそういうこと?」
 弟のズバリと切り込むセリフに、兄が照れながらも臆面もなく肯定する。
 「まあ、そういうことかな?」
 「あらあら」
 「うへぇ、ご馳走様」
 母と弟がクスクス笑って、兄のノロケをからかう。
 その祝福ムードの中、ただ一人、総二郎だけは黙り込んでしまって言葉がでない。
 「…なんだよ、総兄。ずいぶん、静かになっちまってるんじゃないの?」
 「総二郎さんは、ここのところ多忙なお父様にかわって、茶会で亭主を務めることも多いから、お疲れなのよ」
 「そうかぁ?この間も海の見える公園で……」
 「孝……」
 余計な一言を母親の前で口にしようとした弟を、総二郎がおどろどろしい声音で押しとどめる。
 その目には、「余計なことを言いやがったら、お前のこともあることあること、暴露してやるから覚えていろよ」という次兄の無言の脅迫があって、孝三郎は引き攣りつつ愛想笑いで口ごもった。
 もちろん、そんな微妙な間など母親も長兄もわかっていたが、この家ではつつかれるとまずいことがありすぎて、互いに暗黙の了解は当たり前の気遣いでもある。
 
 「そうそう!一目惚れといえばさ」
 全員の視線が孝三郎へと向かう。
 それに気をよくして意気揚々と燥いでしまうのは、さすがに昔っから家族の注目を浴びてきた末っ子気質というやつだ。
 「お父さんが今打ち合わせしてる三倉さん?」
 どうやら都合の悪い話を変えようという孝三郎の機転だったようで、まさに、なんてことのない内容のない話。
 「あの人って、京都支部の長瀬さんと義兄弟じゃない?」
 「……ああ、確か、長瀬さんの妹さんを奥さんにお貰いになってたかしらね?」
 「そうだっけ?まあ、それはともかく、その長瀬さんの奥さんの甥っ子だか弟だかが、この間、こっちに上京してきてたよね?その時、うちに手習いに来てる女子大生に一目惚れしたらしくってさ、三倉さんを通じて見合いを頼んだらしいよ?」
 「あらまあ」
 目を輝かせて末息子の世間話に夢中になり始めた母親をよそに、総二郎の方は弟の下世話な話への関心が薄れ、同じく苦笑している長兄へと向き直る。
 「……兄貴さ」
 「うん?」
 「その、牧野と…」
 「つくしちゃん?」
 「………」
 自分だって時たま、冗談ぽく『つくしちゃん』呼ばわりすることもあるというのに、生真面目でおおよそ親しくもない女性を名前呼びすることのない兄が口にした呼び名に、衝撃を受ける。
 …そりゃそうか。
 わざわざ親にまで話すくらいなのだから、兄の本気などわかりすぎるほどわかっていた。
 それなのに、いまだ信じられない気持ちが強い。
 いや、信じられないのではない。
 信じたくないのだ。
 そんな当たり前のことに気がつかない総二郎ではない。
 だからといって、どうすればいいというのか。
 親友とは言え、つくしの結婚に関して、総二郎が口を出す謂れは何もないのだ。
 …口を出すだって?いったい何を?
 聞きたいことはたくさんあるのに、いざ、つくしを間に挟んで宣戦布告をしてきた男を前にすると何も言えない。
 その宣戦布告を総二郎は真正面から受けて立つことができなかった。
 しかも、その男とは実の兄なのだ。
 つくしが望むすべてを叶える条件を揃えた男。
 …平凡な生活。
 …心を乱されることのない平和。
 無欲な女だから、総二郎や…司が持つようなものを何一つ欲しがらない。
 いやむしろ、彼らが持つものをつくしは厭っていた。
 かつて彼女から愛する男…司を奪い去る原因となったそれらのものを。
 …俺にはそれがわかっていて、守ってやるなんて言えない。
 自分自身でさえ飲み込まれて、真っ直ぐに生きられずに逃げ続けてきたというのに。
 愛する女をその淀みに引きずり込むだけで…、それよりもなにより自分が信じられない。
 彼女を巻き込むことが怖い。
 彼女の顔が不幸に歪むのを見たくない。
 畢竟…いつか、彼と彼の背景に嫌気がさして、愛する女に去られる未来を怖れている。
 ありもしない妄想で臆病になった情けない男。
 だが、その見本…未来のつくしかもしれない女が目の前に存在するのだ。
 末息子のくだらない話にコロコロと笑って、いつもの冷然とした家元夫人の仮面を外した母が総二郎の視線に気がつき、首を傾げた。
 「総二郎さん?」
 「……いえ」
 PiPiPiPiPiPiPi、PiPiPiPiPiPiP、
 電子音が鳴って、心当たりの全員が懐を探る。
 「……悪い、俺だ。病院の方で急患みたいだ。話はだいたい終わったから、お父さんによろしく言っておいて」
 兄がソファから立ち上がった。
 「祥兄、来週からカノジョと婚前旅行に行くんだっけ?」
 「そう、…実は彼女のご両親には内緒なんだ」
 「ええっ!?」
 「それは…」
 「…………」
 仰天する一同に、いたずらっぽく祥一郎が笑った。
 「冗談…そんなわけないだろ?ご両親にはもう挨拶は済ませてるんだよ。お父さんがまた面白くて、娘をよろしくって両手をブンブン握り締められちゃったよ」
 「…………」
 「まあ、うちがこういう家だっていうのには、いろいろ思うところもあるんだろうけど、俺はもう家を出て医者として生活してる人間だしね」
 「そうだね、面倒を考えるとかえって兄貴みたいな立場の方が、相手も安心か」
 孝三郎の妙にしみじみとした言葉が胸をえぐる。
 「あ、てことで、マジで悪い、急ぐから。お母さんまた」
 「ええ、玄関まで送っていきますよ」
 兄が手刀を切って部屋を出てゆくのについて、母親も出てゆく。
 が…、
 「おっと、お前たちとはゆっくり話せなかったから、今度お前たちも時間とってくれよ」
 「ああ…わかった」
 「俺はいいよ。詳しいことはお母さんに聞けばいいんだろ?義姉になる人に興味はあるけど、堅苦しいのはごめんだな」
 「…こいつ」
 だが、末弟らしい言い草だ。
 「総二郎、お前は?」
 「…俺は詳しく聞きたい。明日辺り、兄貴が夜勤がないようなら、大学病院の近くまで出向くよ」
 「そうか、おススメのBARがあるから、そこで待ち合わせよう。じゃあ」
 今度こそ嬉しそうな笑顔を残し、立ち去った。
 後に残った孝三郎がポツリと呟く。
 「祥兄、ホント幸せそうだよね。俺らも…諦めなければ、好きな女と結婚してあんな風に笑えるのかな」





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