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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花②

昏い夜を抜けて396

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 「牧野…」
 何がそんなに信じられないのだろうか。
 見開いた目が瞬いて、驚いている。
 …他人からみたら、そんなに表情に変化があるわけじゃないんだろうな。
 いつの間にか、乏しい彼の表情の変化から、彼の気持ちが理解できるようになっていたことを自覚する。
 「そんなに驚かないでよ」
 「…だって、会いたかったんでしょ?」
 「……」
 その言葉に彼の中に、誤解があることを鈍いつくしも察した。
 けれど、司の提案…類の進退に関することでの半ば脅迫じみた言葉は伝えないことを心に決める。
 司と類は幼馴染みの親友なのだ。
 そうでなくても、つくしが間に入ったことでおそらく複雑な関係に陥っている。
 類が司をどう思っているのか。
 司が類をどう思っているのか。
 それは二人から何も聞かされていないつくしには知りようもなかった。
 だが、実際はどうなのだろうと、あれほど近しく信頼しあっていた二人を仲違いさせたいわけもない。
 …類が花沢物産を辞めるのなら、道明寺の提案は何の意味もないものなのだ。
 それに司の脅しも、どこまで本気なのかわかりかねた。
 …たぶん、本気じゃなかった。
 そう思う。
 「忘れられなかったんだよね?そう言ってたじゃん」
 類の問いかけに、つくしはそっと目を伏せた。
 …道明寺に会いたい。
 …彼に謝りたい。
 そう想い続けた年月をけっして忘れることはできない。
 「そうだね……忘れられなかった」
 自分の中の心の奥底を探り、司への想いをあえて口にする。
 …これは、必要なことなんだ。
 見ないようにしていたから、ずっとこだわらずにはいられなかった。
 一つの恋はもう終わったのだ。
 司への想いはもはや恋ではなく、同情と罪悪感に変わってしまっていることを自覚しなくては。
 「好きだった」
 「……」
 「気がついたら、好きになってた」
 「…牧野」
 つくしは手のひらを見つめて、グッと握り締める。
 かつてこの手にあったのは、過去の幼い思い出と悔恨だったのだ。
 「でも…それはもう過去の気持ち。道明寺を好きだと気がついた時が、あたしの恋の終わりだったんだと思う」
 実際にはつくしが別れを選んで、彼を裏切りあの雨の日に置き去りにした時に。
 司がつくしの言葉を受け入れ、彼女を追うことを諦め、彼女の行方を探すことをやめた時に。
 もうとっくに互いに手を離していた。
 そして、それをわかっていた。
 たぶん、司も。
 「……もう過去は戻らない?」
 つくしが言った言葉だ。
 一瞬、類の目に走った痛みにも似た何かが、静への想いであると感じたのは、単なるつくしの嫉妬だったのだろうか。
 たとえそうなのだとしても、それは誰にとっても同じ真理であり、平等に訪れる時の非情でもあった。
 どんなに悔やんでも、取り戻したいと願ったとしても…過去は過去。
 その願いはけっして叶いはしない。
 時は先に続いてゆくのみで、どんなに辛くても、人は前に進まなくてはならないのだ。
 「この手にね、今この手にあるのはさ、あんたへの想い。…あたしを見て微笑んでくれて、あたしだけが必要だと言ってくれたあんたへの気持ちだけなんだよ」
 「…牧野」
 戸惑ったような…どう反応していいのか困っているような類の顔に笑い出したくなる。
 なんでも見透かして、つくしを翻弄するばかりだった類がまるで幼い子供のように迷っている。
 けれど思い起こしてみれば、最初から…それこそ初めて出逢った高校生の頃から、彼はいつも愛情に関しては幼い子供のように手探りで一途だったのだ。
 写真に過ぎない静のポスターに口付けて、彼女の横顔だけしか見ずに、精一杯の愛を捧げ彼女を求めていた。
 ズキリと痛む胸は、きっと永遠に同じ想いに痛むことだろう。
 …あんたが道明寺に嫉妬するように、あたしも静さんに嫉妬せずにはいられない。
 当たり前だ。
 類が聖人君子ではないように、つくしもまた聖女ではないのだから。
 …でも、あたしは静さん、あなたを憎まない。
 嫉妬することはやめられなくても、確かに彼女もまた類という人間を救い、生かしてきた恩人なのだ。
 彼を愛したのならば、彼が愛したすべてを愛したい。
 彼が出会い、愛した人たちが、今の彼をカタチ作ってくれた。
 たとえそれが綺麗ごとにすぎなくても、あっという間に醜い感情に飲み込まれてしまうり偽善にすぎないのだとしても。
 身の内を満たす柔らかな感情…それこそが愛情なのだ。
 憎悪や恐怖ではなく彼と相対できる今の自分が、つくしは嬉しかった。
 嬉しい気持ちのままに類へと冗談まじりに微笑みかける。
 「だって、あんたがあたしの彼氏なんでしょ?…あたしは彼氏以外の男の人と会うような浮気者じゃないよ」
 やっといつもの彼らしくクスッと笑ってくれた類が、ソファから立ち上がって、つくしの横へと移動して腰を下ろしなおす。
 広いと思っていたソファが、日本人離れした体格の美丈夫が座ったことで途端に狭くなった。
 それでも、恋人がくっついて、優しく抱きしめてくれるその温もりと喜びを厭う女などいるはずがない。
 「……お前は俺とは違う」
 「類?」
 類が抱き寄せたつくしの頭のてっぺんに軽くキスをくれる。
 そして、頬に耳に、髪へと口付けて、その感触がくすぐったいとつくしは首を竦めた。
 それはなんて幸せな時間なんだろう。
 じんわりとした温もりと、クスクス笑い出してしまう楽しさと、…そしてドキドキとするときめき。
 「俺は牧野さえいれば、他は何もいらない。だけど、お前はそうじゃない」
 「…類」
 「でも、それでいいんだ。そんなお前だから愛してる。強くて逞しくて…でも弱くて、お人好しで温かなお前が好きなんだ」
 間近で見る類の顔は本当に愛しげで、ただでさえ美しい人が優しく笑う顔はなんて美しいのだろうと見惚れてしまう。
 綺麗な顔が、見えなくなるほどに近づいて、耐え切れず閉じてしまった瞼に唇の感触。
 その唇が次いで軽いリップ音を立て、つくしの唇を啄む。
 ゆっくりと瞼を開いた彼女の目に映ったのは、欲望に潤んで揺らめくビー玉みたいな薄茶色の瞳だけで。
 「お前を抱きたい」
 「…っ」
 「素肌で抱き合って、温もりを感じたいんだ」
 ストレートな求愛に、瞬時につくしの顔が火照って、血が上る。
 ドキドキと心臓が口から飛び出しそうだ。
 どれくらいの夜を彼と過ごしただろう。
 何度、熱く抱きしめられたのか。
 でもどれだけ彼に抱かれたとしても、永遠に彼の誘惑に慣れることなどできそうにもなかった。
 「ダメ?牧野」
 「……ううん、ダメ…じゃない」
 …触れ合いたい。
 もう子供ではなかった。
 だから、愛し愛され…心だけでなく体でも愛情を確かめあいたい。





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